第11話バイト探し

肌寒い夕暮れ時になつかしのミュンヘンのユースに着いた。

翌朝からすぐに仕事探しだ。今日はゆっくりと休もう。


さて翌朝いよいよハウプトバーンホフ(中央駅)から

カフェ、レストラン、ホテルと片っ端から

「イッヒメヒテアルバイト」(仕事ありますか?)


で行けば40軒以内に必ず仕事は見つかるという法則。

誰がつけたか知らないが、この40軒ノルマの法則

を信じて中央駅のキオスクからスタートした。


十軒目におじさんが中華料理店に決まった。

さらに十軒目にオサムも中華飯店に決まった。

ここで愛車を廃車しおじさんと別れることにした。

(おじさんは1ヵ月後に帰国した)


オサムの中華飯店は折りたたみベッドで住み込み可。

3食付で月500マルク(約5万円)。ただし

労働許可証なしなので不法労働になる。


40軒ノルマの法則は真実だったが、半年間の幸運を祈るのみ。

天涯孤独。金もなく、ほかにすることもなかったので、

日本から持ってきたドイツ語の会話本をぼろぼろになるまで読んだ。


サイモンとガーファンクルを聞きながら、1歩も外に出ずに

ひたすらモグラのようなアルバイト生活を過ごした。


小さなレストランだったので、中国人のシェフが一人とオサムが助手。

ドイツ人のウェイトレスが一人とトルコ女のまかないが一人。

オーナーの女主人はドイツ人で頑固そうで明るくない。


皆との会話も少なく全てブスッとした感じだったが、店は繁盛していた。

ある晩など瞬く間に全テーブルが満席になり注文が殺到。


30代の無口なシェフとにわか助手のオサムとで、一気に

30食分のメニューを造り終えたときには、さすがに皆で

「ブラボー!」と拍手したことがあったが、


その時以外は、口ひげのような産毛がある小太りのトルコ女に、

あそこ磨けここ磨けプツェンプツェン(磨け磨け)といじめられた。


ドイツ人のウェイトレスはどことなく投げやりで恐らく20代半ば、

一度だけ「アーレスクラール?」(どう、元気?)と声を

かけたことがあったが、もうストレートにいやな顔をされた。


意味は通じたのだろうが、明らかに東洋人を毛嫌いしている。

同じ東洋人でも中国人と日本人とでは雲泥の差だ。

日本人と分かるととたんに愛想良くなる。


ソニーだホンダだトヨタだと畏敬の念が眼差しにありありと

表れてくる。東西ドイツ合わせても9000万人足らず。

国土も日本並み。人口なら英国も仏国も5000万人くらいだ。


日本は島国だがやはり大国なのだ。ところが中国はでかすぎる。

国土は日本の20倍。人口は10倍以上。ソ連やUSAが人口

2〜3億人で国土は広いが中国には及ばない。


ところが中国人はどこに行ってもチーノチーノとからかわれている。

何故だろう極端だ。


後日エジプトのカイロのバザールを3人で歩いていた時、

だんだんと人垣が増えてきて、最後はチーノチーノといって、


トマトを投げつけられほうほうの態でタクシーにかけ乗り、

逃げて帰った事があった。


誰かがあの時、日本人だと叫んで子どもたちに(大人もずいぶんいた)

それを説明していれば、トマトは投げられなかったと思うが。

子どもたちにはチーノもジャポネも同じ東洋人としか写らない。


一見して分かる差異で差別してくる。

最低限の初等教育は、ほんとにあまねく普遍的に、

最重要課題だと、どこの国に行っても感じた。


文盲、知識率は、開発途上国では80%以上なのだ。

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