たかが一撃。されど一撃。
『ゲームセット!勝者 騎龍学園!』
『いやぁ、見事な試合だったっすね!そして、今の試合で各ブロックの1位が決まったっす!』
『Aブロックは
Bブロックは闇和学園黒羽院チーム
Cブロックは
Dブロック龍騎学園牙龍院花奈チーム
Eブロック黄甲学園
Fブロック
Gブロック
Hブロック龍騎学園白夜チーム
と、なりました』
『これはなかなか…
『ええ、去年より熱い試合が見込めそうです』
やっぱりどこのチームもNo.1〜10の人が多いなあ。緊張する。
「涼香ちゃん!絶対優勝しようね!」
「はい!」
私たちが士気を高めあっているところにひとりの少女が現れる。
「おーおー、やっとるなぁ」
「輝夜さん……」
「ん?なんや、明日当たるからってそんなに鋭い視線送ってこなくてもええやん〜。………ついうっかり……」
そういうと、輝夜の体がブレ、気がつくと目と鼻の先にいる。
「手ぇ出してまうやろ」
「…………っ!?」
速すぎる………
目の前で鋭く眼を光らせる輝夜に知りたくて知りたくない事を聞く。
「輝夜さんは昨日羅青学園のNo.1と当たってたよね。あの時、全力でやってなかったよね。あの試合は何割の力でやってたの」
「昨日か。昨日は6割やな。やっぱ、ウチが本気でやれるのは師匠とだけみたいや」
口角を上げながら普段通りに飄々と答える輝夜は何かを思いついたように声を上げる。
「おお、せや。じゃあ、こうしようや。私たちも一人減らすから2対2でうちらに勝ったら、師匠の情報を一つ口を滑らせたる。これどうや」
「もし私たちが負けたら?」
「そんときは………ほれ」
輝夜さんはそういうと胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出し私に渡す。
その紙を開けると……
「転入届…………」
「そ、そんな…」
「そ、師匠は晴れて闇和学園の生徒や」
私と涼香ちゃんは絶句して言葉が出てこなくなる。
そして、輝夜さんはわたしからその紙を取り上げ大事そうにしまい込む。
「ま、うちもそろそろ時間やし行くわ。お互い頑張ろな〜」
手をひらひらさせて遠ざかる輝夜さんの背中をただ無言で呆然と見つめる。
もう輝夜さんとの試合は明日。涼香ちゃんは輝夜さんのあの速さを見て絶句したまま固まっている。
「涼香ちゃん。大変なことになっちゃったね」
「………はい。私は…試合前なのにあの人と対等に戦える気が全くしません」
「そうだね…輝夜さんは確実に、格段に、腕を上げてきてる。今までで一番手ごわいのは確かだね」
「私はあの人に勝てるのでしょうか」
私は少しだけ眼を見開く。ここまで涼香ちゃんが弱気になるのは珍しい。表情は乏しくとも発する言葉はポジティブなことはここ数ヶ月で理解している。
だからこそ!
私は涼香ちゃんのフニフニのほっぺを強めに叩く。戦いに優しさはいらない。
「涼香ちゃん!試合前からそんな弱気でどうするの!相手は強いなんて最初っから知ってるでしょ!?何を今更うじうじしてるの!勝てるものも勝てなくなるよ!」
「ふぁ、ふぁい」
「いい?私たちは絶対に勝つの。この黒闢祭で優勝するの。私達ならできる!いい?2度は言わないよ?」
「にゃんでしゅか?」
「涼香ちゃんは強いよ。私が高校一年生だった時よりも全然強い。それは、身体的にもだし精神的にも。この意外と負けず嫌いな私が言うんだから絶対!だから、いい?私たちは勝てる。シャキッとしなさい。勝つことだけを考えて。呼吸を整えて、眼はちゃんと相手を見て、耳を澄ませて、刀のちゃんと感じなさい」
「わかりました」
「よろしい」
よし。涼香ちゃんの目にはもう怯えは無さそう。
「舞先輩!今までの対戦のビデオ。見返しましょう!」
「うん。じゃあ、行こうか」
明日は絶対に負けられない。
_____________________________
『さぁ、とうとう黒闢祭も終盤!決勝トーナメントへと突入しました!』
『とうとうこの日がやって来たっすね!選手たちの激闘を経てこの時を迎えたっすからね!この決勝トーナメントでもどんな戦いが繰り広げられるのか今からワクワクが止まらないっす!』
会場のボルテージは最高潮を迎えようとしている。
『それでは、決勝トーナメント第一回戦第一試合に取り掛かりましょう!』
いよいよだ。涼香ちゃんは落ち着いた表情をしている。良かった。緊張はしてても身体は強張ってない。
『それでは、両選手!入場っす!』
巻き起こる大声援。他校でありながら激励してくれる人もいる。その声に片手を上げて応える。
「輝夜さん。私たちはあなたたちに勝って優勝します」
「へぇ、よう言うやん。昨日、本気の片鱗を見せてビビらせたつもりやったんやけど。もしかして、逆効果やったかな」
「かもしれないですね。まあ、何はともあれ。白星は頂きます」
「望むところや」
お互いに握手を交わし背を向けて所定の位置に着く。
「涼香ちゃん。調子はどう?」
「そうですね。好調…いや、絶好調です」
お互い拳を合わせる。
『それでは!第一回戦!スタートっす!』
「そんじゃ、よろしく頼むわ」
「じゃあ、頑張ってください!」
