戦いに向けて…
あの戦いから早くも1ヶ月以上が過ぎ、その話題も少しずつ色褪せてきた。今は花をつけた木も少なく青々とした葉をつけ始めてたそんな休日の午後。シンと舞と涼香は3人で集まって鍛錬をしていた。
「最近だんだん暑くなってきたな」
「そうね。そろそろこの訓練場も
「それがいいと思います。この室温だと熱中症になりかねませんから」
「二人とも水分補給はちゃんとしたか?」
「私は大丈夫です。いざとなったら口内に水を作ります」
「便利ねそれ」
ごくごくいつもの会話。だが、この訓練を見ている人からしたらもはや化け物としか思わないだろう。
シンVS舞、涼香の訓練にもかかわらずシンはちゃんと剣線をさばききり、舞と涼香もシンの反撃に対応する高速戦闘中の会話なのだから。
「ここら辺で一旦切り上げるか」
「そうしますか。流石に15分間ぶっ続けでこの訓練はきついです」
「あ、私、スポーツドリンク持ってきたよ」
「おー、舞ナイス」
そして、訓練場の端っこで訓練を見ていた一匹の小さい
「その子どうしたんですか?朝、突然シンさんが頭に乗っけてきてすごくびっくりしたんですが」
と、舞からスポーツドリンクを受け取りながらシンに尋ねる。
「あー、こいつは
シンがふと黒狼に話しかけるとそれは応えた。
「そうだね。ボクは精霊の類に入るね」
「お、狼が喋った!?」
舞が驚く中、舞からもらったスポーツドリンクを座って飲んでいた涼香がフラフラと立ち上がり1歩ずつジリジリと黒狼に近づき、目の前に来た時ペタンと座った。そして、頬を少し染め、口元の緩みを隠すことなく撫で始めた。
「この子、可愛いですね」
「……。あ、ああ、まあそうだな」
この動きは流石に予想出来なかった。びっくりして少し変な返答になってしまった。
「名前とかあるんですか」
黒狼が「ちょ、おい、やめろ」とか喚いているが、そんなことはなんのその。ずっと撫で続けている。
「名前はラグナロクだよな」
「そうだ。ボク達精霊はその影響力の大きさから名前が決められる。だから、ボクは北欧神話の終焉の名前が付けられた」
「ラグナロク。長いですね。じゃあ…ラグナロク……ラグナ…ナロク…んー、クロナなんてどうでしょうか!」
「聞け!小娘!?」
「クロナか。まあいいんじゃないか?まあ、どうせこいつに拒否権ないしな」
「主まで!?お前らはホンットにボクのすごさを理解していないな」
黒狼もといラグナロクもといクロナはそう言うとクロナの周りに魔力が溢れ出す。
そして、その魔力はクロナの周りを回り始め竜巻となる。その竜巻が晴れるとともに出てきたのは、よく夢に出てくる少女。まだ幼い面影を残すものの少しばかり発育のいい体つきをしている。
「ボクが黒極刀の精霊ラグナロ…『ゴンッ』
いったぁぁぁ。なんで殴るのさ!」
「いや、俺の魔力を盛大に使った罰だよ。アホか。こんな所であんなに魔力使いやがって」
「別にいいじゃないか!こーゆー大事なシーンは盛大にやるものだろう!?」
「良くねぇよ!アホか。この建物壊す気か」
「それも一興だ」
「ドヤ顔で言うなアホ。てか、そーゆーのは俺に勝ってからやってくんない?あれ?まさか、こうやって自分より弱いやつ見下して悦に浸ってる可哀想な子だったかな?」
「は?ボクは君に勝ったじゃないか。忘れたとは言わせないぞ」
「へぇー、奥義使ってやっと勝てたんじゃん。負け犬の遠吠えか?」
シンはクロナの頭を撫でながら挑発するようにいう。
「あー、もう頭にきた!今日という今日はボコボコにしてやる!」
「ほぉー、こりゃあ主としてちゃんとしつけなきゃだな」
「望むところさ。ボクが勝ったら一生様付けで呼ばせてやる!」
「ワー、クロナサマー」
「バカにしてるだろ。バカにしてるよなぁ!?なぁ!!??」
ギャーギャー言い合う2人をよそに除け者にされた挙句弱いと言われ、少しショックを受けている涼香と舞が呆然と2人が外へ出ていくのを見る。
「わ、私達もいくよ」
