第34話ケルンは絵になる大聖堂
目標も定まりコペンでわっと全てを吐き出して、すっきり
したのかマメタンはとてもいい顔色に戻った。大阪漫才の
片割れが是非われもお仲間にと付いてくることになった。
彼の名はオオツキ。オサムに二つ年上だ。車の整備士でも
ありおもろい男でミュンヘンで車を買います是非と運転手
を買って出た。その運転手つき3人でコペンを出発する。
しばらくはユース泊まりでぼちぼちと南へ下ろうか。まず
はデュッセルへ戻ることにした。アルトシュタット。
あれ?石松がいるではないか。イスラエルも危険が一杯で
早めに帰ってきたとのこと。石松はかたくなにデュッセル
でやると決心していた。さあ、さらに材料を買い増しし、
商品製作に入る。まだ数十万円は残っていたのだ。
売り歩きながらひたすら作りまくって10月までに1万本
の商品をストックしなければならない。
大阪出身のオオツキさんは商品作りは全く不器用でやろう
としない。車の事は詳しいのに、販売だけを是非やらせて
くれという。初級ドイツ語のレッスンが始まった。
6ページほどのメモにまとめて、後々のためにさらに改良
し洗練されたものになった。ポリスの見つけ方から
ワンタッチ逃亡の要領。つかまった時の言い逃れの方法
とか、かなりユニークな極秘販売マニュアルだ。1週間
ほどで準備完了。久しぶりにアルトに出してみる。
オオツキさんが関西なまりのドイツ語で、
「ビッテシェーン。ツェーンマルク。
買わんかいな。これ。ダンケ」
と叫んでいる。300マルクを売る。
ポリスも来なかったが見知らぬ日本人が増えて、
もう第二世代という感じだ。
翌日、いよいよデュッセルを出てケルンへ向かった。
ケルンといえば大聖堂。中世ゴシック建築の粋。
ひたすら天高くラインの脇に聳え立つ。
この日ラインは大雨で増水し広い川床スペースが濁流
で埋まり水の中に並木が林立していた。すごい水量だ。
大聖堂の正面は広いプロムナードになっていて、独り
ぽつんとドイツ人らしきヒッピーが座っていた。
「ビッテシェーン」(まいど)
「ビニッヒグートヒア?」(かまへんか?)
とジェスチャアすると、そのドイツ人は下目使いに首
を右へ傾ける。好きにしろって感じ。皮ひものビーズ
玉を売っている。
「ポリツァイシビア?」(警察厳しいか?)
「ヤー、ガンツシビア」(とても厳しい)
とその時ははっきりと答えた。しかし昼間から堂々と、
オープンできるとは幸せだ。デュッセルもエッセンも
夜だけだったのに。
「ヌア、アインシュトュンデ」(1時間だけ)
といってウインクをして、オサムはオオツキさんと
一緒に並んで黒布を広げた。いい雰囲気だ。
大聖堂をバックにすこぶる様になっている。もし、
”デュッセルドルフの針金師たち”という映画を
作るとすれば、ファーストシーンはここだ。
真っ青な空から大聖堂の見上げる十字架。カメラは
ゆっくりと大聖堂をなめるように下がってきて、
画面いっぱいの中世ゴシック建築の粋、大聖堂の
正面扉。さらに数十メートル望遠で前面の所、
我らの路上が徐々にアップで写る。背景は
ピンボケの大聖堂。
「ビッテシェーン、ツェーンマルク」
外人ヒッピーに混じって長髪のジャパン
ヒッピーと可愛い女の子が、
「ダンケ、ツェーンマルク」
「ダンケシェーン」
とケッテを売っている。すばらしいシーンだ。
その日は5本売っただけですぐにやめた。
「チュース、ビーダー、バイバイ」
といってドイツ人ヒッピーに別れを告げた。
地方ではすこぶる客の反応はよさそうだ。
ヒッピーも少ない。ケッテはまだまだドイツ
全土で十分売れそうだ。
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