第2話 空け者 信長

時代は戦国時代なのだが、技術力は現代よりも高く、宇宙にも行けるほどだった。

世界の核戦争に巻き込まれ、地球は放射能に包まれてしまった。

各国は、領土を地球から切り離し、ロケットエンジンで打ち上げた。


人類は、宇宙に出たのだ。



宇宙歴史0年。


人類は、宇宙に出ても戦いを続けた。

新型兵器、宇宙鎧侍を開発して、全宇宙の覇権を争うようになってしまった。


人は、滅びなければ、戦うことを止めないのだろうか?



ここは、宇宙尾張。


宇宙尾張とは、地球の尾張領の全体を大きな壁で覆い、空気を保てるようにしている。人類は、宇宙生活を送るだけの技術力を身に着けていた。



宇宙尾張の中にある織田家の屋敷である。


「アッカンベ!」


一人の男の子が廊下を走って逃げていく。これが織田信長である。


「こら! 待て! 信長!」


それを追いかけるのが、妹のお市である。


「待てと言われて、待つバカはいないよ!」


信長は、いたずら好きの悪ガキだった。


「痛っ!? 誰だ!?」


信長が何かにぶつかった。


「父上!?」


信長がぶつかったのは、父親の織田信秀だった。


「この、空け者!!!」


信秀は、息子の信長に対して怒っていた。空け者(うつけもの)とは、愚か者ということである。


「ギャア!?」


父、信秀は、信長を捕まえて、拳で殴る。信長の頭には大きなたんこぶができた。


「覚えてろよ!」


信長は、アッカンベ! して、逃げ去って行く。


「信長は、いたずら好きで困るわ!」

「空け者は、今度は何をやらかした?」

「お団子を、みなさんにと思って作っていたら、信長がつまみ食いしたのよ!」

「まったく困ったものだ。少し宇宙に詳しいからと、調子に乗りおって!」


信秀とお市は信長に呆れる。



「クソ! 父上め! よくも殴りやがったな!」


信長の頭は、父に殴られて、まだいたそうだった。


「こうなったら、この信長さまの実力を見せてやる! ウッシシシ!」


信長は、良からぬことを思いついた。



その頃、宇宙尾張と宇宙三河の境。


「ここからが尾張か。」


人型ロボットの宇宙鎧侍が5体、尾張領に侵入しようとしていた。肩には、足利二つ引の家紋が書いてあった。この家紋は、今川家の者である。


「氏真さま。」

「なんじゃ?」

「父上に勝手に、尾張に侵攻してもよいのですか?」

「元康、黙れ! これは偵察だ!」

「失礼しました。」

「元康、井伊家ども! いくぞ! 宇宙尾張へ!」

「おお!」


駿府の今川家が、大名、今川義元の息子、今川氏真が尾張に攻め込んできた。


人型ロボットの名前が、宇宙鎧侍。基本、肩には、どこの国の機体か分かるように家紋が入っている。外見は普通に鎧を着た人型ロボットである。


宇宙鎧侍の鎧のカラー・色は、イメージとして、橙色・オレンジにしよう。隊長の今川氏真は、濃い色のオレンジ。お付きの松平元康は、普通のオレンジ。これが武将クラス。井伊家の3人の乗る宇宙鎧侍は、薄いオレンジとしておこう。


鎧のデザインが、アニメ化やプラモ化、フィギア化されると成功するポイントなんです。所縁のある鎧のデザインか、オリジナルのカッコイイものに、メカニックデザイナーさんが書いてくれることを願う。


宇宙鎧侍は人間の3倍から5倍の大きさ。武器は、日本刀と弓。背中に小型のロケットエンジンが付いている。それで宇宙空間を移動している。。


地球にある尾張を宇宙に打ち上げる技術力はある。しかし、ビームサーベルとビームライフルは無い。武士のプライドか? 単に技術が無いとは言えない。しかし、今は置いておこう。



