第13話ホモおじさん
ついに春が来た。ドイツ語も語彙は少ないのに
なれなのかミョウに板についてきた。
中華料理はもうプロ並みだ。
一段とたくましくなったようだ。金もたまった。
自信満々、早くコペンに戻って300ドル返そう。
全てはそれからだ。
ミュンヘンのユースに『バイとあります』と
張り紙を出したらすぐに後釜は決まった。
あの助平なシェフともお別れだ。
別れ際にシェフが耳元でささやいた。
「パスポートを300ドルで売ってくれないか?」
「ナイン、イッヒカンニヒト」(あきまへん)
さいならシェフ。色魔しかまバイバイ!
再び青タオルを首にかけ寝袋をバックに
ヒッチハイクの再スタートだ。
何台か乗り継いで、
フランクフルトからデュッセルドルフへ、
ラストは高級ベンツのおじさんだ。
上品な感じ、60代か?お金持ちそう。
ドイツ語と英語を織り交ぜて、
最初の会話はいつも決まっている。
どっから来た?どのくらいいる?どこへ行く?
学生か?何してる?日本はどんな国か?
ドイツは好きか?生活はどうしてる?等等。
もう英語でもドイツ語でもペラペラだ。
ところがこのおじさん、運転しながら
オサムの膝をぽんぽんと叩く。
それがだんだんとさすりだす。
ちょっとおじさん止めてよ、と言うと、
すっと手を引っ込める。何か変だ。
デュッセルに着いた。オーバーカッセルの
ユーゲントヘルベルゲ(ユースホステル)、
ライン川沿いの橋向こうのユース。
以降このユースが拠点となるのだが。
おじさんもこの近くらしい。
面白いテレビがあるから是非見ていけと言う。
もし力ずくになったら勝てそうだから、
との思いでついて行くことにした。
北欧のノルマンやアングロサクソン系は皆、
背が高く金髪で目が弱々しいブルー、
病的な白い肌でそばかすが多い。
ドイツゲルマンはほぼ日本人並みの体型で、
栗色の髪にブルーの瞳。さらにラテン系フランス、
イタリア、スペインと、ずんぐりむっくり。
肌も黄白色から褐色へと変わっていく。
背も低め、だんだん黒髪、黒い瞳になっていく。
パリもロンドンも人種のるつぼだ。
かつての植民地時代の名残か、
衛兵にアジア人がたくさんいた。
ドイツ人は体型もほぼ日本人といっしょで、
カウホフ、ホルテンというデパートで
買い物をしても、服はぴったりとサイズが合う。
かえってラテン系、イタリア、スペイン、
フランス人のほうがずいぶん小柄な感じがした。
ドイツ人は信号をきちんと守るし、時間にも正確。
規律に従順で、皆で行進皆で合唱が大好きな国民性。
おせっかいなおばさんが子どもに注意する。
非常に日本人と気質が似ている。
フランス人、完全個人主義で流行に左右されず
全てマイペース、人当たりは良いが根は頑固だ。
フランス人はまるで京都人のようだ。
さて件のおじさんの部屋で二人並んでソファーに
座ってテレビを見ている。カラー画面に
美しい公衆トイレがバーンと映る。
肉体美の若者が現れ中に消えていく。また一人
キャミソール肉体美の若者が現れ、また中に消える。
隣のおじさんはだんだんと息遣いが荒くなってきている。
三人目が出てきた。褐色の美男子だ。
おじさんの目の色も変わってきている。
これはやばい!
そう思うや否やパッと立ち上がって部屋を飛び出た。
あえぎながらおじさんが手を伸ばし呼び止めている姿が
目に入ったが、そのまま走ってユースへ向かった。
ユース前のカフェテリアで名物の黒ビールを一杯。
うまかった。サイモンとガーファンクルの
ボクサーがかかっていた。
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