戦いの地へ
ぼーっと飛行機の外を見ると真っ白な入道雲が見える。ちなみに積乱雲。別名入道雲がそう呼ばれるようになったのは昔の人が積乱雲を見て大入道と言う妖怪に似ていると感じたことから今まで呼ばれているらしい。昔の人の想像力は凄いと思う。
そんなことを考えていると隣からぬっと煉の顔が出てきた。
「シン何見てんだよ」
「いーや、何でもない」
そう言うと「そうか」、と煉は素直に引き下がる。すると前から雫と涼香が顔を出したが、すぐさま後から座りなさいと舞が喝を入れる。他のうちの生徒達も大勢乗っているためこの飛行機は騒がしかった。
「はぁ。始まるんだねー
「しーちゃん、まだ現地にすらついてませんよ?」
「そーだぞ雫。今からそんな調子じゃシンたちのチームに勝てねぇぞー」
と、嫌味混じりの声色で言う。
「うっさいわねー。分かってるわよ」
と唇を尖らせながら雫は不愉快とでも言いたげな顔を浮かべる。
「まあ、大丈夫だろ。花奈も居るし。なぁ?花奈」
「私も緊張してきたぁ〜」
「なんでよ!」
ここで舞のツッコミが炸裂する。
「まあ、最後だしなー。期待してるよ花奈」
「うぇ。シンは何でそんなに意地悪なのかしら。そんな子に育てた覚えは無いわよ」
「俺もそんなグータラな姉にした覚えはないんだけどな」
「それを言われると何も言い返せないからやめてぇー!」
シンの席に後から乗り出す花奈に「あんたも座りなさい」と舞が引っ張る。
そこで笑いが起こったところで後方から黒服で
「シンどーしたのー?」
「ちょっとこの飛行機が目的地の
「また例の会議があるのー?」
「そう。なんか今回みんな凄い顔してるらしいからちゃんと拝まないとな」
と、シンが言うと花奈があからさまに引いた顔をした。
「なんであんな超有名な人達にそんなことが言えるの…。シン怖い」
と言って壁際に寄ってみせる。そこで煉が「俺らいること忘れんなよ」とシンを小突きながら言う。
「で、その行かなきゃ行けないところってどこなの?」
「
「……すみません。シンさん。ちょっと聞き間違えかもしれないのでもう一度聞きますがどこ行くんですか?」
「だから、黄皇館だって」
「…はぁ。なんかリアクション取るのも馬鹿馬鹿しく思えてきた」
雫は額に手を当てながら言う。
「黄皇館って黄那の国の王家が住んでるところだよな」
「そーそー。そこに行くの」
「そんなに軽くいうなよ」
「まあまあ行くって言っても夜には俺らのホテルに戻るけどね」
「そこじゃないんですけどね」
雫と涼香と煉は疲れた様子で話を切り上げた。
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「ようこそ黄那の国へお越しくださいました。龍騎学園の皆さん」
「お、
「あぁ、シン様。ご無沙汰しております。シン様の車はあちらになります。私は彼らを見送ってから戻ってきますのでそれまで待機してもらえますか」
「了解です」
「いつものやつも用意してありますので」
「ありがとう」
そして、シンが舞を連れて車へ向かうと黄明さんは龍騎学園の生徒の誘導を慣れた手つきで始めた。
「ちょっとシン。なんであの人とあんな親しげなのよ」
「んー。普通に?」
「はぁ。あの伝説の参謀に向かってよくもまああんな口を」
「まあ、仲良くなる機会があってな。それからはこんな感じの態度で構わないって言うもんだからな」
そう言うと、舞がため心底呆れたように息をつく。
そして、用意された車につくとトランクに荷物を入れ車に乗り込む。
「そういえば、黄明さんが言ってたいつものやつって何なの?」
「あぁ、これだよ」
そして、シンが持ち上げたのは金色で模様が施されたティーカップだった。
「それがいつもの??中身は?」
「ん?紅茶だけど」
「黄明さん、紅茶淹れるのめちゃくちゃ上手くてさ、一度飲んでハマっちゃったんだよ」
「そんなに美味しいの?」
「まあ、クセがつよいけどね。飲む?」
舞が頷き、シンは「ほい」と言ってティーカップを渡す。舞の視線はカップとシンへを行き来する。
「………」
「おーい、舞?」
「え、ああ、ご、ごめん」
慌てた舞は一気に紅茶を煽る。まあ当然だが…
「あっつ!?」
シンは笑いをこらえている。舞は頰を紅潮させながらカップの縁に口をつけ飲む。
「ほんとだ。ちょっとクセが強いね。私苦手かも」
「でも、淹れてくれたんだからちゃんと飲めよ」
すると、ドアが開き黄明さんが乗り込んで来た。
「お待たせいたしました。では、出発いたしますね」
そして、車が走り始めしばらく談笑しているとこの国きっての大通りであるアクリプトストリート、通称黄道に出た。
「ここら辺は少しばかり騒がしいな」
シンは外を見ながら呟く。
「そうですね。後で来てみます。まあしかし、我が黄那の国で黒闢祭が行われるのは10年ぶりですからね。国民の興奮も熱気もいつもとは比べ物にならないですよ」
「そういえばそうでしたね。10年前のこの国は色々大変でしたからね。よく覚えてます」
「そうですね。特にシン様なんかは一番大変だったのではないでしょうか」
「そうかな?ほとんど戦ってばっかだったからその頃の記憶はあまりないなぁ」
「そうですね。私はあの頃のシン様を見て廃人になってしまうのではないかとヒヤヒヤしましたよ。あの頃の牙龍院家頭首様はシン様を道具としてしか見てませんでしたからね。しかし、今ではこんな話が思い出話に出来るほどシン様は強くなられましたから」
シンはそれを聞いて少し笑って言った。
「黄明さんにそこまで言われるとは思っていませんでしたよ。色々教えてくださったのはあなたですから」
「いえいえ、シン様の吸収力は本当に目を見開くものがありましたから。あと、そろそろつきますよ。降りる準備をお願いします」
そして、目的地の黄皇館に着くと黄那の国の御偉いさん方に迎えられ軽く世間話をした後、最上階の一室へと向かう。
最上階は大部屋一室だけとなっていてその部屋に入るとぴりついた空気が垂れ込めている。
「皆さん、今年はいつもより早く揃ったね。じゃあ、始めようか」
7人の各国の重鎮たちにシンはそう投げかけた。
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