事件が起きる


ワイルドキャッツの初日練習。


ポジション適正の確認をしつつ、トレーニングに精を出す。


僕はというと、シュート練習をしていて。


順番待ちでちらりとケルシーを見れば、楽しげだけど興味深そうに色んな練習を見ていた。


僕は10本シュートして、入ったのは8本。


ちなみにトロイは9本入れ、チャドが8本でジークが7本だった。


ガード練習では、ジークが飛び抜けて上手かった。


次点がチャドで、次にトロイと僕って感じで。


パス練習では、チャドが明後日の方向にボールすっ飛ばしたり、僕が手を滑らせて床に叩きつけたり、バウンドパスでジークが高くバウンドさせ過ぎちゃったりと色々起きていた。


そんなこんなで練習が終われば僕達は汗だくで。


かなりの汗だくだったようで、トロイや僕の髪は濡れ過ぎてのっぺりしていて、チャドやジーク達に笑われてしまった。


ロッカーに戻ってシャワーを浴びてから着替えて、トロイ達に別れを告げてケルシーの元に走った。


ケルシーは僕を見て少し笑ったものの、辛そうに俯いていた。


「ケルシー、大丈夫?」


僕かケルシーに尋ねれば、ケルシーは小さな声で呟いた。


「…トイレ…凄く、行きたい…」


サポーターを付けて居なかったケルシーは、トイレに行こうにも行けなかったそうで。


ケルシーはサポーターを付けようかとも考えたらしいけど、脱臼したら耐えるしかなくなるのが嫌で止めたとか。


僕は慌てて車椅子を押そうとした瞬間だった。


ケルシーの身体が微かに震えた。


「…ケルシー?」


僕がケルシーの横に行けば、ケルシーはボロボロと泣いていた。


そして、濡れていく車椅子の下シート、横などから流れ落ちた液体で濡れていく床。


そう、ケルシーは我慢出来ずに決壊してしまったのだ。


「…っ、ごめんね、ケルシー!」


僕は泣きそうになるのを抑え、自分の持ってきたタオル(バスケの汗拭き用)で床を拭き、ケルシーの下腹部を隠すように被せて。


そっから慌てて障害者用トイレ(イースト校は色んな有名な人とかが来るので作られてるらしい)に飛び込んで、泣きじゃくるケルシーを抱えて便器に座らせた。


ケルシーにサポーターを付けてからゆっくり立ち上がらせて、濡れた部分をトイレットペーパーで拭いて。

(パンツとかはケルシーが自分で処理したよ、当たり前だけどね)


車椅子も綺麗に拭き取って、スボンの水分をペーパーでだいぶ吸い取ってから車椅子に座らせた。


「…っ、ごめんなさ、ごめんなさい、ごめんなさい、っ…」


ケルシーは泣きじゃくったまま、謝り出してしまって。


「大丈夫、大丈夫だよケルシー…誰もケルシーを怒ってなんかいないよ?」


僕はただただケルシーを優しく抱きしめた。


しばらくケルシーが泣き止むのを待ってから、車椅子を押して帰宅した。


僕は悩んだ。


ワイルドキャッツに入るかどうかを。


ワイルドキャッツに入れば、ケルシーはまた同じことになってしまう可能性がある。


それなら、ワイルドキャッツに入らずケルシーの側に居た方が良いんじゃないか、って。

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