第45話命の泉はキスだらけ
今日はもう大晦日。ユースにチェックインして
カバンを持って4人はハイドパークに向かう。
日が暮れて人がどんどん増えてくる。
皆、噴水(生きる喜びの泉)に向かっているようだ。
「ここらへんええんとちゃいますか?」
「そやな」
オオツキさんとボンボンが場所選びをしている。
もう習性で人の流れを見ると場所を探している。
警官を見るとさっと逃げようとするのと同じだ。
「今度は英語やで」
「えー、プリーズカムヒア。えー、ハウマッチ?」
「なんやそれ」
「何ポンドで売るんや?」
「知らんがな。誰かちゃんと計算せえよ」
「5ポンドでええんとちゃうか?」
「マジックと紙かしてくれ。ポンドてどう書くんや?」
「これでいけるやろ」
さあ、布を広げケッテを並べて販売開始。オオツキさんが
関西なまりの英語で呼び込み。ボンボンがかた膝ついて、
「ハーイ!」とケッテを手にして人目を引く。オガワは
「ねえ?どう?」と立ったまま、ささやくように声をかける。
1時間ほどで10本売ってさあカウントダウンへ。大噴水の
ほうはすごいひとだ。寒いのに噴水の中に入ってるのがいる。
どこにでもいるなこのてのバカは。オサムも20歳の12月に
鴨川に飛び込んだことがあったっけ、若さと酒の勢いのせいだ。
できるだけアラブを避けて人ごみの中へ分け入る。さあ、
カウントダウンだ。50・・40・・30・・20・・
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ!
パン!パン!パン!と花火が上がる。爆竹が鳴る。一斉に噴水に
飛び込みよる。肩を組んで踊りよる。あちこちキスしよる。
わしらも何かせなあかん!何か知らんバンザーイ!を三唱以上
何回も繰り返していた。1974年の幕開けだ。と、突然。
オサムに女の子が飛びついてきてキスをした。なにこれ?
つぎからつぎだ。ハッピー!オオツキさんもオガワもボンボンも
みんなハッピー!こんなん知らなんだ?
マメタン来なくてほんとによかった!
カーナビーストリート、オックスフォード大通り、
ボンド大通り、リージェント通り。ぐるぐる歩き回って
皆ドレスアップする。オオツキさんは濃紺の3ピースに
かかとの高い黒靴。こうもり傘と山高帽をかぶれば、
まるでチャップリンだ。カーナビーで懐中電灯を探していた。
グラフィックデザイナー志望のオガワは、黒のタートルネックに
濃いブラウンの短めの革ジャン、同色のパンタロンに
セミブーツ。さすが芸大だが、何かパターンはいつも同じだ。
さて、ボンボンとオサムくんはハリボーンの三つ揃いを
なんとかレディーメイドで探そうと努力した。靴はこれまた
今はやりの丸先っぽかかと高い高いぽっくり靴。けつまづきそう。
下手な歩き方をするとめちゃくちゃ格好が悪い。とにかく皆揃った。
「オオツキさん、ひざ曲がってますよ」
「このくつ重い。なおらへんのや」
とバフバフ歩く。オガワ以外の3人は似たりよったり。
さあ、コペンに戻って結婚式を挙げるぞ。へんてこ4人組は
カルマンギアに乗ってロンドンをあとにした。
その頃マメタンは、若き弁護士の卵としりあって、なにかと
彼を使いまわしていた。彼も初めてのことなので、汗をかきかき
必死で努力していた。彼を前にマメタンはつぶやく、
「えーっと、中央駅のキオスクでボックブルストとポンフリを
買って、その時ショルダーバッグをキオスクのテーブルの下に
置いたのよね。男の人が2人ほどビールを飲んでたわ」
「時間はいつごろですか?」
「確か夕暮れ時だったから5時ごろだったと思うわ」
「バッグの中身分かりますか?」
「えっ、そんなに詳しく書くの?」
「ええ、ここに中身という意味のことが書いてあります。
できるだけ詳しくとのことです」
「困ったわね。まずパスポートでしょ。住所録の手帳でしょ。
ハンカチ。ティッシュ。コンパクト鏡にお金が少し」
「何マルクくらいですか?」
「そうね?お財布は別だったから、硬貨だけ10マルクくらい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます