第32話ビバ!フラメンコ!ジャポン!
何百年も前から続いているジプシー、
流浪の民のすばらしい本能芸術。
虐げられ追われ追われて・・・・。
それでも圧縮された人間根本のエネルギーは、全ての
ものを吹き飛ばす。悲しい哀愁を帯びた歌も真実だし、
激しいフラメンコステップの爆発も全て真実なのだ。
作り物ではない長い抑圧の歴史をオサムは感じた。
曲はさらに盛り上がって本命登場。カスタネットの
音がして重い扉がスーッと開くと、躍り出たのは
これまた妖艶な絵にかいたような絶世の美人ダンサー。
われこそはフラメンコの女王なり!顔をカクンと上に上
げて大きく胸を張る。すごい迫力だ。皆息を呑んでいる。
非常にスローなところからスタートしてすぐパタと止ま
って顔をカクント上に上げる。扉前から徐々にこちらへ
近づいてくる。何度目かのカクンで気が付いた。
この人昼間のママさんだ。あの仁王立ちででかかった
ソフィアローレンばりのママさんに違いない。急に
親しみを感じてにこりと合図をした。かなり近づいて
最後のカクンをしたとき、明らかに彼女は微笑んで
大きくオサムにウインクをした。くるりと反転して、
今度は周りのお客にカクンをしている。
ひとしきりカクンをし終わって、曲の強弱が激しく
なってきた。再び扉前から徐々に近づいてくる。
カスタネットと強烈なフラメンコステップだ。
ひたすら主賓席のオサムをにらみつけて迫ってくる。
『こわーい。飲み込まれそう!』
マメタンもオサムにしがみつく。がぶりとやられ
そうになったその瞬間にはたとまた急反転。
曲がかなりスローになってカスタネットが止んだ。
胸元から長めのスカーフを取り出す。軽いふわっとした
水色のスカーフだ。とてもなまめかしくスカーフを操っ
て踊る。おもむろに手前のおじいさんの首にふわっと
スカーフを回した。出てきて踊れというわけだ。
『ノン、とんでもない』
手を振って白髪のおじいさんは辞退した。次のおじい
さんはもう来る前から逃げ腰だ。・・やばいぞこれは。
フラメンコの練習をしとけばよかった。が、もう遅い。
左一列は皆辞退。
『さあ、俺の番か?』
と思いきや。
『ふん』
とやきもちを焼くように素通り。何これ?。オサムは
立ち上がりかけてまた座りなおした。
右側の列に入ると最初のおじさん、若めのおじいさん。
よっしゃと踊り出て超スローで1,2,3。1,2,3。
とフラメンコステップをでかい彼女と肩を組んで、大汗
かいて踊った。よしあの要領だな。肩が組めるとわかって
後のおじさん3人が踊った。最後のおじさんなどは
”オレ!”までやって大うけだった。何か怖いなと思って
いたら案の定、マメタンが小声でささやく。
「くるわよ、覚悟して」
「よっしゃ、何でも来い!」
オサムは身構えた。ラストハイライトクライマックス。
彼女は来た。遠く離れた扉の前から再びクラリネット。
めちゃくちゃ激しい究極のフラメンコ。一直線に。
オサムをめがけてやってくる。このまま来るかとマメタン
は、オサムの体を突き放す。一歩手前で反転。曲がスロー
に変わり、またスカーフが出てきた。左側のおじさん達、
ラストチャンスだが迫力に圧倒されて皆しり込みした。
さあ最後の最後だ、くるぞーっ。ジェラシーに燃え狂った
ジプシーの女王がフラメンコに思いを込めてオサムと
マメタンとの仲を裂こうとやってくる。曲がスローから
徐々に盛り上がってくる。きたーっ!ああ、この力には
逆らえない許してくれマメタン。
ふわふわとなまめかしく舞う水色のスカーフ。
一直線にオサムをめがけてやってくる。
『絶対逃すものか。覚悟をおきめ!』
オサムは女王蛇ににらまれたカエルだ。
『思いっきり踊ってお帰り人生は1度しかないんだから』
そう言ってる気がしてスカーフとともに、もう、
オサムは立ち上がっていた。
肩を組んでステップ。離れてステップ。強弱、パタッ。
カクンと顔上げ。どんどん曲が速くなる。向かい合って
とにかくどキザに。思いっきりのフラメンコステップ。
ラストの”オレ!”が決まって、大拍手!
ブラボー!ビバ!フラメンコ!ジャポン!
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