「これが清州城か、もうすぐ完成だな。」


ここは織田家の宇宙戦艦ドック。


「父上、宇宙戦艦化は完成していますよ。あとは宇宙に飛び立つだけですよ。」


信長の父、信秀と妹、お市が会話をしていた。


宇宙戦艦、清州城。本作品では、領土にあるお城に、ロケットエンジンを付けて、日本の歴史あるお城を宇宙戦艦にした。宇宙歴史の素晴らしい技術力である。


「あとは新型の尾張の宇宙鎧侍を乗りこなせる者が現れてくれれば。」

「新型の宇宙鎧侍には、乗り手の心に反応する、侍魂システムが実装されています。強い心の持ち主なら、乗りこなすことが出来るでしょう。」

「尾張は天下を統一できるかもしれん。」

「父上、天下を統一するんですよ。」

「ハハハハハ~♪」


信秀とお市は、天下を統一するという夢を描いていた。



ドカーン!!!


その時、何かが爆発する音が聞こえ、衝撃でお市の体が吹き飛ばされる。


「何事だ!?」

「殿! 一大事です! 今川が攻めてきました!」

「なんだと!? すぐに宇宙鎧侍を迎撃に向かわせろ!」

「はい!」


さっきの爆発音は、今川が宇宙尾張の外壁を破壊して、尾張領に侵入してきた。



「うわぁ!?」


信長も爆発で体が引き飛ばされる。


「い、今川が、今川が攻めてきたんだ!?」


信長は、直感的に今川が攻めてきたと、敵を把握する。


「クソ! 俺が倒してやる!」


信長は、地面を拳で殴ってから立ち上がり、宇宙鎧侍工場を目指し、駆けていく。



「よくやったぞ、元康。」

「は。」


松平元康が迎撃にきた、尾張の宇宙鎧侍を2機同時に日本刀で切り倒す。


「尾張の実力は、こんなものか? ハハハハハ!」


今川義元の息子の氏真は、尾張の宇宙鎧侍が弱くて、バカにして笑っている。


「井伊家の者どもは、尾張の町中に侵攻! 元康は、私を守れ!」


氏真の指示が下される。元康には自分を守らせ、別に倒されてもいい、井伊家の3機の宇宙鎧侍に先陣を言い渡す。


「皆の者、尾張を征服するぞ! 我々5人だけでも十分だ! ハハハハハ!」

「おお!」


氏真は、完全に尾張を我が物にし、手柄を立てられると慢心した。



「キャア!?」


宇宙尾張の町中は、今川の宇宙鎧侍に破壊されていく。尾張の民は、悲鳴を上げながら逃げ惑う。


「みんな! 防空壕に逃げるんだ!」


尾張の兵士が、民を逃がそうと必死に誘導する。


ドカーン!


