第38話ロマンチック街道
給油していた時大型バスが止まって、降りてきたのは
全部日本人の団体だった。
ローテンベルクはこじんまりとした、まわりを城壁で
囲まれた中世そのままの城塞都市だ。もちろん下は
石畳。町の中央時計台はからくり人形。回りには手作り
工房がたくさんあってバウムクーヘンとかを売っている。
城壁に登ってみると人がすれ違えるくらいの通路に、外向
きは凹型の戦闘用壁角部分は小高く見張り櫓になっている。
ぐるっと一周しても知れている。今でも中世騎士団ごっこ
がやれそうだ。ところが地下室に下りて驚いた。拷問部屋
がいくつもある。よくもこう考えられるなと思えるほど、
色んな責め器具が並んでいる。獄死した死人の絶叫が聞こ
えてきそうだ。そこらじゅうに血のりの痕が今でもこびり
ついていそうで息が詰まる。オエーッ。
ニュルンベルクはギルドの町。第二次大戦の裁判でも有名。
駅からすぐにギルド村だった。ドイツ固有のマイスター制度。
親方と徒弟との伝統技術熟練伝承制度。いろいろな分野がある。
皮細工、ガラス細工、ワイヤークラフト、からくりおもちゃ。
食品も多い。全てのハンディクラフトがギルドの名の下に
集約されていた。
この職人気質はドイツのいたるところで垣間見える。
それらしきオヤジさんに『はいマイスター』と
呼びかけるととても喜ぶ。
さて、のどかな田園地帯の中をチロリアン風の建物を眺めながら
フッセンのお城へと向かう。なだらかな丘を上ったり下ったり
くねくねと道は続く。フッセンは山岳国境のすぐ手前だ。
二つの美しいお城が森と泉に囲まれてそびえている。
観光客の団体に紛れ込んでガイドの説明を聞きながら
お城の中をめぐる。
バイエルン最後の王ルートビッヒ二世は少し変わった人で
妃をめとらず、ワーグナーのオペラとお城造りに全てをかけて
国の税金を注ぎ込み、最後は湖に身を投げて死んでしまった。
その分オペラとお城は後世に残った。バイロイトの音楽祭の
チケットは数年先まで予約済みだというし、フッセンのお城は
どんな角度から見ても美しく見えるようにと設計されているし。
こういう人が歴史にぽつぽつと現れてすばらしい作品を残した
のだろうか?人類のためにとか庶民のためにとかいう発想では
なさそうだし、いくら美を追及しても、宇宙のはてのように
突き詰めれば突き詰めるほど、狂おしく空虚になっていくのでは
ないだろうか?と思うのだが・・・・・・。
フッセンのお城はしかしヒッピーにはとても厳しい所だった。
ミュンヘンに戻る。車を真っ赤なワーゲン
ポストカーに買い換えた。床を二段にして
下にびっしりと在庫を入れるようにした。
サイドと後ろの窓を塞いだので外からは全く
中が見えない。簡易トイレもつけて優雅な広
い製作と寝室兼用のキャンピングカーになった。
オオツキさんは小銭がたまったので一度コペン
に戻りたいという。11月にデュッセルで再会
することを約して彼は北へと旅立った。
オサムとマメタンはひとまずフランクフルトに
材料を仕入れに向かった。フランクのユースは
マイン川沿いにある。繁華街にも近い。
川床が駐車場になっていてユースにはいつも
日本人が一杯。次の晩明け方に、といっても
午前3時ごろ。バンで熟睡していたら、
外で歌声が聞こえた。数十人で歌っている。
よく耳を澄ますとどうも日本語のようだ。
我々ものそのそと起きだした。
『戦争を知らずに僕らは生まれた 〜♪』
間違いない日本人だ。
「どうしたんですか?」
「到着が遅れてダブルブッキングになって、
ユースに泊まれなくなったんですよ」
誰かが味噌汁を持ってきてくれた。温かくて美味しい。
「今はやってるんですかその歌?」
「ええ、こういうのもありますよ。
「ゆかたの君はススキのかんざし〜♪」
「なんですかそれ?」
「よしだたくろう」
「知りません。ほんとにほんとです」
2年もたてばだいぶ変わってるだろうな。
二人は皆と一緒に朝まで歌を歌った。
ドイツは今選挙戦の真っ最中だ。キリスト教民主同盟
(CDU)と社会民主党(SPD)との二大政党に近い。
アメリカ並みに派手なコマーシャル選挙だ。
いたるところにCDUとSPDの大ポスターが貼ってある。
CDUの政治集会にユースのドイツ人と一緒に行ってみた。
バラエティあり歌あり踊りあり。アメリカの大統領選の
ミニミニ版だ。最後にフランクフルト名物アプフェルザフト
(りんご酒)が振舞われた。エレキバンドが登場してきて
ディスコに早代わり。若者狙いの大演出なのだろうが、
日本ではこれは選挙違反だろうな。政策論争皆無の
ドンちゃん騒ぎになった。バンドのボーカルが帰りがけに
ヤパーナー!と呼びかけてきて、楽屋まで来いという。
日本同様狭く汚い楽屋部屋でしつこくマメタンばかり気に
している。
「僕たちとこれから朝まで付き合わないか?」
と口はこっちへ向けて目はじろじろとマメタンを見ている。
オサムは頭にきてべらんめー調のドイツ語で叫んだ。
「ナインダンケ。ヴィアハーベンカイネツァイト。チュース」
(悪いな若えの。俺たちにはそんな時間はないんでね。あばよ)
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