第29話シンタクマの写真屋さん

情報を得てアテネへの学生フライトを買う。

往復料金が3分の1の値段で買える。

そのためには学生証を作らなければいけない。


早速英文で文書を作りタイプ屋にタイプを

打ってもらう。


『右のもには太陽大学工学部ギリシャ建築科

の三年生であることを証明する』


印鑑はもちろん十円玉の平等院だ。これには

算用数字が使用されていないのだ。


何の問題もなく学生フライトを買うことができた。

コーヒールンバを大声で歌いながら、意気揚々と

イスタンブールをあとにした。


ジェット機は小型で数十人乗り。機内から見た

エーゲ海の海の青さはすこぶる美しかった。

冬だというのに光がまぶしく感じる。


石造りの白さとのコントラストは一生忘れる事は

できない。昔からずっとこんな感じだったのだろう。


アテネの空港に降り立つと全てがギリシャ文字ばかり

でアルファベットが全くない。ここへ来るまではどの

国でも結構アルファベットは浸透していたはずなのに。


オリンポスの丘、パルテノンの神殿、このあたりから

夜空の星を見上げギリシャ神話が生まれたのか?

あのソクラテス、プラトンの哲学が語られ、民主政治


が生まれたのか。昔は皆暇だったんだろうか?今の世、テレビ

が普及してからというもの、夜の語らいの場はなくなった。

四大文明の地は近代史では今ひとつなのはどうしてだろう?


手塚治虫のアニメ”クレオパトラ”が上映されていたので

見に行ったら、なんと胸は黒ベタ、腰も黒ベタ。黒ベタ

だらけの厳しいアニメになっていた。


同じヨーロッパでも北と南じゃこうも違うのか。

昔のギリシャはもっとおおらかだったはずだ。


ふと見るとショルダーバッグがない。

めったにバッグなんか使わないのに。

現金とパスポートは肌身離さずにが鉄則だったのに。


この日に限って新しいコットンパンツを買ったので、

まさかギリシャでと安心して気取ってみたのがミスだった。

パスポートと小銭の入ったバッグを盗まれた。


まいいか。旅慣れてくるとこのくらいの事には驚かない。

いろいろ書き込んでぼろぼろだったから領事館で真新

しいのに再発行してもらおう。うまくいくだろうか?


窓口の若き外務省の職員さんがとてもいい人で、すぐに

再発行してくれるとのこと。


「皆さんはいいですね、自由に旅ができて・・・・」


とめったに来ない我々みたいな旅行者にひとしきり

愚痴をこぼしていた。


「近くのシンタクマという広場に簡易写真屋さんが

ありますから、そこで写真を撮ってきてください」


二人でそのアテネ、シンタクマ広場へ向かった。

日本ではどこにでもあるような公園内の広場に、

あった、あった、簡易写真屋さん。


赤く塗った木製の脚立にジャバラ式の古い高級カメラ。

黒布にもぐりこんで、向かいの椅子にお客は座る。

ここまでは日本と一緒だ。


「はい、じっとして」


写真屋のおじさんはパッと天空を見上げると、

旧式写真機のレンズのふたをさっと取って一秒、

再びさっとふたをした。


「もういちど。ハイじっとして」


今度は二秒くらい。雲がかかったのだ。

どこにもフラッシュらしきものがないなと思ったら、

これだ。大丈夫かなと思いつつ出来上がりを見て一安心。


もし暗く曇っていたら、とおもうとぞっとする。

安くて楽しい写真屋さんだった。


ギリシャの太陽は真冬でも結構まぶしい感じ。

アランドロンの”太陽がいっぱい”の太陽と同じだった。


再びフライトでイスタンブールに戻り列車でウイーンへ。

すぐに乗り換えてスイスへと向かった。

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