今川の宇宙鎧侍に尾張の町は、破壊され火の手があちらこちらであがっている。


「クソ! 今川め!」


信長は、逃げる民とは反対方向にある、宇宙鎧侍の工場を目指して走る。



「これで尾張は、今川の物だ! ハハハハハ!」


今川氏真は、有頂天だった。氏真は、松平に守られて、安全な所にいて、自ら戦闘はしない。今川義元の息子も、駿府のバカお坊ちゃまだった。


「殿、戦とは何が起こるか分かりません。油断なさらぬように。」


松平元康は、氏真に注意する。


「黙れ! 元康。この状態で、負けようがないではないか。ハハハハハ!」

「殿・・・。」


松平の進言は聞き入れなかった。松平は、順調すぎて嫌な予感がした。



「あるじゃないか!? 尾張の宇宙鎧侍!?」


信長は、宇宙鎧侍工場にたどり着いた。赤い鎧を着た、尾張の新型の宇宙鎧侍があった。今までの旧式の尾張の宇宙鎧侍とは見た目からもクオリティーの違いが分かる。


「ダメですよ! 若! そいつはテストも終わってないんですから!」


メカニックのサルこと、木下藤吉郎が信長に注意する。


「なら、俺がテストしてやる!」


信長は、新型の宇宙鎧侍のコクピットに駆けていく。


「若!?」


サルが名前を呼ぶが、信長は止まらない。とりゃあ! っと、宇宙鎧侍のコクピットに飛び乗った。



「新型か・・・俺にできるか?」


信長は、コクピットで不安だが、必死に操縦しようとする。


「クソ!? これはどうやって動かせばいいんだ!?」


信長は、空け者と言われるぐらい遊びほうけていたので、宇宙鎧侍の操縦などしたことが無いのだ。


「尾張の町が無茶苦茶になってしまう! 動け、動け、動いてくれ!」


なかなか動かない宇宙鎧侍に、信長の尾張を守りたいという気持ちが高まる。


グイン! グイグイグイン!


信長の気持ちが通じたのか、宇宙鎧侍が動き始めた。新型の宇宙鎧侍に実装された、侍魂システムが、信長の尾張の民を、街を救いたいという思いを感じ取る。


「やった! 動くぞ!」


信長は、新型の宇宙鎧侍を動かすことに成功した。


「若! 新型の宇宙鎧侍は、乗り手の心に反応して、操縦を補助してくれます!」


コクピットに無線で、メカニックの家来が連絡してくる。


「俺の心が分かるのか!?」


信長は、ロボットが人間の心が分かるということに疑念を抱く。しかし、尾張の空け者は、そんなことはどうでもよかった。


「行こう! 一緒に今川をぶっ飛ばすんだ!」


宇宙鎧侍の目が光る。信長が今川を倒したいという気持ちを、侍魂システムが感じ取る。ついに動き出した尾張の新型の宇宙鎧侍。


「若! 新型用の日本刀と火縄銃を持って行ってくださいよ!」


サルの声に、信長は気づく。


「あれか?」


信長は、真新しい日本刀と火縄銃を持つ。


「これが新型の武器!?」


明らかに、今まで見たことがある日本刀と弓とは違った。


「若! 頼みましたよ!」

「サル! 任せろ! 待っていろよ! 今川め! 俺が倒してやる!」


信長は、打倒、今川に燃えていた。


「信長、出陣する!」


信長を乗せた、新型の宇宙鎧侍は、宇宙鎧侍工場を飛び立った。



技術開発力。


各国は、ロケットエンジンを開発した? 開発できた国から膨大なお金で買った。または中古か古いタイプを安く買った、横流し品を買った、・・・盗んだ。


駿府、遠江、三河を領土にしている今川家には、新型のロケットエンジンを開発する技術力はあるだろう。戦国時代のセレブであった今川家は大金持ちである。きっと技術開発に回すお金もあっただろう。


一方、尾張の織田家。未だに尾張は内乱の最中。世界の核戦争で地球が汚染され、一時的に織田家同士の戦いを止め和議を結んで宇宙に出た。しかし、織田家は終わりで一族同士の内乱をしているということは、国力を浪費するだけなので、兵士も死に、お金も無くなり、国力は衰えていく。技術開発力も良くなる訳は無い。


憶測。


ここで、空け者の織田信長だ。実はロケットエンジンを他国から盗んできた? 実は新型の宇宙鎧侍の開発に関わっていた。これから火を噴く、新型の宇宙鎧侍の新兵器、火縄銃の開発を支持していた。これを隠すために、いたずらをして、空け者を演じてい、自分の真の姿を隠していた。


しかし、これではストーリーとして成立がしない。最初から強者にしてしまうと、弱者の共感や葛藤は無くなってしまうからだ。


この辻褄を合わせるために、脳みそをフル回転させ、アイデアを考える。



「尾張なんか大したことがないな!」

「駿府の技術力を持ってすれば、尾張なんか、敵じゃないぜ!」

「父上、直親、油断するなよ!」

「なおは心配性だな。」

「見てみろ! 織田の旧式の宇宙鎧侍なんか、簡単に倒せるぞ!」

「ハハハハハ!」

「父上、直親・・・。」


今川勢の井伊家の3体の宇宙鎧侍が、尾張の町を破壊しながら進む。パイロットは、井伊家当主の井伊直盛。あと婿養子候補の直親。当主の娘のなおである。娘の正確な名前は現在、不明らしい。この作品では、なおにしておこう。


