第43話びっくり!青い目の仏教徒

皆無事でよかった。さあこれからが本番だ。万が一の時は

すぐに隣町に移動すること。もう追加はできないから

売り切れそうになったら値上げして売ること。


絶対に値下げはしないこと。などなどを再確認して、各人

1箱ずつ多く在庫分を仕分けする。全部売切れたら相当なもんだ。


「ほな、12月25日ここでまた会おうな。絶対無事故、OK!」

「OK!]


とここでデュッセル3人組と分かれた。

売り上げは折半でオサムの手元には3万マルクの現金があった。

食事してから出発しようかとフランク、ハイデの4人と

相談してたら、件の青年が現れた。


「よろしければ会館まで行きましょうか?すぐ近くです」

「よっしゃ、マメタン行ってみよう」


食事の4人と別れてオサムたちは会館へと向かった。

何か見覚えがあるなと思ったら、あのホモおじさんの家の近くだ。

こぎれいな会館が見えてきた。前庭があって清楚な感じだ。


寺という感じでも教会という感じでもない。

母屋の入り口ドアを開けると、曇りガラス戸の向こうの仏間で、


「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、・・・・・」


と数人の元気の良い題目の唱和が聞こえる。青年が右手の居間を指差した。

あるある日本の雑誌、単行本、新聞などなど。長く欧州を旅していると

誰でも日本食が恋しくなる。と同時に活字にも飢えてくる。


あれば1ヶ月前の雑誌でもむさぼり読むのだ。ここの雑誌はまだ新しかった。

夢中になって二人で本を読んでいると、例の青年が管理人さんを連れてきた。


「やあごくろうさんでんな。はじめてでっか?」

「どっかでみたことありますね?」

「インマーマンシュトラセの日本食品店につとめてます」

「ああ、あの店の・・・。何か日本の本が一杯あると聞いてきたんですが、

2,3冊借りていっても良いですか?」

「ええ、どうぞどうぞ」

「じゃ、これとこれとをお借りします。12月25日頃に返しにきますので」


オサムとマメタンは挨拶もそこそこに靴を履きかけた。と、その時。

仏間の曇りガラスがすっと開いた。なんと驚いたことに。題目を元気

一杯に唱和していたのは3人のヨーロピアンヒッピー達だったのだ。


日本人かと思っていたが、青い目の長髪ヒッピーだったとは全く想定外だ。

オサムとマメタンは目でにこっと会釈をしてそろりそろりと外へ出た。


さあ、最後の最後だ。フランクフルトで山男とひょうきんを下ろし、

シュトットガルトでボンボンと映画俳優を下ろす。

とにかくこの2週間無事終わってくれ。オサムとマメタンは


その足で思い切ってフルダに向かった。予想どうりだ三日間

すごい売れ行きだ。バイロイト地下道2日間。ニュルンベルク

2日間、その夜移動してミュンヘンのユースに入る。オオツキから


『追加頼む。不足間違いなし』・・・・返事を速達で出す。

『もう間に合わん。獣医から5マルクで分けてもらえ』


翌朝早く東へ、ドナウ川沿いの古都パッソウへ向かう。次の日、

南下してローゼンハイム、さらに西へケンプテン。いずれも虎の子

の小都市だ。もう昼も夜もなんだか分からなくなってきた。


毎晩バタンキュー、目が覚めるとここはどこ私は誰の朝が続いた。

あと二日だ。思わず夜中に”ナムミョーホーレンゲキョー”と

叫んでいた。そのまま眠り込む。もうどうでもいい。


いよいよ明日クリスマスイブ、ラストだ。商品1箱も残りそうにない。

思えば去年は血染めのクリスマスだった、あれから1年か。ヨーロッパ

最後のクリスマスイブはバイエルンの小都市ケンプテン。もうくたくただ。


そしてついにイブも終わった。もういいもういい。どうか皆無事で明日

デュッセルへ戻ってきてくれーっ。バタンキュー。翌日昼までひたすら眠る。


12月25日昼過ぎ、ボーっとしながらデュッセルへ向かう。ダンボールに

マルク札がびっしりだ。見る気も数える気もしない。夕方6時にデュッセル

に着いた。もう皆集まっていた。


「いやいや皆、ごくろうさん。それでは一人ずつ清算しようか」


各々、この2週間でさらに1000ドル以上を稼いでいた。この12月で

総売上は1200万円を超えオサムとマメタンの手取りは700万だった。

よくやった皆後は元気にまた旅を続けてくれ。イスラエル、映画俳優、山男、


ひょうきんの4人とここで握手して元気一杯別れた。あとにまた、オサム、

マメタン、オオツキ、オガワ、ボンボンが残った。オサムが、


「さあ、結婚式の準備や。ロンドンに花嫁衣裳を買いに行こう!」

「おお、そうやそうや、明日わしの車でみんなでいこう!」

カルマンギアのオオツキが言った。と、ボンボンが、


「ロンドンで残ったケッテ売ろうか?」

すかさずオガワが低音で、

「そうだね、やってみようか?」


もう、ゆとりの針金師たちであった。

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