脱臼


ボルトンコーチや先輩達との挨拶も済み、お昼過ぎだった為に皆でランチを食べに向かう事になった。


ランチのお店に入って、広めの席に座る。


車椅子を席の空いてるスペースに入れて、ケルシーが車椅子から椅子に移ろうと立ち上がった瞬間だった。


ケルシーが短い悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。


皆は驚いて顔を見合わせ、お客さん達も何事かとこちらを見ていた。


「ケルシー!」


僕がケルシーの側に行けば、ケルシーは脱臼の激しい痛みで顔を真っ赤にして涙を零していた。


「…っ、ジェイソン、足首痛いっ、痛い、早く、助けてよぉ…」


泣きながら、僕の服を強く握りしめる。


「…少し痛いけど、我慢してね」


僕はケルシーにそう告げて、外れてしまった足首の関節を入れた。


関節を入れた瞬間、関節が元どおりにハマった音が聞こえた。


関節が元どおり戻ったケルシーは、涙を拭いながら、小さく呟いた。


「…ジェイソン、お願い、私を抱えて座らせて欲しいの…また脱臼するの、痛いから、嫌…」


僕はケルシーにつられて悲しげな表情になり、慌てて気づかれない様になんとか表情を抑えながら、ケルシーをお姫様抱っこよろしく抱きかかえて、ゆっくりと椅子に座らせた。


「…ありがと、ごめんね」


そう言ったケルシーの表情は本当に申し訳無い、という表情だった。


座って少ししてから、やっと痛みが引いて来たらしく、落ち着いて泣き止んだケルシーはメニューを眺めていた。


「…彼女が凄い脱臼しやすいの、良くわかったよ」


トロイが小さな声で僕に話しかけて来た。


「…彼女の病気の脱臼しやすさは皆が思う100倍だな」


ジークもまた、小さな声で話に加わって来て。


「…うん」


僕は何とも言えなくなって…軽く返答してから、メニューに目を落としてしまった。


「…どれにしようかな」


メニューを見ていた僕がポツリと呟くと、不意にチャドが話し出した。


「ここは何でも美味いから、毎回来るたびに悩むんだよな」


チャドがメニューを眺めながら、困った表情で肩をすくめる。


その姿が何だか面白くて、僕は笑ってしまった。


その声につられるように、ジークもトロイも、ケルシーも笑った。


「何で笑うんだよ、ジェイソン」


チャドが拗ねたような表情をすれば、僕は「ごめん、ごめんよチャド!」って笑いを堪えながら謝って。


「俺、ホットドッグ食おっかな」


不意にジークが声を出した。


「僕はそうだな、ハンバーガー食べようかな」


トロイもメニューを指差して答える。


「じゃあ俺もハンバーガー食うわ!」


チャドはトロイにつられるように答える。


「僕は…サンドイッチ食べようかな!ケルシーはどうする?」


僕がケルシーに尋ねると、ケルシーはメニューを指差していた。


「ん、ケルシーもサンドイッチだね」


昼食を頼んで、来るまでの間…いつの間にかプロバス選手の話で盛り上がっていた。


ケルシーは僕たちを眺めて、話は半分くらいは分からないようだったけど、楽しそうに笑っていた。


昼食が運ばれて来て、話が止まらなかったから、食べながら盛り上がって。


食べ終わって帰り際に別れるまで話し続けた。




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