「やむを得ん! 清州城を尾張の町中に発進させろ!」

「ダメです! 父上! お城戦艦を宇宙尾張の中に発進させるなんて!? 町が壊滅してしまいます!?」

「ええい!? なら、どうしろというのだ!?」


信秀、お市は、今川の宇宙鎧侍の対応に四苦八苦していた。


「あれは!? 終わりのお城戦艦ドック!?」

「お城を落とせば、尾張も今川の物だ!」

「父上、直親、尾張の民に罪は無い、もう止めとこう!?」

「なお、ここで手柄を立てれば、井伊家は安泰じゃ!」

「そうだ! 破壊せずに、占拠してしまおう!」

「おお!」

「父上、直親・・・。」


今川の宇宙鎧侍のパイロットたちは、尾張の宇宙戦艦、清州城のある、お城戦艦ドックに向かう。



人型ロボット、宇宙鎧侍の技術力。


今川家。


お金持ちで、宇宙鎧侍の開発も順調である。軽装の旧型の宇宙鎧侍から、鎧を装備している普通の宇宙鎧侍を開発することに成功。普通の宇宙鎧侍の量産に着手している。


それどころか、武将クラスが乗る、宇宙鎧侍は、普通の宇宙鎧侍より性能が10%か20%は上乗せされてある。


大将機、今川氏真の宇宙鎧侍も性能は良いのだが、氏真がバカなお坊ちゃま、バカボンであるために、今川氏真専用の高性能機を操作しきれない。


武将の松平元康機は、元から高性能であるが、松平専用の宇宙鎧侍は、普通の宇宙鎧侍より50%は、高性能な期待に仕上がっている。ロボットいじりが趣味の元康が、自ら宇宙鎧侍をチューンアップしたのだ。


織田家。


内乱貧乏の織田家にお金も技術力もない。所持している宇宙鎧侍も、軽装の旧式の宇宙鎧侍ばかりであった。


憶測。


なぜ今回、技術開発力もない織田家で、新型の宇宙鎧侍を開発できたのか?


ここで、空け者の信長である。普通に真の姿を隠していた節では、王道・ありふれ・パクリ・リスペクトで、アニメ化でも採用されるのだが、オリジナル性はない。


2重人格説もいいのだが、ここまで織田信長を、少年のいたずら、葛藤・想い、素人パイロット風に描いたきたのが、裏目に出る。人型ロボットの宇宙鎧侍を開発するには、多くの人間が関わっているはずだ。今まで、そのことを誰も信長に触れないのは、やはり無理がある。


さあ、どうすれば話が無理なく進むか、分かってきましたね。



「おお!? あれが織田の新造お城戦艦か!?」

「清州城のようでございますな!」

「父上、直親、危ないからやめておこう!」

「ここまできて、やめられるか!」

「そうだ! 怖かったら、なおは見張りだけやっていろ!」

「父上、直親・・・。」


ついに今川勢の井伊家の宇宙鎧侍が、織田家の宇宙お城戦艦ドックに近づいた。


「キャア!?」

「敵だ!? 敵襲だ!?」

「今川が来たぞ!? 今川だ!?」


織田の兵士は、敵襲に逃げ惑い、パニックに陥る。


「みんな! 落ち着け!」

「このままでは、今川に攻め滅ぼされてしまう!?」


織田信秀と娘のお市には、今川の猛攻を止める術が無かった。


「新型の宇宙鎧侍が動いてくれれば・・・。」

「父上、こうなったら、私が新型に乗ります!」

「お市、おまえでは無理だ。あれには・・・うわ!?」

「キャア!?」


信秀とお市が策を練っていると、衝撃と振動が走り、2人はバランスを崩す。


ドカーン!


