第7話 レンタル
今世紀に入り、人口は爆発的に増加し、ついには200億人の大台を越えてしまった。それに伴って、今までにない様々な規制が実施されることとなった。
結婚や出産は当然のこととして、死亡した場合の葬儀でさえ、細かい規制が政府の管理のもとによって行われるのだ。
つまりは、誰でも自由に葬儀をすることが出来なくなってしまったというのである。
人は、その死亡が確認されると、すぐにライフセンターへと通報される。通報されない場合でも、体内に取り付けられた生命維持確認装置によって、そのデータは即座にセンターへと知らされることになっている。
もちろん子供が誕生した時も、自動的にこのライフセンターへは登録される仕組みになっている。
それは身元不明のものも同様で、すべては政府が統括するこのライフセンターが取り仕切っている。
あとは、一週間もすれば、埋葬された場所と十二桁の故人ナンバーとが、政府より送られてくるだけだ。
家族にとっては、遺体収容にたずさわる、このライフセンターのスタッフが来るまでの八時間だけが、
しかし、それも時がたつにつれ、形式上のものとなってしまった。
人はしだいに、人の死に対する自分の感情というものが、どういうことなのかさえも分からなくなってしまった。
それは、あたかも使い古した
政府もこれには、頭を悩ました。なにしろ、人の死というものを単なる日常のイベントにしか思えない風潮が
政府はある決断を下した。
それは、『長寿者葬儀許可制度』というものだ。
簡単に言うならば、百歳まで長生きした者のみ、従来通りの葬儀をとり行うことができるというものである。
しかし、医療技術が最先端を極めているこんにちでさへ、百人に一人ぐらいしか、この制度の恩恵を受けることができなかった。
それでもこうすることによって、人々はかろうじて、人の死の尊厳を失わずにすんだのである。
この日も、百十二歳まで生きた一人のお婆さんが亡くなった・・・
生前、カトリック教徒だった彼女は、火葬はせずに政府が指定した墓地へと埋葬されることになる。
ところが、葬儀許可を得ることができたにもかかわらず、死んだお婆さんには身内らしい身内がほとんどいないという。
唯一、彼女のひ孫に当たるという娘が、最後のお別れの言葉を述べ、白い薔薇の花を
それに続いて、三十人ほどの参列者が悲しみと共に、薔薇の花を墓地へと投げ入れた。
みんな手にはハンケチを持ち、中にはすすり泣く者もいる。
葬儀も終わり、参列者は墓地をあとにする。
「本当に良い、ご葬儀でしたこと」
「いや、まったく。久々に、人の死に対する悲しみを味わうことができましたな」
「しかし、この葬儀というのはやっぱり火葬に限りますなあ。悲しみも長い時間、体験することができますしねえ」
「それにしても、次はいつ回ってくるのかしら・・・」
そう、ここにいる彼ら参列者達は、すべてレンタルされた人々なのだ。身寄りが少ない故人のことを思い、政府が前もって手配しておいたのである。
そんな彼らに対し、ひ孫に当たるという娘は最後まで深々と頭を下げた。
「今日は、大婆様のため、本当にありがとうございました」
すると、参列者の中の一人が彼女の肩にそっと手をかけ、微笑みながら言う。
「娘さん、お礼を言うのはむしろこちらのほうです。なぜなら、私達は久しく人の死の悲しみというものを忘れかけていました。今日ここへ参列した誰もがその記憶を思い出そうと、以前からずっとあなたのお婆さんをレンタルしていたのですから・・・」
【語彙】
レンタル:賃貸し、または賃借りのこと。
物品を、一時的使用を目的とした利用者に貸し出すこと。リースと異なるのは、レンタルの利用者は不特定多数を対象としていることがあげられる。
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