第26話神からの贈り物”タイヨー”

手作りのペンダントチェーンをニッケルチェーン

に変えてみたが、売れ行きは全く変わらず。

12月にはいると毎日50本60本と売れてゆく。


土日はその倍だ。在庫がどんどん減りだした。ジャ

ラジャラもうろこもよく売れるけど、製作は大変だ。

あのキプロス作品のひとつぶどう形の下部を取り除き


じゃらじゃら涙形5本をつるす。これだとチョーカー

でもペンダントでもいける。しかも比較的簡単だ。

ニッケルチェーンがぴったりで、すぐさまベストセラー


になった。皆がのぞきに来る。石松が、


「すごいの作ったな、きみは」

「よう売れますよ」

「そやろな。まねさせてもらうわ」

「どうぞどうぞ」

「太陽みたいやから、”タイヨー”て名付けよう」


おーマイゴッドの贈り物。”タイヨー”日本語が

作品名になった。神からのめぐみ、”タイヨー”

はほんとによく売れた。マネをはじめた皆からも


大いに感謝された。信頼度ナンバーワンの一番角、

売り上げもナンバーワンであった。またぞろ、

カリスマが復活した。


ところが、誰かが脚光を浴びると必ずねたむ奴が

現れる。これもこの世の鉄則だ。古今東西、

有史以前の太古から、人種、性別、年齢を問わず、


このジェラシーとの戦いがまさに人類史そのもの

といってよいだろう。これをコントロールできな

ければ世界平和など絶対に実現できないと思う。


ヒントは身近な足元にも転がっている。人類を信

じるという事は自分を信じることとも同じだ。

投げ出したらもうおしまいだ。これはまちがいない。


クリスマスが近づくにつれて不穏な空気が漂ってきた。

地元ドイツ人がヤクザを使ってフランス人やイタリア人

さらに日本人とアラブ人のヒッピー達を襲うという


情報が流れた。そういえばここのところドイツ人

ヒッピーは一人も見かけない。まことしやかにこの

情報が駆け巡った。


発端はアラブのヒッピーというより、アラブの

出稼ぎくずれの口ひげおっさん達だった。いつも

場所だ商品だと地元の常連ヒッピーともめていた。


全くヒッピーらしからぬ自国のバザール感覚で、

色んなものを路上に並べて売りに来る。かごやら

衣類やらアクセサリーやら。自分達の母国のやり方で、


実際、欧米以外の国々ではどこでもそうなのだが、

それがここでも通ると思っているみたいだ。ところが

時代の最先端を行く格調高い芸術性あふれる我ら


ヒッピーとは相容れない。起こるべくして小競り合い

が起きてきだした。それがだんだんとエスカレートして、

ついに口ひげ出稼ぎアラブが数人でドイツ人の常連の


一人を殴って怪我をさせた。クリスマスの直前である。

そのドイツ人は地まわりのヤクザに何とかしてくれと

訴えた。地まわりはどれがアラブか犯人達かわからない。


とにかくドイツ人以外は全て襲われそうだと言う事に

なってきた。確認をしに行ったフランス人が逆に脅され

て帰ってきた。怪我をさせられたドイツ人たちは狂おし


く怒っている。それはそうだここは彼らの土地なのだ。

クリスマスを目前にしてアルトでいつ何が起こるかわか

らない。その日ユースのメンバーは皆で連絡を取り合って


ナイフやらパイプやらを近くに隠し持ち、フランス人とか

イタリア人とかとも連携して、次の晩は緊迫した一晩だっ

たが、やはりドイツ人は誰も出していなかった。アラブは


というと、全くいつもどおりに派手に販売をしていた。

オサムたちは、はじめこそ緊張と恐れとでビビってはいたが

あまりの人の多さと忙しさとで販売に夢中になっていた。


そしてその晩は何も起きなかった。

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