信秀とお市がいる宇宙お城戦艦ドックの壁が壊され、今川の宇宙鎧侍が現れる。


「い、今川の宇宙鎧侍!?」

「父上!? 大丈夫ですか!?」

「うおお!?」


壁の瓦礫が信秀を直撃して下敷きになってしまう。お市はなんとか、瓦礫を退けようとするが、ビクともしない。


「お市、私を置いて逃げろ!」

「父上を見殺しにするなど、できません!」


信秀とお市に今川の宇宙鎧侍が迫る。


「あれは!? 織田信秀!?」


今川の宇宙鎧侍に乗る、井伊直盛に身動きが取れない、信秀とお市が見つかる。


「織田信秀! 見つけたり! 直親! 信秀の首を取るのじゃ!」

「はは! 直盛さま!」

「死ね! 信秀!」


信秀とお市に、今川の宇宙鎧侍2体が近づき、刀を振り上げる。


「敵将の首、打つ取ったり!」


直親が、振り上げた刀を振り下ろそうとした。


バキューン!


何かの爆発音のようなものがした。


「うわあ!?」


直親の宇宙鎧侍が爆発した。刀を振り上げていた手は、見事に吹きとばされた。いったい何が起こったのだろう。


「大丈夫か!? 直親!?」

「はい、直盛さま。しかし、いったい何が!?」


直盛も、直親も、何が起こったか、分からないでオドオドしていた。


「父上、直親、あれをご覧ください!」


その時、なおが何かを見つけて、その方向を指さした。


「なんだ!? あれは!? 赤い宇宙鎧侍!?」

「あの武器はなんだ!? あれが何かを撃ったというのか!?」


直盛と直親は、なおが指さす方を見た。見たこともない赤い宇宙鎧侍が火縄銃を構えている。当時、火縄銃、鉄砲、種子島は、まだ珍しかった。そのため井伊家の者どもは、赤い宇宙鎧侍の武器を理解できなかった。


「あ、あれは・・・。」

「父上! 織田家の新型の宇宙鎧侍が動いています!」


信秀とお市も新型の宇宙鎧侍が起動しているのを確認した。


「おお、すばらしい!」

「助けに来てくれたのです! 援軍がです! 父上!」


信秀とお市は、救援が来て、助かったと安堵した。


「今川の好き勝手にはさせないぞ!」


赤い宇宙鎧侍を操縦している信長は、今川勢の宇宙鎧侍を倒す気に満ちていた。


「当たれ!」


信長は、チャージが終わった、火縄銃の2発目を撃とうとする。


バキューン!


信長は、火縄銃の引き金を引いた。火縄銃から光エネルギー弾が放たれる。


「うわあ!?」


弾は、直盛の宇宙鎧侍を直撃。火縄銃の弾は宇宙鎧侍の鎧を貫通した。


「なお!? 直親!?」


直盛は、何が起こったのか分からないまま、最後の言葉を言う。


ドカーン!


