幕開け

「いいか?予選については問題なく優勝できると思う。だから、予選の間に受け取った刀と に慣れておけ。これはこの大会で優勝するためには必須だ」

今、シン達はライトギアアリーナの控え室の一室にて順番を待っていた。部屋にはエアコン、扇風機、冷蔵庫、テレビなど色々揃っていて黄機の国が総力を挙げて作り維持していることが伺える。

「シンは2振り、私と涼香が1振りずつだね」

「私、上手く使いこなせるか不安です」

「大丈夫だと思うけどな。あんなに立ち回りの練習したし」

「そうですね。自分の技量とシンさんのチョイスを信じます」

「そうだね。シンのチョイスだもん。間違いないよね」

「はい」

「おまえらなぁ」

そう言うと、シンは短く息を吐く。それと同時に3人は向かい合う。


「シン、涼香。私のチームになってくれてありがとね」

舞は少しはにかみながら言う。

「おう。まあ、来なかったら俺から行くつもりだったから手間が省けた」

「ははは、ありがとね。シン。」


「無理言ったのは私ですから、先輩からの感謝の言葉は不要です」

「相変わらず涼香は変わらないね」


そして、舞は拳を突き出した。

「こう言うのやっとこうよ」

「いいね。乗った」

「いいですね。やりましょう」


3人の拳が合わさり、お互いを見る。

「私は2連覇のために」

「俺は肩書きのために」

「私はそんな2人と肩を並べられるように」


緊張するな。今年最後だもん。今年は優勝できるかな。いや、するんだ。そのために勇気をだしてシンを呼んだ。涼香だって剣さばきだけだとたまに勝てるビジョンが見えなくなる。行ける。このメンバーなら。


大きく息を吸い込んで、遥か未来の自分達を励ますように大声で。

「じゃあ!行こっか!」

「おう!」「はい!」


____________________

『さー、ついにやって参りました!赤コーナーから出てきたのは青苑の国、碧天学園へきてんがくえんの二年生チーム!』

『対する青コーナーは前回チャンピオンの白夜舞。そして、あの伝説の少年!牙龍院シンが居るチームっす!彼らはどんな戦いを見せてくれるのか楽しみっすね』


大地が震えるほどの大きな歓声と拍手の嵐。


「おぉ、なんかすげぇな」

「はい、ちょっと観客に気圧されそうです」


苦笑を口元に浮かべながらアリーナの中心へと向かう。そして、対戦相手と握手する。


「が、がががっ、牙龍院シン様っ。お、お会いできて光栄です」

「ああ、ありがとう。お互い全力でやろうな」

「は、はい!」


黒闢祭は、3対3のチーム戦。試合前には特殊な結界が張られ刀を顕現させるパフォーマンスから始まる。制限時間は15分。戦闘続行が不可能だと判断された者は、刀との接続コネクトを遮断され、それぞれ身につけた校章の装置により場外へと運ばれる。

15分が過ぎた時に引き分けと判断されるとパフォーマンスや剣技によりポイントをつけられその差で勝敗を決する。まあ、大抵そんなことは起こらないが。


「じゃ、魔力の無駄遣いと行きますか」

「シン、思ってても言わないの」

「はぁ、分かってるよ」

シンは投げやりに言う。

「じゃあ、私から行きますね」

そう言って一歩前に出た涼香がすらっと細い腕を前へ伸ばすと、会場は一気に静まる。


【光も届かぬ海底より静寂と共に顕現せよ。紺碧のその刀身に、新たな音を刻んでやろう。《海叉かいさの剣》】


涼香の小さな手に吸い込まれるように水飛沫と共に地面から現れたそれは、美しいの一言に尽きるような紺碧の刀。

その一連の動作は激しい演出があるはずなのに音はない。

刀の色にに音が吸い込まれたと皆が錯覚し、会場は少しずつ音を取り戻すように歓声で満たされる。


舞が前へ進む。


【来たれ刃風じんぷう。集え雷光。古より出でよ。そして、あの惨劇をもう一度。《風神・雷神》】


右手に緑の風を纏い、左手には煌々と光る雷を纏う。そして、独楽こまのように勢いよく回転すると風と雷は一筋の光となり双剣として舞の手に収まった。

涼香とは全く逆に、激しい音を立ててパフォーマンスを終える。

会場のボルテージも高まってきた。


「難易度上がったなぁ…。まあ、俺の目的には必要かな」


シンはわざとらしく大股で2歩前に出る。そして、このアリーナよりも高く浮かび上がる。


爛々らんらんと輝く満月よ、新たな芽吹きと共に沈め。其は白夜の光を喰らうもの。其は虹を断ち切るもの。目覚めよ、九頭龍のやいば。《千月刀》」


光学魔法で創り出された光の届かないアリーナに、蒼碧そうへきの月が現れ、暗転する。アリーナの中心から現れる幻影は、九つの頭を持つ龍だ。耳を裂く奇声を上げながら紅い光と共に昇る。そして、シンの元まで行くと体を翻し、会場を睥睨へいげいする。パフォーマンスとは分かっているからいいが、それでも迫力があり、威圧感すら感じるこのパフォーマンスに今まで高まっていたボルテージが爆発するかの様に会場が沸いた。


『こ、これは凄い…』

「い、一瞬本物かと思ったっす…』


「シン。やり過ぎ」

「そうか?これで得点も稼げるんだぞ?」

「シンさん。会場で失神してる人もいます。解説の人達なんて言葉を失ってるじゃないですか」

「この詠唱が一番が効果を発揮できるからそれに合わせたパフォーマンスだったんだがな」


『そ、それでは参りましょう!第一回戦!碧天学園vs龍騎学園。バトル〜〜!』

『スタートっす!』


「じゃ、予定どうりで」


シンがそう言うと、舞と涼香が前に出て刀を構える。


『おおっと、これはシン選手を温存すると言う作戦でしょうか』

『龍騎学園元ランク一位とセブンス持ちっすからね!一筋縄ではいかないっすよ!』



「よーし、涼香ちゃん。あれ行こうか」

「了解です!」


そして舞と涼香は二手に分かれて走り出す。

青苑学園の3人は迎撃の構えを取る。


舞は地面を蹴る時に小さく風の球を破裂させ推進力を得てスピードに乗る。一方涼香は、足元に水を生み出し摩擦をなくすことで地面を滑るように爆進する。


そして、3人と刀を交えたその瞬間、全員場外へ吹き飛ばされていた。


あまりの一瞬の出来事で会場が言葉を失っている。


沸き起こる歓声。


この時、手を上げて声援に応える2人は魔法の進歩の歯車を確かに回した。









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