第22話危険が一杯
早速石松にニッパーや材料のジルバードラート(銀針金)、
ビーズ玉などなどの仕入先を教えてもらい、製作に入った。
あの縁日が逸品渦巻き指輪の作り方を教えてくれた。
売れ筋のうろこ、ジャラジャラや指輪を部屋で黙々と作り
続ける。なかなか時間がなくて多くはできない。
久しぶりに東京館へ手紙を出してみた。
「どうも針金をやることになりそうだ」と。返事は来ない。
ケッテ作りはとても単調であきてくる。ひとつテーマを決
めて石松や縁日とは違うオリジナルを作ろうと決心した。
テーマは”アンバランスの調和”。大小の円形を主体とした
バランス作品が少しづつ増えていった。ひとつのケッテで
単価50円くらいでほとんどが手間賃。これが10マルク
約千円で売れればなんと粗利益95%の化け物だ。かならず
売れるはずだ。完成品が1ヶ2ヶと出来上がってきた。
そろそろこれを持ってユースに行ってみようか、自信作だ。
しかしデザインを盗まれるかも?とか思いつつユースに着くと
石松と縁日がこつこつと隠れて作品を作っている。
近づいていくと石松が気付いて、
「どうや?」
「まあまあです」
「いつデビューするんや?」
「次の次の土曜日くらいです」
「がんばりや・・・・・」
縁日は目もくれず黙々と作り続けている。石松もまた作業を始
めた。オサムはそーっと新作を袋から出しながら、
「こんなん作ってみたんですけど・・・・・」
二人は手を止めて覗き込む。石松が、
「なんやこれ?」
オサムは自信を持って答えた。
「アンバランスの調和というんですワ」
ところが二人は大声で、
「こんなん売れるかいな!」
縁日はさっさと作業し始める。オサムは納得いかない。
「売れませんかね?」
石松は確信を持って答える。
「売れへん売れへん。とにかく売れ筋を大量に作っと
かんと、ほんまに、すぐ売り切れてもうてどもならんで」
「そうですね。ようわかりました」
オサムは意をそがれてしょんぼりと新作を袋にしまった。
その日はアルジェリアの学生の団体が泊まっていて、
一週間ほどいるという。半分が女子学生で30人ほど。
ちょうど観光から帰ってきたところで作業に興味津々だが
もう昨日も散々とり巻いていたそうだ。石松も縁日も全く
相手にしないで作りまくっているから今日は近づいてこない。
中に母親が日本人というハーフ、黒髪でスタイルがよくて、
その娘がとにかく積極的にモーションをかけてくる。
「あんたに気があるんやであの娘、みえみえや」
石松が笑う。大阪弁につられてつい、
「わしフィアンセおるしええワ」
「ディスコくらいさそってやり」
「・・・・・そやな」
ちょうどそこにユース泊まりの日本人旅行者が3人やって
きたのでアルジェ娘を含めて10人ほどで今晩ディスコへ
行くことになった。オサムは仕事が終わって後から合流だ。
夜10時オサムは店が終わってアルトに駆けつけた。
やはりものすごい人の波だ。やっと十字路付近の人
ごみの中で彼らの姿を発見した。
近づいていくと真っ先に黒髪の彼女がオサムを見つ
けた。とてもうれしそうな顔をして走ってくる。
石畳の上だ。人をかき分け走ってくる。
オサムは髪も少し長くなりだして、あのトレスコ
にジーンズのパンタロン、けつまずきそうだ。
彼女は止まらない。そのまま思いっきり、飛び上がって
オサムに抱きつき、さらにへビィなキスをした。周りに
人垣ができて大喝采。アルトは不思議な夢の世界だ。
何をやっても映画の中のようだ。切り絵師が出ている。
神技だ。どんな絵柄もはさみ一本で切っていく。
とんぼ返りの少年がいる。洗濯板とブリキのたらい、
板に一本のワイヤーを張っただけのガラクタバンド。
そしてあのモーレツな路上販売と一瞬のポリツァイ
パフォーマンス。あのワーゲンがすごく様になっている。
ところがこの日は少し様子が違った。すぐにポリスカー
が戻ってきたのだ。ひと騒乱の末何人かが連行された。
縁日はすばやかったが石松はかばんにしまいきれずに
ケッテごと押収された。本人は無事だったが・・・・。
「また作ればええやんか」
石松はいたって元気だった。さすが中東歴戦の勇者だ。
しかし危険は危険だ。もし捕まったらと思うとぞっとする。
オサム達はディスコで踊りビールを飲んでぺちゃくちゃ
おしゃべりしてたらもう朝が来た、徹夜だ。黒髪の彼女を
なだめて皆と一緒にユースへ帰す。さあ春巻きとご飯たきだ。
寝不足のまま金都に着くと実に久しぶりにマメタンからの
手紙が来ていた。なぜか1週間前のコペンからの差出しで、
東京から追いかけてきた元彼とはストックでとにかく会った、
一週間を二人で過ごしじっくりと語り続けるうちに二人とも
成長して大人になっていたんだなと気が付いて、元彼は納得
して元気一杯他はどこも見ずに帰国したとのこと。
すごい奴だ。彼女に会いたい一心だけで来たというのは本当
だったのだ。まあ結婚でもすればかなり疲れるだろうなとは
思ったが。そういうわけで、心の準備が整いました一週間後
の夕方にデュッセルドルフの中央駅に着きます迎えに来てく
ださいとのこと。一週間後てひょっとしたら明日じゃないか。
夕方迎えに行くのは何とかなるけど心の準備が、きょうあの
黒髪娘が私を部屋まで連れてってとたずねてくるし、明日
出発してアルジェに帰るそうなので、何かとても危険が一杯で
全く心の準備ができずに、寝不足で二日酔いでボーッとしてて
そのうちに午後の休憩時間が来てしまった。黒髪娘の声だ!
「へーイ!オサム!ウェアアーユー?」
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