第三章

第19話

 予想だにしない竜の襲撃から数日後。二次試験は大詰めを迎え、アリーゼは第三開戦の真っ只中だった。竜の襲撃の件は勇者ギルドで調査がされる運びとなり、今は試験期間中のこともあって事情聴取のみでアリーゼとヒルダは解放された。

 アリーゼの戦う姿を見てゼノウは思う。指導者からの立場からして、アリーゼの動きは第一回戦よりも格段に良くなっていた。それは相手に対して明らかに物怖じしなくなっていた。きっと死を意識するような経験をしたからだろう。そのおかげで第二開戦、第三開戦ともに善戦で鬼門かと思われた二次試験もどうにか突破できそうな様相を呈し始めていた。

「ハァアアアアアッ!」

 スパーン! っと小気味好い音が空に響く。相手が一瞬体勢を崩した隙を見逃さず、アリーゼの鋭い一閃が炸裂。見事魔石のネックレスを打ち砕いた。

 第三開戦終了である。

「決着したみたいだな」

 試験官が勝者へと駆け寄り第三開戦は終わりを告げた。

「ゼノウさん、わたしやりました!」

 嬉しさを体現したようなステップでゼノウのもとに駆け寄るアリーゼ。その手元には試験官から渡された一枚の紙がある。

「どうやら二次試験は突破できるみたいだな」

「ゼノウさんのおかげです!」

 戦いのあとだというのにアリーゼはまだ元気が残っているようだ。その顔つきはいくらか精悍になっているように見えた。これも窮地を経験したからだろうか。

「その紙に最終試験の案内が書いてあるはずだ。見てみろ」

 そう言われてアリーゼは試験官から手渡された紙を見る。

「――えええぇぇぇぇぇえええええええっ!?」

 そこにはエストレアから山を越えた最終試験場までの道程が記されていた。


 汽笛が高らかに青空に鳴り響く。列車は心地好い振動を伴いながら山岳地帯を駆け抜けていく。目指すは神山レジェドリクスの麓に栄える地方都市――レジェドリクスだ。都市名はそのままロイエスが力を授かった逸話から付けられており、紛らわしいので地元の人は山のほうを神山と略して呼んでいる。

「いよいよ最終試験、なんですね」

 最終試験は神山レジェドリクスの麓で行われる。そのため、列車にはアリーゼだけでなく、同じく最終試験へ駒を進めた参加者と思われる少年少女が多く見受けられた。みな麓の近くの街で最後の調整を済ませるのだろう。

「同じようにここまで残った奴らは間違いなく実力者だ。だが、今のアリーゼならそいつらにもきっと勝てる。後悔のないよう全力を出し切れ」

 発破を掛けるゼノウ。アリーゼも力強く頷き返した。

「なんだか、ゼノウさんに会う前を思い出します。あのときも列車に乗ってゼノウさんのいる街までやって来たんです」

「今と一緒だな」

「そうですね。でも、あの頃のわたしとは違う。無力だったあの頃とは」

 そう言ってアリーゼは車窓に流れていく景色に目を向ける。

 その横顔にゼノウはほんの一瞬だけロイエスの面影を見た気がした。

「最後までお願いしますね」

「ここまで来たら、最後まで付き合うさ。その代わりに絶対に結果を残せ。いいか?」

 再び列車は汽笛を鳴らす。様々な想いを連れて、列車は神山レジェドリクスの麓の都市を目指した。

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