「あ、はっ、はい。行きましょうか」
「ねぇ、涼香ちゃん。シンってあんなに喋ったっけ?」
「いえ、あそこまでペラペラ喋っているシンさんは始めてみました」
「ていうか、地味に弱いもの扱いされたのイラッときたんだけど」
「それは私の場合言い返せないのでなんとも言えないのが悔しいです」
「ていうか、最高峰の精霊に勝つって何者よ」
「シンさん…何者なんですかね」
そして、涼香と舞がSD専用施設の隣に位置している屋外訓練場へ行くと、あまりの殺気に他の生徒たちが逃げているところだった。
すると、花奈が二人のもとへ走ってきた。
「舞ちーん、シンが酷いんだよ~。訓練場所奪われた~」
「まあまあ。私たちも弱いもの扱いされたからおあいこだよ。どーせ、すぐ終わるんじゃない?」
「んー、終わるかなぁ??」
「どういう事?」
「舞ちんも見てればわかるよ」
向き合うシンとクロナは互いの剣先を合わせる。
「古代の技を駆使して主を打ち倒そう」
「新しきを持ってお前を打ち倒す」
そして、2人は残像を残して戦闘を開始した。
シンとクロナの試合が終わりドヤ顔で立つのはシン。砂だらけになってうつ伏せで倒れてるのはクロナだ。
「あーぁあ、負けちゃったねぇ。また」
シンのS発言がクロナに炸裂し、「うっ!」と言いながら顔を上げる。
「ぐぬぬぬ、ボクはまだ負けてないぞ!本気を見せていないだけさ!ここには生徒が沢山いるからね!僕らが本気を出したら皆死んでしまうだろう!?」
が、必死の抵抗虚しく…
「じゃあ、結界貼ればいいじゃん。あれぇ?まさか、精霊最高峰のクロナが負けて言い訳?」
「う、うるさいわ!もう一回やればボクの勝ちは、目に見えているな」
「ほぉー、じゃあ、結界貼ってやろうか?」
「い、いや、ボクはちょっと疲れているから今日はもうやめておこう!」
クロナは見た目がもはや小学生並に幼い故にこの光景を見てほかの生徒達が兄妹の喧嘩のようでほっこりしたのは内緒である。
「ま、今日のところは辞めといてやるよ」
「う、うむ。そうするがよい」
「なんでお前が偉そうにしてんだよ」
シンがクロナの偉そうな態度を見て苦笑いを浮かべていると花奈と舞、涼香が駆け寄って来た。
「シンー、みんなの訓練の時間奪ってまで何やってるのー」
「いや、花奈。俺は悪くない。こいつが悪い」
「な、あ、主!?」
シンはクロナに指を指し、いうならこいつへ。そう言ってあくびをしながら満足そうに室内へ戻って言った。
「まったくシンは」
その姿を見送った花奈は腰に手を当てながらため息をつく。
「花奈〜」
「おー、舞ちーん。やっほー、どしたの?」
「シンってさ、あんなに喋ってたっけ?」
「あー、シンはね色々あって無意識に警戒心を持っちゃうんだ〜。心を許した相手にしかあーやって……」
とまで言ったところで花奈は気づいた。やれやれと呆れているポーズをとっているときに涼香と舞がジリジリと近づいてきて今や、目と鼻の先にいることを。
2人がものすごい剣幕なのはまあいうまでもないかもしれない。
「つまり、シンさんは入学から2ヶ月以上たっているのに私たちに心を許していないということで間違い無いですね?」
「私の場合、花奈と仲良くなってシンとも知り合ってから約2年経つけどぜんっぜん心を許してなかったということでいいんだよね?まあ、花奈はあーやって接してもらってるんだよね?」
「あ、当たり前だよ。家族だし…」
涼香と舞のオーラに当てられ滂沱の汗を流す花奈の目の前で2人は頷き合い、シンの後を追う。
シンの鈍感さも相まって「やけに気合入ってるな」としか言われなかった2人はシンとの距離を縮める道のりは遠そうだな。と、こっそり対戦するかもしれない3人の偵察に来た花奈は思った。
しかし、気合の入り方が尋常じゃない涼香と舞に事情を聞き出し花奈がボコボコにされる事をこの時の花奈は知らない。
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