いつかは


リビングのベッドになるソファに、ケルシーを寝かせる。


もちろん、枕などに寄りかからせないように注意しながらね。


「ケルシー、風邪治ったら検査しに病院行かなきゃね」


電話も来たし、ちゃんと行かなきゃマズいしね。


「…うん、そだねぇ」


熱の所為でふわふわとした返答をするケルシーは、ぼんやりとテレビを眺めていた。


「ね、ジェイソン」


ぼんやりとテレビを眺めていたケルシーが、不意に僕に声をかけた。


僕が、かなりびっくりしてしまったのはケルシーには秘密。


「どうしたの?」


僕が訊ねれば、ケルシーはゆっくりと話す。


「…私、プロムまで…立ちあがれるかなぁ」


その言葉に、僕はビクリとした。


彼女がエーラスダンロス症候群だと診断されたあの日。


彼女が頭を抱え、泣き叫んだあの時。


医師に伝えられていた事。


『ケルシーさんは…いつかは関節痛が始まり…立ち上がる事は難しくなり、完全な車椅子生活になるでしょう』


その言葉が頭をよぎった。


医師によれば、関節痛の始まりは人により個人差があるものの、20代で完全な車椅子生活になる人が多いと。


僕はただただ、思い出してはぼんやりしてしまっていた。


「ジェイソン?」


それに気づいたケルシーに呼ばれ、ハッと我に返る。


「大丈夫、ケルシーはきっと立てるよ」


「プロムも、その後も…ずっと」


僕がそう言って笑えば、ケルシーも笑った。


大丈夫。その言葉は、自分に言い聞かせていたのかもしれない。


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Ehlers-Danlos syndrome こびと @hsmlove

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