第14話北帰行
七ヶ月ぶりの再会だ。マメタンはすっかり東京館の
ベテラン姉御になっていて、あれやこれや、
皆の面倒を見、今日は越路吹雪が来るわよとか、
厨房に指示したりとか、何か日本と変わりないじゃん、
と思いつつも、ありがたく三百ドルを、
ドイツ土産とをそえてお返しした。
「青タオルもウィーンではたいへんだったのね」
といいつつ、
「日本人ばっかりで、ひとつも語学は上達しないわ」
とか言っていた。
大使館や商社、芸能人が多く、全くの日本人村の住人だ。
本人も今、日本から柔道を教えに来た佐藤という
体育会系の先生とやらに熱を上げていて何かと大変らしい。
オサムは一週間ほどベラホイにいて、それからストックに
仕事を探しに行くということで、
なつかしのべラホイユースホステルに泊まった。
まだ欧州に着いたばかりの日本人がアラブのひげ男に
カメラを見せびらかしている。案の定翌日大騒ぎ。
いくら説明してもそんな男は宿泊していないとのことだった。
アラブを見たらドロボーと思え!
これは偏見でもなんでもない。
彼らムスリムは宗教的にそうなっているのだ。
持てる者から持たざる者へ
喜捨して平等と言う考え方なのだ。
アッラーの神のもとに平等。
ある日ユースのキッチンでマーガリンを開けて炒め物
をしていたら、きっちり半分となりのアラブに持っていかれた。
アッラーの名の元に半分喜び与えよこれ平等なり。
アッラーアクバル!イ二シャラー!(神の思し召すままに)
どこの国にも良い奴と悪い奴とがいる。しかし、
とにかく、アラブにだけは気をつけよう。
ユースで知り合った小曽根という、前歯が差し歯で
いつも抜けそうなボーっとした男、カナダで庭師を
して欧州入りしたその男とストックへ向かうことにした。
ところが出発前日になってあのマメタンが、私も連れてっ
てと言ってきた。東京館に退職願いを出して、アパートも
清算し、荷造り準備オーケーとのことだ。なんて奴だ。
しかし、どうも何か訳がありそうだ。無理して笑顔を作っ
ている。小曽根と顔を見合わせて”まあいいじゃん”
3人で行こかと決まった。またまた珍道中が始まる。
もうヒッチハイクはなれたものだ。何台か乗り継ぎ、
バイキングの大型人形の目印を超えて、
なつかしのストックに着いた。
途中のヒッチ、BMWのお兄さんはめちゃくちゃ飛ばすし。
2人のヤングの車はずっとしゃべりっぱなしで、途中で
いきなりポンと下ろされるし。郊外から乗ったバスには、
右顔面半分が全部黒いあざの美少女が乗り込んでくるし。
我々は思わずびっくりしたが他の乗客は全く平気だった。
少女はにこりとこちらに微笑んだが、金髪に抜けるような
白い肌、ブルーの瞳、顔半分が真っ黒なのだ。平気で友達
とおしゃべりしている。日本ではまず考えられない。まわ
りも出歩くなと言うだろうし、本人も出たがらないだろう。
すばらしいことだ。日本も早くこうならなくちゃ。
そういえばコペンで、乳母車に黒白二人のベビーを
二人とも私の子だと母親がうれしそうにほお擦りしてた。
やはり日本では考えられない。
コペンで出産した日本人女性は、費用は全て無料で毎週
大きな天秤量りを持って看護婦さんが巡回に来る。
至れり尽くせりだ。さすが福祉の国。
ところがオサムたちのような出稼ぎ労働者には重税が
のしかかる。なんと収入の半分が税金なのだ。それでも
ドイツより北欧のほうが実入りがいいのは、そうとう
物価が高いということだ。朝晩ダブルで必死に稼ぐと
いうのが実態だった。それでも労働許可証が取れて
福祉は十分行き届き、3年で永住権が取得できると
いうのは、捨て身の日本人には魅力であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます