第6話 オルタナティブ

 ここは地下500mにある洞窟。

 三人の探検家が初めてこの地に降り立った。豊富な経験に十分な装備、これから更に先にある未知なる空間を目指して、三人は期待に胸をふくらませていた。


 「教授、道が二手に分かれていますが・・・」

 一番若い助手が、二つの穴にそれぞれ電灯の明かりを照らしてみる。穴は二つとも更に奥が深そうである。


 「教授、右の穴を進みましょう」

 髭を生やした助手が、ピッケルで右の穴を指す。

 教授は髭を生やした助手を振り返る。

 「君がそう思う根拠は何かね?」


 髭を生やしたの助手は二〜三歩前に歩み寄ると、右の穴を電灯でもう一度照らして言う。

 「右の穴の方が入り口も広く、それに見て下さい、穴の奥は更に地下深くへと続いているようです」

 なるほど、彼が照らす電灯の光は、ほとんどが天井に反射して穴は下へ下へと伸びているようである。


 ここでもう一人の助手が口を挟んだ。

 「教授、私は左の穴を進むべきだと思います」

 またしても教授は、今度はその若い助手を振り返った。

 「で、君にも当然その根拠はあるんだろうね?」


 若い助手はおもむろに左の穴に近づくと、穴の周りの岩を砕き始めた。

 「見て下さい教授。左側の穴の周りは、深成岩の中でも石英を多く含んでいてとても硬い岩盤です。これより先、更に進むのであればこちらを行くべきです」

 なるほど、確かに彼が砕いた岩石にはこれらの鉱物が多く含まれているようである。


 「教授、下へと進むのなら、是非右の穴を進みましょう」

 髭を生やした助手が言う。

 「いいえ、安全性を考えても、左の穴を進むべきです」

 若い助手も負けてはいない。

 教授は暫し思案すると、二人の助手の肩を招き寄せた。


 「いっそのこと、別の穴を自分達で掘ろうじゃないか。その為の装備も十分にある」


 二人の助手は互いに顔を見合わせる。

 「なるほど、地底探検家たるもの、そこにある穴だけを進むものと思っていましたが・・・」

 髭を生やした助手の言葉に若い助手も続く。

 「確かに今までには思いもつかなかったやり方ですね」

 

 早速三人は最新の装備を用いて、二つの穴とは別のところに小さな穴を掘り始める。

 間もなく、電灯の明かりがその小さな穴の中へと吸い込まれて行った。

  

 しかしその後、この三人の探検家達がどうなったのかを知る者は、誰一人として現れはしなかった・・・



【語彙】

オルタナティブ:英語の二者択一(どちらかを選ぶ)という意味。

現在では転じて、既存のものに取って代わる新しい選択肢、つまりは代替案のことを言う場合が多い。

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