直盛の宇宙鎧侍が爆発した。一瞬の出来事だった。直盛の命はこの世から消えた。


「父上!?」


なおは見てしまった。父親が尾張の新型の宇宙鎧侍の放った、弓でもない、火を噴くようなものの1撃で、この世から消える姿を。


「直盛さま!?」


直親も、直盛が死ぬのを見た。どうすることもできなかった。ただ無意識のうちに体が震えていた。


「すごい威力だ!?」


信長も火縄銃の威力に驚いた。


「やった! 今川の宇宙鎧侍を倒したんだ!」


信長は、やっと自分が今川の宇宙鎧侍を倒したという実感を得る。


「見てください! 尾張の宇宙鎧侍が、今川の宇宙鎧侍を倒しましたよ!」

「ああ、そうだな。これで尾張は救われる。」


宇宙鎧侍の爆発の爆風が残る中、信秀とお市は、尾張の新型の赤い宇宙鎧侍の活躍を頼もしく見ていた。


「よし! あと2体も倒してやる!」


信長は、直親となおの宇宙鎧侍をターゲットにする。


「父上・・・。」


なおは、父、直盛が殺され、放心状態であった。


「なお! なお!」


直親は、尾張のお城戦艦ドックから離れ、なおの元に行き、動かないなおの宇宙鎧侍を掴み、グラグラ揺らす。


「直親・・・父上が、父上が!?」


なおは、父の死が受け入れられず、パニック状態になっている。


「なお! しっかりしろ! ここから退却するぞ!」


直親は、ここから離れることを選択した。


「退却!? 父上と一緒でなければ帰らないぞ!?」


なおは、まだ父上は生きている、父上が死ぬはずはないと思っていた。


「敵の新型の宇宙鎧侍は強力だ! 我々の宇宙鎧侍では太刀打ちできないだろう! 松平どのに助けてもらおう!」


直親は、松平元康に直盛さまの敵を討ってもらおうと言っている。


「嫌だ!? 父上!! 父上!?」


なおは、直親の提案に反発する。


「無駄死にする気か!?」

「!?」


直親は、なおを一喝する。なおは、やっと正気に戻る。


「ここで我々が全滅したら誰が、直盛さまのことを伝えるんだ!?」

「直親・・・。」

「しっかりしろ! なお!」

「わかった・・・後退する。」


なおは、渋々だが退却を受け入れた。直親となおの宇宙鎧侍は撤退を始める。


「逃がすかよ!」


信長の目にも、今川の宇宙鎧侍たちが逃げていく姿を捉えている。


「当たれ!」


信長は、チャージできた火縄銃の3発目を撃とうと構える。


バキューン!


火縄銃の光エネルギー弾が放たれる。


ドカーン!


なおの宇宙鎧侍の頭部に命中し、東部の兜が吹き飛ぶ。


「きゃあ!?」


なおは、弾が当たった衝撃で悲鳴を上げる。


「なお!? なお!? 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫だ・・・。」


なおは、衝撃で頭をぶつけて出血している。意識はフラフラしている。


「松平どののいる所まで行けるか!?」

「ああ、頭部が破壊されただけだから。」


なおは朦朧とする意識で返事をする。


「よし、なおは、先に行け。」


なおは、直親の言葉に、イヤな予感を感じる。


「直親は?」


なおは、心配で思わず、直親に聞き返してしまった。


「俺は、しんがりだ。」


直親は、死ぬ気だった。覚悟が決まっているのか、清々しい表情だった。


「直親・・・。」


なおを守るためなら、愛する女を守るためなら、男は死ねる。


「生きろよ、なお。」


そういうと、直親は刀を抜いて、信長に突進していく。


「直親!」


なおは悲痛な叫び声をあげる。なおは、直親と共に戦うこともできず、また直親を置いて退却することもできずに、その場に立ち尽くしてしまう。


「まだ火縄銃のチャージができてない!?」


信長にも、今川の宇宙鎧侍が突進してくるのが見える。しかし、新兵器、火縄銃はチャージが出来ていないので、撃つことが出来なかった。



新兵器、火縄銃。


普通の火縄銃は、まず火薬を銃身に詰める。次に弾を押し込む。火縄銃は、1発撃つごとに、銃身内部にススが溜まるらしいので、布で掃除をしなければいけないらしい。最後に火をつけて、引き金を引いて発射するらしい。


この長い工程をチャージタイムと考えている。現時点で威力が強すぎて、連射なんかできたら、あっさり勝負がついてしまうからというのもある。



「こうなったら、刀で勝負してやる!」


織田信長は、火縄銃を捨て、刀を抜いて、今川の宇宙鎧侍に突撃していく。


「ここは通さんぞ!」


直親は、刀で信長に斬りかかる。


「何を!?」


信長も刀で応戦する。直親の刀を刀で受け止める。


「でやあ!」


直親は、なおを助けようと必死に信長に襲い掛かる。


「こいつ、何を言ってるんだ? ふざけるな! 尾張に攻め込んできたのはおまえたちじゃないか!」


信長の強い怒りの感情が刀にも伝わる。


グイン!


