第40話あのバイロイトが急変!

オリンピックが始まった。どこに行っても

その中継を皆で見ている。この2週間は仕事

になりそうもない。ミュンヘンへ行ってみるか、


ハイデルベルクでチャップリンの映画を見た後

オサムはそう決めた。アウトバーンに乗る。

うん?何か様子がおかしい。ラジオをつける。


何かあったんだ。いつもは流れている音楽番組

がなく、一方的に同じことばかり繰り返している。

アナウンサーの声が興奮している。ゲリラ、アラブ、


オリンピアード所々分かるオリンピック中継はない。

『マメタン、戻ろうか?』

しかしもう遅かった。


うん?と入り口で感じたのは、兵隊。しかも自動小銃

を引き金に手をかけてささげもっている姿、もちろん

ヘルメットをかぶっている。臨戦態勢の緊張感がある。


これは絶対に尋常ではない。シュツットガルトで出よう。

さあ出口だ。自動小銃が何人か見える。やばいな、この

荷物が没収されたらと思うと引き込み線から思わず、


再び本線に戻ってしまった。次、アウグスブルク、やっぱ

り駄目だ、諦めよう。アウトバーンはミュンヘンで終点だ。

マメタンとオサムは目で合図をして出口へゆっくりと向かった。


「ハルト!」(止まれ!)


またハルトや!ガチャと自動小銃の安全装置がはずされる。

またかいな、二人は下ろされてパスポートを取り上げられ、

両手を車のサイドに当てて後ろ向き。自動小銃を向けられた


ままもう一人が身体検査、さらにもう一人が車の中を調べる。

『なむさん、武器なんてあらへん。何とか見逃してくれ』

数分だったろうがすごく長く感じた。脂汗が出てきた、まだか。


やっとOKがでて、あのバイクについて行けと指示された。

パスポートは取り上げられたままだ。とにかく運転席に乗り込む。

BMWの750CCポリスバイク。革ジャンポリスの後を追う。


ところがすぐに見失ってしまった。なんてこった、パスポート

ないのに。その瞬間パッとバイクが現れた。そしてまたあの

警察署に着いた。3度目だ。もう絶対に来ませんからと、


ほんとに来なけりゃよかった。署長は怖い顔をしてこういった。


「今アラブゲリラがイスラエル人を射殺して、ミュンヘンは

非常事態であるからして、誠に危険が一杯である。すみやかに

ミュンヘンを立ち去るべし」


ということで、

「フェアシュテーン?」(わかったか?)


「ヤー、ガンツフェアシュテーン!ダンケシェーン。

アウフビーダーシャウエン!」


と南ドイツ方言で言ったら。署長は大いに喜んで、


「グーテライゼ!」(よい旅を!)


と言った。


ミュンヘンを出て北へ上る。新聞に載っけてもら

ったあのバイロイト。ワーグナーの音楽祭で有名な町。

地下道と駅前の橋の所と二手に別れて2時間だけ


出すことにした。オサムは地下道にマメタンは橋の所に、

比較的ゆとりがあって雰囲気がよかったからだが、

オサムは2時間後十分売れて戻ってびっくり、


マメタンの姿が見えない。あれ?どうした?

荷物も何もない。細かく痕跡を探すと、スチール製の

橋げたの裏に小さなメモがテープで止めてあった。


よくもまあこんなことができたものだ。赤鉛筆で、

『こないで、ポリス』

と書いてある。やばいな、安全な所だったのに。


どういうわけかマメタンはつかまってしまった。

警察署はすぐ近くにあった。こんな近くに?

これはうかつだった。どうしたものかと見上げて


いたらマメタンが出てきた。あっけらかんとしている。


「やられちゃった」

カバンを持っていないところを見ると没収か?

手に紙切れを持っている。


「たいへんだったな」

オサムが紙切れを受け取りながら言うと、マメタンは


「ううん、そうでもなかった。結構楽しかったよ。

身振り手振りで」

と強がりを言った。


紙切れをよく見ると、どうも3ヶ月以内に国外退去。

以後6ヶ月以内は入国拒否とのことらしい。同じ文章が

パスポートにもでんとスタンプしてあった。


商品は没収だ。ミュンヘンゲリラの後だから警察も

相当ぴりぴりとしていたんだろうな。オサムだけでも

つかまらなくてよかった。クリスマスは十分間に合う。


あと2ヶ月だ。そろそろ求人広告を出さなくちゃ。

決戦直前の2人には、こんなことくらいではちょっとも

へこたれない。クリスマス開けに大金を持ってドイツを


抜け出して、どこかの国でパスポートを再発行してもら

おう。ということでフランクフルトへ戻り、大募集の

原稿を考えながらさらにデュッセルドルフへと向かった。

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