第33話コペンへ凱旋

次の日マドリードへ向かう。フラメンコが

脳裏から離れない。快適列車の旅。風景は

どこものどかで日差しがとても暖かい。


オレンジが安くて美味しいのでおやつ代わりに

オレンジばかり食べていた。スペインの田園地帯、

山はほとんど見えずなだらかな丘ばかり。


ドンキホーテがいつ現れてもおかしくはない、

昔からの風景なのだろう。マドリードで

安アパートを借りた。毎日バザールとユースと


夕食のお買い物だ。蚤の市で大量に火縄ライター

を買う。珍しいし風が強い時に効果的だしかも

すごく安い。バザールはほんとに飽きないものだ。


広場で闘牛の練習をしていた。一人が木作りの

牛の頭を両手で頭上に掲げて突っ込んでいく。

日本人の闘牛士もいるらしい。こうやって


毎日練習をしているのだろう。さて、一人ぼっち

というのはよく聞くし、感じるときも多いが。

2人ぼっちというのが実際にあるんだと実感した。


マドリで数週間、仲間もなく二人だけで暮らした。

マメタンは語学の勉強。オサムは小説にチャレンジ

というずいぶん前からの夢の休日ではあったが。


とても寂しさがつのった。2人愛し合っても、どう

しても胸にぽっかりと空洞が存在している。かなり

それも拡大してるみたいだ。ふたりぼっち。彼女も


思いは同じだったろう。誰一人知り合いのいない

マドリード。ユースでも街中でもなかなか仲間が

見つからない。あれほど人の出入りが多かった


コペン。デュッセルでの針金仲間たち。皆どうして

いるだろう?仲間がたくさんいてこそマメタンは輝く。


「早めに切り上げてコペンに1度戻ろうか?デュッセル

で車を買ってコペンの皆に会いに行こう」


マドリ発の国際列車に乗る。陽気なスペインの人たちが

夜通し大声で歌を歌って我々を励ましてくれた。


だが今ひとつ、心の底から笑えない。将来の見通しが

立たないというのも大きな原因だったと思う。


サンセバスティアンで途中下車。有名な海岸線を二人で歩く。

アムステルダムを経て再びデュッセルドルフへ。アルトは

寂しく取締りが厳しくなってドイツ人しかやっていなかった。


日本人は皆エッセンへいったという。早速行ってみた。商店

街中央アーケードの中で10メートルおきに1人づつ日本人

がケッテを出している。5,6人ほどいた。全く知らない連中


だ。もう駄目だなここらへんは。早く車を買って全ドイツを回

ろう。今年のクリスマスのために。そして日本に帰ろうと決心

した。学園紛争も下火になり来春までなら復学できる。


マメタンも喜んで賛成してくれた。


デュッセルドルフでワーゲンのバリアント

というライトバンを買った。後ろで十分2人

寝れる。寝袋、アフガンコート、トルコリング、


火縄ライター、ケッテ道具と材料を積み込んで

コペンへ向かう。まだ半年しかたっていないのに

ずいぶん時が流れたような気がする。


東京館もベラホイもノアポップも健在だ。時間が

止まったように昔のままだった。マメタンが今

までのたまりにたまったストレスをわっと一気に


吹き出すように。何度も何度も同じことを喋り捲

っている。話す相手が変わればまた同じことを繰

り返すしかないのだがその情熱たるや一向に衰え


ない。デュッセルドルフでの出来事やイスタン

ブールからギリシャへの旅。スイスでの1ヶ月間

のスキーやスペインでのフラメンコなど。それは


それは話は尽きなかったのだろう。操さんも、

小林君たちも東京館の連中も、食い入るように

何度も同じ質問をさらに詳しく聞きこんでいる。


やはり血染めのクリスマスで彼女を置いて逃げた

こととツアースキーで彼女を一人で帰らせたこと

が悔やまれる。とにかく花のカップルの凱旋だ。


早く結婚式を挙げろとか芳しい。

「来年帰国する前にコペンで結婚式はあげるわよ」

「わーすごい。全員参加で盛大にやろうね」


勝手に先走って盛り上がっている。さあこれから

年末までドイツ全土を回って、各州ごとにアルバ

イトを使って12月に一挙に大勝負だ。


『1ヶ月に$1000のアルバイト。求む熱血漢』

11月に各ユースに張り紙を出して10ヶ所くらい

に区分けして、1エリア100万円を目標に、と


夢は膨らむばかり。そのためには事前に全ドイツを

くまなく回り、半年かけて商品を作りまくり、11

月から突撃だ。


さあ気合を入れて準備期間の戦闘開始!

全ドイツを駆け巡るぞ!

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