思い出の話


テイラー、ガブリエラ、マーサと共に帰り道を歩く。


ケルシーは普段より楽しそうに話したり笑っているから…僕はなんだか嬉しくなって、少し表情が綻んだ。


「ケルシーの病気は生まれつき、なのよね?」


マーサが僕とケルシーを交互に見る。


ケルシーは笑って頷いた。


「そうよ、先天性の病気だったから…産まれてくる時にどっかの関節を脱臼して無かったから、ある意味ではまだ良かった、って…看護師さんに言われた事があるわ」


そう話して、僕の方を見上げてくるケルシー。


そんなケルシーと目を合わせつつ、僕も話す。


「しかも、キチンと病名がついたのが中学上がる前ぐらいだったから…凄く大変だったよ」


僕がそう話せば、ケルシーは何かを思い出したのか少し俯き、テイラーとガブリエラとマーサはそれぞれ顔を見合わせて驚いていた。


「普通、エーラスダンロスならわかるもんじゃないの?」


テイラーが不思議そうに尋ねて。


「難病だし、珍しい病気だし、見た目じゃわからないにしても時間かかり過ぎてるわよね…」


マーサがテイラーに同調するように頷いた。


「多分、だけど…ケルシーが良く行ってた町医者がわざと検査出来る大きな病院に行かせなかったんじゃないか、って今は思ってる」


僕が大きく息を吐きながら呟く。


「…頻繁に脱臼したり皮膚が裂けたりして何度も何度も病院に来ざるを得ない、なんて…良い金づるだものね」


僕の話に続くように、ケルシーは自嘲しつつ呟いた。


テイラーは申し訳無さそうにケルシーに謝って。


ケルシーは笑って「謝る必要なんてないわ、テイラー」って言って、首を横に振った。


「…ケルシーは病気を知った時、どう思ったの?」


ガブリエラが微笑みながら、ケルシーに尋ねる。


「…最初は、目の前が真っ暗になるぐらい、絶望したわ」


「死ぬまでずっと…治療法の確立してない難病抱えて、皮膚が裂けないように気を使わないといけないし、脱臼の痛みに苛まれなきゃいけないんだもの…」


「普通の生活すら、サポーター無しじゃ恐ろしいし…普通に歩くことすら…サポータ無しじゃ出来ない…近所以外の外は基本車椅子だし…」


「…正直、正直を言うと…私が生きる意味、生きている意味がわからなくなってたわ」


話し終えると、ケルシーは大きく息を吐き、目を拭った。


ガブリエラ達も、うっすら涙を浮かべていた。


「ジェイソンは…やっぱ、凄くびっくりしたでしょ?」


マーサが少し笑ってそういえば、僕も少し笑って。


「そりゃ、びっくりしたよ…まさか、まさかケルシーが…治療法の確立していない難病、だなんて思いもしなかった」


思い出すだけで、胸が苦しくなる。


病名を告げられ、次いで治療法が確立していないと告げられたあの時。


ケルシーは今までに見た事が無い程に大声をあげ、大粒の涙を零していた。


嗚咽を漏らし、髪を乱し、色々な事を叫んでいた。


その姿は、今もはっきりと鮮明に…僕の頭に焼き付いている。


「…でも、ケルシーが見た目にはわからないけど、治療法が確立していない程の難病だって理解した時、僕はこう思ったんだよ」


「僕だけでも、その病気をなるべく…少しでもしっかり理解して、彼女の側に居てあげたい…少しでも良いから彼女を守りたい、って」


「それが未だに出来てるかはわからないけど…少しでも良いから出来てればいいんだけどね」


僕は笑ってそう答えた。


ケルシーを見れば、俯いててもわかるぐらい顔が真っ赤で。


マーサもケルシーの顔が真っ赤になった事に気付いたようで、大笑いしていた。


テイラーとガブリエラも、見てすぐに気付いて…マーサと同じように笑っていた。


ケルシーはテイラー達にからかわれ、更に顔を真っ赤にしながら反論してたのが、なんだか面白くて…僕まで笑い出してしまった。


ケルシーは拗ねたような表情をしていたが、次第に僕たちにつられて笑っていた。


そうこうしていたら、テイラー達は方向が違ったようで、お別れして家路を歩いた。

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