バスケか、幼馴染か
次の日、ケルシーは昨日が昨日だから落ち込んで居たけれど、なんとか学校には行って、授業を受けて、そして放課後。
ケルシーの車椅子を昨日と同じで1番見やすく前に寄せやすい場所に止めてから、ロッカーに行く。
騒がしく着替える中、僕は悩んで居たからかはイマイチわからないけれど、ユニフォーム片手に固まって居たらしく、チャドにびっくりされて声をかけられた。
「どうしたんだよ、ジェイソン…ユニフォーム掴んで固まってんぞ?」
少し笑いの混じったその声に、ワイルドキャッツの皆が不思議そうに僕に振り返る。
「え、あ、うん、ちょっと悩んで考えてたみたい…あはは」
完全にバレるような無理矢理な笑いに、流石のチャドもいつもの笑顔が消えて怪訝な表情だった。
「悩みごとってなんだ?俺たちで良いなら相談に乗るぜ?」
なんて、ジークは腕を僕の肩に回しながら笑って言ってくれて。
トロイも真剣な眼差しながら優しい表情で頷いてくれた。
僕は少し、逡巡し躊躇ったけど…勇気を出して言う事にした。
「…悩んでるのは、ケルシーの事なんだ」
「彼女はサポーターがあれば腕も動かせるし車椅子も自分で操作出来るし、自分の足で歩けるんだ」
「でも、顎や肩、股関節だけはどうにもならないんだよ」
「顎はともかく、車椅子を操作中に肩を脱臼したり、移動中や座ろうとしたりして股関節を脱臼してしまうと、僕が来るまで脱臼の激痛に泣いて耐える事になる…」
「最悪、トイレに間に合わない…なんて事が起きたら…きっと、ケルシーは…やっと普通に通える、この学校に行くことすら拒むようになってしまう…」
「だから、僕はワイルドキャッツでバスケをするかどうか…凄く、悩んでるんだ…」
話し終えた僕が大きく息を吐き出すと、チャドは固まり、ジークは腕を組んで考えている表情で、トロイは困り果てていた。
「携帯で救急車呼んで、病院に運ぶってのは…駄目なのか?」
固まっていたチャドが、不意に話した。
「…彼女は病院が苦手、ってより嫌いで…検査で行く大きな病院はまだともかく…普通の病院が駄目なんだ」
「小さい頃から怪我や脱臼繰り返しては行ってた近くの普通の病院で…まだ病名も分からなかった時だったんだけどね」
「そこの主治医、最初は優しかったし普通の先生だったのに…怪我や脱臼を繰り返しては行く内に…迷惑そうな表情されたり、『またですか』『何度目ですか』なんて何回も何回も言われたり…」
「そういうのとか色々、言われたのが酷いトラウマになってるんだ、彼女」
「最近はもう、どうしようもない究極な時だけ普通の病院に行くんだけど…行けば過呼吸起こすか、パニックになって涙目で拒否を叫んだりして脱臼したり怪我したりする事もある」
「それに…今はもう、近くを通るだけでも動悸や息切れとか震えたりとか…するから、普通の病院には行かないんだ…彼女の身体の為にも、それだけは避けたいんだ、ごめんよ…チャド」
僕がしょんぼりしながら告げれば、チャドは申し訳なさそうに、「…すまん」って小さな声で呟いて。
「…どうしようもねぇよなぁ」
ジークが困り果てた表情でボヤいた。
「…うん」
トロイはただ、ゆっくり頷きながら、話し出した。
「彼女の病気がいつどこで何があるかわからない難病である以上…側に居てやるのが1番の得策なんだよね…」
「でも、彼女を…彼女の病気を理解して側に居てやれる友人が居れば…ジェイソンもバスケ出来るんじゃないか?」
トロイの意見に、チャドとジーク…というか、ワイルドキャッツの皆が笑顔になった。
「そう、だね…ケルシーに、友達…」
僕は過去を思い出し、少し恐怖だったけど…ケルシーも同性の友達欲しいだろうし、その方がケルシーは学校で、もっと安心出来るし…なんて考えて心を落ち着けた。
取り敢えずは少しだけ練習に参加して、その日は帰宅した。
部屋でのケルシーは何かを察したような表情を、一瞬だけ見せたけど…すぐに普段の笑顔のケルシーに戻っていた。
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