激情の決戦(前半)
「転送っ!!」
涼香が剣を地面に突き立てると光の粒が集まり魔法陣の中には黒鉄彩月の姿があった。
「あれ?私、今学校にいたはずなんだけどな」
「転送魔法だよ。黒鉄彩月」
「そっかー、バレてたかぁ」
パチパチパチ…
「やっぱり来てたんだな。シールス・クラッツ」
「お久しぶりです。牙龍院シンさん。やはりあなたにはこれくらいはバレてしまいますか。来なさい彩月」
こくりと彩月が頷きクラッツがいる空中へと浮遊した。
「ほー、仲良いんだな」
シンは悠長に率直な感想を言う。
「私は部下を大切にするタイプでしてね」
「とてもそうは思わんけどな」
「それはそれは。しかし、牙龍院シンさんは本当にお強いですねぇ。その技術、精度。いやぁ、私達側について欲しいものですね」
「それは無理な話だなぁ。なんせ俺は世界最強なもんでね」
「そうですね。じゃあ、彩月始めましょう」
「はい」
そうすると、事前に設置されていたのであろう魔法陣が展開され、瞬く間にまばゆい雷撃がシンを襲う。
「当たった。…けど」
砂埃が舞い上がる。シンの体を撃った雷はすぐに消え彩月は無情にも次々とシンに魔法を放った。
が、それは全て光の粒となり消える。
「そんなんで倒せると思ってるの?あんまりなめんなよ?」
そう、シンが言うと空中にいる彩月を肉薄した。
常人には目で追えない速度でシンと彩月は切り結ぶ。
「うん。やっぱりおかしいな」
シンはゆっくり地上へ戻った。
「ちょっとー!!彩月!!何であんた裏切ったのよ!」
雫が声を上げた。その声には怒りが込められていた。
「えっと、雫ちゃん。一応言っておきますけど全員が全員同じ正義を持っているとは限らない。あなたからしたら私達は悪に見えるかも知れないけど、私は今の自分は自分の正義を貫いていると思う」
彩月が言い切ると雫が「でも…」と、言葉を詰まらせた。
「行くぞムゲン刀」
高速戦闘を繰り広げたにも関わらず当たり前のように立っているシンがそう呟くとシンの体の後ろに無数の刀が生まれた。
「行け」
それぞれの刀が風を切りながら爆進する。
キィン、と激しい金属音が途絶える事なく鳴り響いた 。
彩月は黒鉄流独特の腰の捻りを生かし全てを撃ち落としていく。
「やっぱりダメかぁ。じゃあ、これでどうよ」
と言うと刀が放たれた。
「速いけどそんなのじゃ私は負けないよ」
豪速の刀を2本撃ち落とした彩月はその後を知っているかのように身を翻した。
「読めてるよ」
2本撃ち落とした。
「じゃあ、これは読めたかな」
シンがそういうとシールス・クラッツが目を見開いて叫ぶ。
「彩月!!避けなさい!!」
そう言われたと同時に彩月は首に風を感じた。そして、透明化の能力を失った
「バカなっ!?なぜ不可視の首輪に気づいた!?」
「そりゃ分かるだろ。魔力がほんの微量漏れてるからな。まあ、こっちも見えないって点ではやり返したし。どーよ、これで解除…できてないみたいだね」
一呼吸おいて落ち着きを取り戻したシールス・クラッツはシンに向き直る。
「ええ、もちろんですよ。貴方が首輪を見破ることなんて織り込み済みです」
「おぉ、俺って結構買われてる?」
「逆にあなたの剣と魔法の腕を買わない方々を見てみたいものですね。そろそろ戯言なしの真剣勝負と行きましょうかね」
そうシールス・クラッツが言うと、彩月はゆっくりと地面に降り立つ。
彩月は刀を握り直し、剣先をシンに向ける。
「『ムゲン刀』!」
シンが刀に呼びかけると、それに呼応する様に背後に無数の刀が展開される。
「全力で行きます」
彩月が呟くとすぅ…、と息を吸った。
「『歩月』」
彩月がそう呼んだ技は、黒鉄家常勝の技。
その規則的に繰り出されるその技は、これまで多くの敵を
「そんなに初っ端から黒鉄家の常套手段使うんだ。やめて欲しいなぁ」
「じゃあ、そんなに軽く
『歩月』。この規則的に繰り出される技が何故多くの敵を屠ってきたか。それはレパートリーの多さ。約45の手順があり、黒鉄家は何番目の技からでも繰り出すことが出来る。
過去に『歩月』のパターンを覚えた人間もいたが、すぐさま対応することが出来ず討ち取られた、という話もあるほどだ。
「『歩月』のちゃんとした攻略法も知ってるなんてどういう事?」
「ん?あぁ、自分で研究した」
「そんなに軽く言ってのけるけど…。まあ、牙龍院なんて化け物ばっかりっていう話だし、仕方ないのかな」
「まあ、そうだな。間違ってはない」
傍から見たら完全に引かれるであろう高速戦闘中の駄弁り。
シンが生み出す無限の刀に対応しながらもシンの剣さばきも往なす。ここまで出来る同年代は本当にわずかだろう。
そう思うとシンはため息が出た。
「何?ため息なんかついて。私じゃ物足りなかった?」
そう彩月が言うとシンは本題を切り出した。
「彩月。お前の母親は元気か?」
その一言を聞いた瞬間、彩月はシンの刀を弾き向き合った。
「なんでその事知ってるの」
「悪いが調べさせてもらった。《グラビティー・ゼロ》になんて条件を出された?まあ、答えは簡単だよな。『牙龍院シンを殺せ。そうすれば、お前の母親を助けてやる。』違うか?これはあくまで俺の推測だ。違うなら違うって言ってもいいぞ」
「………合ってるよ」
「やっぱり…か」
シンが話そうとした時、彩月の中で今まで留めていた何かが決壊した。
「……たないじゃん。仕方ないじゃん!!私のお母さんは私を一人で育ててくれた!誰よりも優しくしてくれた!そんなお母さんが突然倒れて、どうすればいいのかわかんなくなった!もう、どうすればいいのかわかんなすぎて、現実を受け止められなくて涙すら出てこなかった!私だって…私だって!こんなことしたくなかった!!なんで好きな人と敵対しなきゃ行けないの!?あの上で高みの見物してる偉そーな男と出会ってから体が勝手に動くんだよ!さっきだってそう!もう私は私じゃないの!」
彩月は吐き出した。今の感情の全てを。そして、諦めたように、自分を嗤うように、少しだけ
「もう、何したらいいのかわかんないよ」
そう彩月が呟くと、再び刀を握りしめてシンに斬りかかった。
「_____ッ!?」
さっきとは比べ物にならないくらいの鋭さを持った剣撃がシンを蹂躙する。そして、シンは悟った。これで最後になる、と。
「あぁあああぁぁぁぁあああああああああ」
そして、彩月は全てを込めた。
体の捻りと遠心力によって最大限にまで引き出された威力、今までの悲しみ、苦しみ、怒り、学友との楽しかった思い出、胸に抱いていた淡い恋心。何より、母親への感謝。そして、謝罪。
彩月は母が生み出した技を吠えた。母親に聞こえるように。想いが届くように。
「黒鉄流黒鉄卯月秘伝!『
「牙龍院流我流秘伝『
彩月から放たれたのは、桜を思わせる華やかなピンクの三日月の斬撃。
それを、内側から
魔力が反応し合い、
それでもなお、よろめきながらシンに斬りかかろうとする彩月にシンは頭部に刀を
それでも、傷が付いたりすることはない。
そして、彩月は弱々しく倒れ込んだ。
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