第46話エピローグ
こうして紛失届けが出来上がって再び駅前の警察署へ出頭した。
写しにバーンとドイチェラントポリツァイアムトの赤丸スタンプを
もらう。これを持って領事館へ行けばOKだ。写真はもう撮ってある。
1時間もかからず真新しい再発行パスポートが出来上がった。
「ありがとう弁護士さん。5日後にコペンで結婚式を挙げて日本へ
帰ります。明日彼氏達がロンドンからデュッセルドルフに戻ります
ので、それから皆でコペンへ上ります。あれが私達が使っている
フォルクスワーゲンのポストワゴンです。赤い表面を磨き落とすと
黄色時に黒のポストマーク(ラッパのマーク)が現れるはずです」
「すごいですね!これで西ドイツ全都市をめぐられたんですね。
すばらしいご主人さんです」
それほどでもないわよ、と口には出さずマメタンは、
背のすらりと高くハンサムな若き弁護士の卵とラインの
夕暮れ河畔をふたりしずかに歩むのであった。
そして翌日、カルマンギアが到着して一人のきざな
革ジャン男と、3人のちんどん屋が登場した。デュッセル手前で
皆着替えなおして、それからおもむろに到着したのだ。
「あの真ん中の松田優作風なのが彼氏」
「なるほど・・・?」
弁護士はつぶやいた。3人とも歩きにくそう。
「ただいま、マメタン」
オサムは自信たっぷりに声をかけた。
「だれ?こちら?」
「ああ、こちら弁護士さん。今回お骨折りいただいて、
すごくスムーズに再発行パスポート取れたわよ。これがそれ、ハイ」
「どれどれ。おーっ、かっこいい。真っ白じゃん!」
「どうも」
弁護士君が会釈する。オサムはおもむろにサングラスをはずして
胸に手をやり彼に頭を下げた。
「サンキュー、弁護士君」
その顔にはロンドンの名残りのキスマークがばれないように、
ちらりとマメタンのほうに流し目をして、ニッと笑った。
『どうだ似合ってるか?この3ぞろいのスーツ。
結婚式はこれでいく』
ベストドレッサーのオサム君だった。
再びコペンハーゲン!車二台で5人での凱旋だ。
今度は結婚式付きだぞ。コペンのメインストリートに
ある教会で式を挙げることにした。
デュッセルドルフで買った結婚指輪だ。
皆たくさん来てくれた。あのジュードーの佐藤も
パトロネア同伴だ。小林君のカップルも。操さんも
東京館の連中も皆来てくれた。最高の結婚式だ。
メインストリートで記念写真を撮る。すごい人だかりで
まるで芸能人のよう。場所を変えて人魚姫の像へ向かう。
何度も記念写真を撮る。狭くて足場が悪い。マメタンを
抱えあげてもういちまい。早くも日が暮れてきた。急がなくちゃ。
しかしマメタンの体がとても冷たいのに気が付いた。
ウェディングドレスのままで下はほとんど下着だけなのだ。
やっと終わってホテルへ戻る。やはりその晩高熱が出た。
出発は明日の夕方。エジプトエアーで、
ローマ→カイロ→ボンベイ→バンコク→香港→羽田だ。
各都市3泊の新婚旅行そのものだ。格安チケットなので
キャンセルはできない。ま、いいか。どっと疲れが出たんだろう。
つききりで看病をしたかいがあって何とか翌昼までには熱も下がり
食欲も湧いてきた。よかった、何とかいけそう。さあ、最後だ。
お別れだ。いろんなことがあった。横浜を出てからの、目次を
めくるように、あっという間の3年間がよみがえる。ほんとにもう
最後の最後だ。しばらくはもうこれまい。皆に見送られて
コペンの空港から、ついに飛び立った。
ワゴンと在庫はオガワとボンボンに譲り。今ここに現金が600万円
もある。帰国して大学に復学したら、がむしゃらに勉強をしよう。今は
学問にとても飢えている。マメタンは運転免許を取ると決心していた。
そういえば、オサムがずっと一人で運転してたもんな。
「いまどこらへんやろか?」
「デュッセルの真上みたいよ」
オサムは心の中で南無妙法蓮華経、おおきにとお題目をあげた。
少し長くなったがそういうわけで、黒川。
俺はこの旅で最高の彼女と、これまた最高の
一大生命哲学に出くわした。後はご存知、
大学に復学し2年間で3年分の単位を修得し、
入学9年目にして無事卒業。就職した。
その間1年間かけて法華経の研究をしてその
実践団体に入会した。ものすごい勢いでこの会
は伸びている。インド交流にも参加してみた。
国連と同じ186カ国にこの会のメンバーがいて、
その大半が法人登録されて自らも努力しひとにも
すすめ、各国で優良団体としてどんどんメンバー
が増加している。しかも若いメンバーが。
真実だからこそこうして世界に、人種、民族、地域
を越えてどんどん広がってるんだと思う。
21世紀、真の人間開放や世界平和の達成。環境問題、
人口問題。食糧危機。核廃絶。ありとあらゆる難問を
現実に解決していくためには、人間自立のための
一大生命哲学と持続可能なその実践とが絶対に不可欠だ。
そういうわけで。黒川!
俺の第三の人生は中国に決めた。全くの手付かずで
中国が俺を待っている。この4年間は毎年12月に
船で上海に上陸している。一段落したら拠点を
どこかに定めたい。日本語、英語、中国語を取り混ぜて
一生懸命、中国の山奥で、質素な農民の子ども達や老人、
青年に、法華経の実践法を説いている俺の姿、それが夢だ。
もうすぐ現実にそうなる。だから今がもう
第3幕のスタートなのだ!
そしてその地が、多分、俺の死に場所でもある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー完
デュッセルドルフの針金師たち きりもんじ @kirimonji
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