第27話血染めのクリスマス

さらに次の日、ユースも危ないとかで皆も

それとなく武装して緊張していた。

そして三日目、何も起きなかった。


もうものすごい人で毎日20万近い売り上げだ。

まさかこんなすごい人ごみの中では殴りこみもない

だろう。ポリスカーもこの三日間一度も来ない。


あまりの人の多さで車道も人であふれは入れないのだ。

売って売って売りまくろう、ダンボールもだいぶ片付

いてそのひと箱は一杯のマルク札だ。200万円以上は


あるだろう。イブに3000マルクの大売りを出して、

いよいよ最後の一日、クリスマスの当日だ。在庫一掃

山済み販売。さあラストだよ。メリークリスマス!


宴たけなわ午後11時頃、アルトは群衆で身動きでき

ないほどだ。ところがまさかのまさかのこの時に、

いきなり右のフランス人のほうから人が飛び込んできた


かと思うと、人垣が大きく二手三手と分かれ、こんどは

左手から石松が吹っ飛んできた。

「にげろ!なぐりこみやーっ!」


石松はめがねを吹き飛ばされ顔面に血しぶきがついていた。

オサムはとっさにワンタッチでたたんで全力で走った。

数十メートル走って、


『あっ、マメタン!』

かばんをその場に置いてすぐに引き返した。


あれだけの群衆はどこに消えたのか?皆柱の陰に潜んで、

石畳の車道、ケッテ、商品、くつ、カバンに黒ベッチン

が散乱した石畳をじっと息を潜めてうかがっている。


オサムもはだしだった。何人かがうずくまってうめいている。

女の子はいない。歩いているのはオサム一人だ。

うまく逃げられたか、マメタン?どこだ、マメタン?


歩道屋根の柱の影にびっしりと人々が押しくら饅頭のように

体をくっつけ息を凝らしてじっとこっちを見つめている。

遠くでサイレンの音が聞こえる。柱のほうにゆっくりと


近づくとみな視線をそらせて内側へ体を寄せ合っていた。

皆無言で息を凝らしている。すると、

「オサム」


右手の柱の群衆の奥のほうで小さな声が聞こえた。

「オサム」

おーっ。マメタンだ!オサムは近寄って彼女を抱きしめた。


「無事か?」

「ええ。だけど顔にスプレーをかけられてヒリヒリする」

よかった。火をつけられんでよかった。冷や汗もんだ。


あらためて、思いっきりマメタンを抱きしめた。

『彼女を忘れて先に逃げた。俺の愛って、そんなもんだった

のか。嫌われてもしょうがないな』


これを機に人々がそろそろと動き出し始めた。

パトカーと救急車がサイレンを鳴らしてやってきた。

かなりの数だ。


早めにこの場から退散しよう。全てを清算して二人だけで

約束の旅へ出よう。最後のアルトの夜、しかもクリスマス

の夜を二人はだしでホテルへと向かった。

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