そう言うと、輝夜さんとチームを組んでいた
「ほな、こっからがスタートや」
「ええ。存分に斬り合いましょう」
各々が自分の刀の鯉口を切る。
「ほな、
「はい!」
そう合図が出されると、二人は直線に私たちの元へ向かってくる。
そして、
「じゃあ、涼香ちゃん行くよ」
「はい」
昨日、涼香ちゃんに喝を入れた後というもの、私の部屋で輝夜さんの戦いを見てクセや戦い方を研究していた。
その結果だと、奇策を重ねたところで全て対応されてしまう。後は、連撃の締めは突きが多く見られた。それに対応してしまえば勝機はある。
「絶対に!勝つ!」
気合いを入れ、このまま鍔迫り合いになるだろう。そのあとどうしようかと考えた………自分が甘かった。
刀を交えるそれより前にさながら雷が走ったような速度で横に飛んだ。
「なっ!?」
時橙さんに気を取られていた涼香ちゃんはその速さについていけず背中に鋭い蹴りを入れられ、吹っ飛ばされる。
「はなから狙いはそっちか!」
振り下ろした刀を持ち替え、蹴り終わった後の不安定なの状態にある輝夜さんの元へ急速に肉薄する。
「よっと〜、殺気がダダ漏れやで」
「あの体勢から今の避ける?普通」
「普通て、舞さん。師匠にどんだけしごかれたと思っとるん?あの人なら避けながら一撃入れとったで」
「くっ…………」
どうする?どうする?涼香ちゃんはやっと立ち上がり刀を構えたところだ。No.1とNo.2に同時に攻撃されるなんて今は受け切ることなんてできない。私がなんとかしなきゃ。
「ふぅぅ〜〜〜〜…………」
「ん?なん………」
「白夜流剣術舞の型」
大丈夫。完璧だ。頭がクリアだ。肺に残っているのは少量の酸素。無駄なものはいらない。
「
身体がブレる速さは輝夜さんの専売特許ではない。私だって出来ないことはない。
輝夜さんには私が空気に溶けいつのまにか目の前にいる。という状況を作り出せている筈だ。
輝夜さんの目の前に現れ、それを視認した時には上段に構えられた刀が猛威を振るう。
「よっと〜。舞さん。殺気がダダ漏れやで〜そんなん避けてくださいって言ってるようなもんや」
「くっ……」
「初動はゆっくりであとは身体強化で詰寄るって感じやな。そんなん通用すると思うか?もし思っとるんやったら、師匠のこと馬鹿にし過ぎやな」
その通りだ。世界最強の剣士であり、16歳にして世界を統べる私の後輩は全てにおいて伊達じゃない。試合で油断なんてしたらもうその時点で決着がついている。そんな人の弟子なんだ。
言い方はあれだけど、普通なわけがないか。オリジナルで行くしかないか。
「白夜流剣術舞の型 業火剣乱」
炎を纏った刀の連撃。体術もふんだんに使うこの技の隙は一切ない。
大気を熱で揺らしながら斬りつけと蹴り、突きや峰打ち。全てを繋げて乱れ撃つ。シンにもやったことがない技だ。
「へぇ、まためんどくさいもん出してきよったな。なら、私もやらせてもらうで」
私の技をさばきながら輝夜さんは言う。
「させない!」
加速しろ!もっともっと!隙を与えたらいけない。輝夜さんが力を出せないように攻め続ける。そうでもしなきゃ勝機は見えてこない。
『す、すごい猛攻っす!白夜舞選手怒涛の勢いで黒羽院輝夜選手に畳みかけている!』
どうする……負けるかな。ここで。シンがやったことの無い技なんてあるの?暑い。汗の量が尋常じゃない。
冷や汗か?はたまた剣から発する熱のせい?などと考えながら手を緩めずに剣を叩き込み続ける。
「せやから言うてるやろ?やらせてもらうでってな」
その言葉を聞いた瞬間に輝夜さんの刀は黒く染まっていく。
チッ…あの得体の知れない黒い魔力を纏った刀には触れちゃいけない。ここは1度距離を置く!
刀を交える前にバックステップで一時的に引く。
「ほお、ええ判断やん」
「それはそれは、輝夜さんに褒められるなんて凄く嬉しいね」
「思ってもないことを」
「さてと、あっちもそろそろ決着が着く頃やし、決めさせてもらうで」
輝夜さんがそう言うと取ったはずの間合いは瞬く間に肉薄される。
高速戦闘。そんな言葉も生ぬるい。しかし、本気を出しつつある輝夜さんを相手に戦況は転じて防戦一方。
つ、ついて行くのがやっとだ。涼香ちゃんの方を気にしてる余裕なんてないし反撃する隙もない…
激しく火花を散らす私の刀は衝撃を殺しきれず手を痺れさせる。
「ほら!反撃してこんのか!?そんな調子やと体力削られるだけやで!」
「っくぅ……」
防戦を強いられる中、私は思う。
____私は負けるのか。
ふと、弱気になる私を見逃してくれる輝夜さんでは無い。
一瞬緩んだ防御を刀を切り返す事でいとも容易く私の手から刀が離れていった。
「去年の方が何倍も楽しかったわ。今のあんたはつまらん。ホンマにつまらん。もう、これ以上は無駄や」
そう言って輝夜さんが刀を振り上げた__
__が、その刀は激しく刀がぶつかりあったであろう金属音と物凄い勢いで吹き飛んで行った何かによって動きがとめられた。
そして、私と輝夜さんが見る先には刀を振り抜いた状態の涼香ちゃんが1人肩を上下させながら佇んでいた。
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