第24話マメタン涙で10kgやせる

夜11時オサムが部屋に戻ると、マメタンは

もくもくと針金を丸めていた。


「どう?」

「だって、もう来ちゃったんだもの。

やるっきゃないでしょ」


久しぶりに聞く関東弁だ。


それからの4日間作りに作って50本の完成品

ができた。うち10本はあのアンバランスの調和

だ。売れるやろか?


さあ土曜日が来た。店が終わって11時。90cm

x90cmの小さい黒べっちんと”各10マルク”の

札を用意して、とにかく1時間でも出してみよう。


アルトシュタットの十字路付近はもうものすごい人だから、

かなり離れた銀行の角の人もまばらなスペースで、

とにかく広げてみることにした。


なかなか、人目とポリスが頭をよぎって広げられない。

「えいっ!」

目をつぶって布を広げ一気に作品を並べた。


値札を置こうとしたら人だかりができて、

「ビーフィール?」(いくら?)

「ツェーンマルク」(10マルク)


たちまち売れ出した。ビニール袋に入れるまもなく

もう手渡すだけ。お金もかばんに投げ込む感じだ。

ああ、並べ終える間も無くわずか30分で売り切れ


てしまった。アンバランスの調和も完売だ。布を

すばやくたたみかばんにしまって立ち去った。

くしゃくしゃのお札たくさんのマルク。


部屋に帰りしわを伸ばしながら、真剣に数えた。

500マルクきちんとあった。30分で5万円。

皿洗い1ヶ月で5万円。やるべし針金!


なるべし!デュッセルドルフいちの針金師!

二人の心はこの時はっきりと決まった。


ユースで後釜を探して金都をやめる準備をする。

有り金をはたいて材料を買い込み、布も買い足して

大きなかばんも買った。連日作りまくる。


次の土曜日また5万円だけ売って店じまい。金都

も円満に退職した。これからはユース泊まりだ。

石松、縁日に混じって金都の夫婦は製作に専念した。


次の土曜日石松と並んででかい布を広げる。もう

本格的だ。怖いのはポリスだけだ。売って売って

売りまくった。と、ポリツァイの叫び声。


なんども練習をしていたのでワンタッチで真っ先に逃

げた。そのままユースへ。なんと12万円の売り上げ。

石松が言う、


「あんたんとこの作品はなかなかのもんや。

あれやったらこれからもよう売れるで」


ユースに泊まり昼間作って、これからは毎晩出すことにした。

12月のことを考えるととても製作が間に合わない。在庫を

相当抱えていないとクリスマス前に売切れてしまいそうだ。


一番売れる時に在庫がないことだけはなんとしても避けたい。

とにかく材料を買い増し買い増しして必死で作り続けた。

そうした11月中旬のある日、マメタンはついにダウンした。


げっそりとやせている。もういやと言ってわんわんと泣き出した。

オサムは仕事の手を休め、マメタンを抱きかかえるようにして

外に出た。ユースの前にラインが流れている。大きくカーブして


オーバーカッセルの橋がかかっている。流れはゆったりだ。

向こうにアルトの灯が見える。その日はもう出すのを止めにした。

寒い中日が暮れてすばらしいラインのたそがれ。ベンチに腰かけ


オサムの膝にうずくまってマメタンはおいおいと泣いた。マメタン

はこの時過労とストレスから10kgもやせていたのだ。


次の日、ユースを出ることにした。アルトの近くでホテルを借りた。

一泊50マルクでちょっと高いけれどゆっくり休めるだろう。

とにかくクリスマスまで頑張るしかない。もう在庫はダンボール


5箱分はたまった。全部売り切って旅に出よう!よく考えたら

マメタンは北欧以外旅らしい旅は何一つしていないのだ。

まかせとけ。イスタンブールからギリシャ。スイスで1ヶ月


スキーをしてスペインでさらに一ヶ月休暇。大名旅行をさせてやる。

とにかくがんばろうクリスマスまで。


マメタンはすぐに回復した。さあクリスマスまであと一ヶ月。

金都の夫婦は益々その製作と販売とに執念がこもってきた。

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