新型の宇宙鎧侍の侍魂システムが発動される。


「なんだ!? 尾張の宇宙鎧侍の刀が燃えているだと!?」


信長の想いに反応して、剣の刃が赤く燃えている。


「何の罪もない尾張の民を殺し、町を破壊し、ちょっと形勢が劣勢になったら、逃げるだと!? そんなこと許せる訳ないだろう!」


信長の赤い刀が、直親に斬りかかる。


「クソ!?」


直親は、刀で防ごうとする。


「邪魔する者は、俺が全て斬り捨てる!」


信長の刀は、防ごうとしている直親の刀をへし折った。


「なに!?」


そして、そのまま直親の搭乗している宇宙鎧侍を斬る。


「信長斬る!」


信長の刀が、直親の宇宙鎧侍の頭の先から、股下まで、一刀両断した。


「なお!?」


直親は、死ぬ間際まで、なおのことを思っていた。


ドカーン!


斬られた直親の宇宙鎧侍は爆発した。


「直親!?」


なおは、父親だけでなく、許嫁の死ぬところも目の前で見てしまった。


「直親!!!」


なおは、叫んだ。目から自然に涙がこぼれて止まらない。


「よし、あと1体!」


信長は、残り1体の今川の宇宙鎧侍に迫る。


「父上!? 直親!?」


なおは、迫ってくる信長に気づかない。


「わ、私は、私は・・・。」


なおは、大切な人を2人も目の前で亡くし、放心状態というよりは、自暴自棄のようになってしまっている。


「何もしていない・・・、何もできなかった・・・。」


なおは、ただ震えていた。目の前に近づいてきた信長にも気づかないで。


「今川なんか、尾張からいなくなれ!」


信長は、刀を振り上げる。この時、宇宙鎧侍の赤い刀は、普通の刀に戻っていた。


カキーン!


信長が刀を振り下ろした時、新手の宇宙鎧侍が現れて、信長の刀を受け止める。


「なに!?」


信長は新手のオレンジカラーの出現に驚いた。


「大丈夫か?」


新手のオレンジカラーは濃い色をしていた。


「父上・・・、直親・・・。」


なおは、精神状態が不安定になっていた。


「おい! 聞いているのか?」


新手の宇宙鎧侍の問いかけに、なおは答えられない。


「ダメか・・・直盛と直親の宇宙鎧侍がいない・・・こいつにやられたのか!?」


新手の宇宙鎧侍は、戦場を把握するのが早かった。


「見たことの無い機体だ、尾張の新型か?」


新手の宇宙鎧侍のパイロットは、信長の宇宙鎧侍を初めて見た。


「今川の新手か? こいつが今川の隊長機か?」


信長も新手の宇宙鎧侍が、只者ではないと感じる。


「辛かろう・・・直盛と直親の敵は、私が取ってやる。」


新手の宇宙鎧侍のパイロットが、もう誰の声も聞こえない、なおに声をかける。


「守れなかった・・・。」


なおは、もう人ではなくなっているのかもしれない。


「できる相手のようだ・・・来るな。」


信長も気合を入れ直す。


「いくぞ! 尾張の宇宙鎧侍!」


今川の新手の宇宙鎧侍は、信長に対して突進する。


「邪魔する者は、俺が全て斬り捨てる!」


信長も負けじと、今川の宇宙鎧侍に特攻する。


カキーン!


両者の刀と刀が激突する。激しい火花が散る。


「くう!? こいつ、なかなかできる!?」


信長は、新手の宇宙鎧侍が、今までの宇宙鎧侍と違うことを感じ取る。


「今までの宇宙鎧侍と違う!? これが尾張の新型なのか!?」


新手の今川の宇宙鎧侍の乗り手、松平元康も感じていた。


「でやあ!」

「とやあ!」


両者は、刀と刀で切り合う。


「三河は、もうすぐ尾張全土を呑み込むぞ! 尾張に勝ち目はないぞ!」


松平は、信長に降伏を進める。


「勝手に決めるな! 尾張は、俺が守って見せる!」


信長は、自分が今川の脅威から尾張を守って見せると言う。


「降伏しろ!」

「誰がするもんか!」


一進一退の攻防が繰り広げられる。


「織田家は消えてなくなるぞ!」

「今川が攻めてくるのが悪いんだ! 尾張をこんなに滅茶苦茶にしやがって、絶対に許さない! 今川なんか、俺が滅ぼしてやる!」


信長の怒りが頂点に達する。


グイン!


