第36話ミュンヘンでピストル向けられる
なつかしのアウグスブルクだ。おと年ここで
車の車輪が取れたっけ。町なかは石畳が多く
いい場所がたくさんある。
「グリュースゴッド!」(まいど)
「ビーダーシャウエン!」(さいなら)
の南ドイツだ。ポリスの制服も紺になったり
緑になったりと違ってくる。バイエルンは緑
だ。おまわりさんもおう揚で、
「ハーイ!ヤパーナー!」
と通り過ぎていく。これはなかなかいいぞ。
通りのど真ん中に出してみた。
数10本売れたところでマメタンの顔を見る。
様子がおかしい。顔真っ青で脂汗だ。
「だいじょうぶか?」
「おなかがいたいの・・・」
といって倒れこんだ。この時ばかりは、
「よし医者に行こう。何ぼかかってもいい。
オオツキさん、あとよろしく」
とほんとにそう思って内科医を探した。
運良く近くで産婦人科内科が見つかった。
日本と違って何か邸宅という感じだ。
マメタンを抱きかかえるようにして診察室
へ運ぶ。入ったきりなかなか出てこない。
なんぼかかるんやろうか?
1時間以上かかってやっと医者に付き添わ
れてマメタンが出てきた。
「かなりお疲れのようで、急性胃炎だと思
われます。薬を差し上げますからゆっくり
一晩お休みになれば大丈夫だと思います」
「ビーフィールコスト?」(で、いくら?)
「ナイン、カイネメア」(いりません)
「ほんま?」
「旅の方だから当然です。この薬を差し上げます」
やったー!ドイツ万歳!マメタンと小躍りして
オサムは心の底から喜んだ。
なつかしのミュンヘンだ。2年前ひたすら
働いた中華飯店にまずいってみる。シェフ
もウエイトレスも変わっていた。あのトルコ
女もいないみたいだ。少し寂しかったが、
とにかく腹いっぱい食べた。あの頃はほんとに
一人ぼっちで借金抱えて超貧乏だったなあ。
今年は優雅だ。来年の今頃はもっとゆとりが
あるはずだ。ユースに泊まって翌朝ホフブロイ
ハウスで朝からビールを飲む。
ドイツのビールはほんとに多種多様だ。日本の
お酒のように各地方都市に地ビールがある。
燗して飲むビールやタバコの香りがするビール
ジュースとシェイクして飲んだり器が決まって
いたり。ホフブロイやレーベンブロイなどは
日本人の口に合う。オサムはデュッセルの黒、
アルトビアが大好きだ。小型のタンブラーに黒赤
い苦味走った最初の一杯がなんとも絶対にうまい。
つまみはブラートブルスト(焼きソーセージ)と
ボックブルスト(煮ソーセージ)。たっぷりゼンフ
(からし)とケチャップをつけて。最高だ!
変な老夫婦がたかりにやってくる。ほかのおじさん
が彼らには気をつけたほうがいいと言う。それでも
ブンチャカブンチャカの演奏とともに、とても楽
しいホフブロイハウスだ。夕方、酔いが冷めてから
オサムとオオツキは大通りへテスト販売に
向かう。マメタンはユースで製作だ。
大通りの中ほどカフェテリア向かいの公園脇に
広げて数分、客の反応はすこぶる良い。人垣が
できてたちまち数本売れた。遠くでサイレンの音
が聞こえる。なにかあったのかな?人垣が増えて
忙しくなってきた。サイレンの音は間近に迫って
きた。すごくヤバイ!とうとうオサム達のまん前に
あの緑と白のパトカーバンが止まった。皮ジャンの
警官が飛び降りてくる。すばやくたたんでオオツキ
右へ、オサムは左へ。オオツキはすぐに捕まる。
オサムは2,3歩中腰から走りかけた。と、その時、
「ハルト!」(とまれ!)
と大声。もう一人の警官に。カチッとピストルを向
けられた。銃口は間違いなくこっちを向いている。
『わかった。間違っても引き金を引くな。降参!』
オサムはゆっくりと両手を挙げて立ち上がった。
カバンは足元に置いたままだ。カフェテリアあたり
から通報されたのだ。とうとうつかまった。2人
ともとても神妙にしていた。重犯罪者よろしくパト
カーに乗せられ、サイレンを鳴らして警察署へ。
ひょっとしてこれ、ミュンヘンで2回目?2年前の
裁判の時は確か参考人だったが、今度は現行犯だ。
マメタンすまん、つかまっちまったよ。
別室に通されて、
「パスポートは?何年旅してる?ヤーパンか?
街で販売しちゃいかんの知つとるか?」
くどくどと散々絞られたが、ひたすら恐縮していた
ので、無傷でパスポートも商品も返してくれた。
もうミュンヘンでは絶対にやらんとこうと決めた。
近くの小都市はまだまだ寛大なはずだ。ケッテは
絶対に売れる。周りの田舎を攻めよう!
二人は急いでユースへ戻った。マメタンは何も知
らずにもくもくとケッテを作っていた。
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