信長の乗る宇宙鎧侍は、人の心に反応する侍魂システムを搭載している。信長の怒りの感情に宇宙鎧侍が答える。信長の刀の刃の部分が赤く燃え盛る。宇宙鎧侍も全身から赤い炎のようなオーラを発する。


「なんだ!? これは!? これが宇宙鎧侍だというのか!?」


松平は、自分の知らない尾張の宇宙鎧侍の姿に恐怖する。


「邪魔する者は、俺が全て斬り捨てる!」


信長が気合を入れて、松平に斬りかかろうとする。


「その口癖は吉法師、吉法師なのか!?」


信長の耳に、相手の自分を知っているかのような声が聞こえてくる。


「んん? おまえ、俺を知っているのか?」


信長は聞き返す。


「私だ! 竹千代だ! 幼い頃、一緒に遊んだ竹千代だ!」


松平は、子供の頃は尾張で信長と一緒に過ごしていた。


「竹千代!? 俺の友達の竹千代だというのか!?」


信長は驚いた。


「そうだ、竹千代だ! 吉法師!」


信長は、竹千代が今川の宇宙鎧侍に乗っていることに驚く。


「どうして、竹千代が今川の宇宙鎧侍に乗っているんだ!?」

「私は、松平家の人質として、今は駿府の今川の元にいるんだ。」

「なんだって!?」


松平元康も、今川の猛威から松平家を守るために、今川の人質になっているのだ。


「松平家は、今川に屈して、おまえを人質に出したというのか!?」

「そうだ。でも、仕方が無いだろう!? 従わなければ、松平家は滅ぼされるんだから!? 生きるか死ぬかの戦争なんだぞ!?」


松平は、自身の苦しい胸の内を語る。


「俺は、俺は強者にひれ伏すぐらいなら、死を選ぶ!」


信長は、武士として、生きることよりも、死を選ぶという。


「な!? ・・・おまえらしいな。子供の頃から何も変わってないな。」


松平は、信長の男気をうらやましく思う。


「竹千代?」


信長は、一瞬だが松平の声が、子供の頃に遊んだ竹千代の声に聞こえた。


「吉法師、尾張を破壊したことは悪かった。今日は、もう退却する。しかし、京を目指す今川家は、進路にある尾張を、これからも侵攻し続けるだろう。そして、今川の犬となった私も、また尾張を攻めるだろう。吉法師、今川の傘下に入らないか? 今や今川は戦国最強だ! 誰も今川を倒せない!」


松平は、信長に降伏を進める。


「私は、おまえと戦いたくないんだ! 友達だから・・・。」

「竹千代・・・。」


信長と松平。幼名、吉法師と竹千代は仲の良い友達だった。


「でも、俺は諦めない。例え、相手が強い手でも。今川だろうが、何だろうが、邪魔する者は、俺が全て斬り捨てる!」

「吉法師・・・。」


信長の決意は揺るがなかった。ここに信長と松平は決別した。


「そうか・・・、なら私とおまえは敵になり、殺し合うことになるんだな。」

「ああ、そうだな。」


信長と松平も、友達同士で戦うという運命を受け入れる。


「俺は、尾張の織田信長だ。」

「私は、今川の武将、松平元康。信長、今度会った時は容赦はしないぞ。」

「俺の方こそ、次は見逃しはしないからな。」

「さらばだ! 信長!」


松平は、別れの言葉を言うと、動かないなおの宇宙鎧侍を担いで、背中の小型ロケットエンジンを噴射させて去って行く。


「松平元康か・・・。」


信長は、懐かしくもあるが、友が敵の今川側にいると思うと悲しくなった。去って行く友の後姿を眺めることしかできなかった。


つづく。

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