病気の事

担任の先生はダーバス先生という、女性のおばちゃん先生だった。


ブロンドの髪をひっつめて、グラスコード付き眼鏡をかけた厳しい感じの先生だった。


先生の長々とした話の後、沢山のプリントが配られて、更にプリントの長い説明があってから、初日だからと解散になった。


僕はケルシーの席に行き、ケルシーがプリントを鞄に入れたのを見てから車椅子を押す。


何故かと言うと、変な時に車椅子を押してしまえば、その拍子に肩、肘、手首、指のどれかの関節が外れてしまいかねないからだ。


「ね、ジェイソン…ダーバス先生、厳しそうね」


ケルシーは少し困ったような笑顔で僕を見上げた。


僕はその表情を見て少し笑う。


「そうだね、凄く厳しい先生な予感しかしないよ…」


なんて言いながら、ケルシーと話していると、チャド・トロイ・ジークが居た。


「おっ、ジェイソン!」


軽く片手を上げて反応するチャド。


トロイとジークはその声でこっちを見て居た。


「やあ、チャドにトロイにジーク…何か話してたの?」


僕が笑って尋ねれば、ジークが大きく頷いた。


「ダーバス先生、絶対厳しいよな!って話してたんだよ!」


そう言ったジークは大笑い。


「そうだ、ジェイソンもジークもワイルドキャッツに入るんだろ?とう…コーチに挨拶しにに行かないか?」


トロイの発言で、コーチに挨拶しに行く事に。


トロイの後ろを車椅子を押しながら、ジークと付いて行った。


体育館に入ると、コーチらしき人物が先輩達を指導していた。


「とうさ…コーチ!」


トロイがまた何かを言いかけてコーチを呼んだ。


コーチが声に気づき、先輩達と共に僕らの方に歩いて来た。


「トロイ、見に来たのか?」


コーチはトロイに親しげに話しかけている。


「ああ、チャド以外の新しいワイルドキャッツのメンバーを紹介したかったんだ」


「白いほうがジェイソン・クロス、黒いほうがジーク・ベイラーって言うんだ」


コーチが僕とジークをマジマジと見つめて来て、僕とジークは困惑してしまった。


先輩方は嬉しそうに「よろしくな兄弟!」とか「頑張ろうな!」とか、色んな優しい言葉をかけてくれた。


「ふむ、俺はワイルドキャッツのコーチ、ジャック・ボルトンだ…ボルトンコーチかコーチと呼ぶように」


…ボルトン?トロイと同じ苗字だ。


「コーチってボルトンっていう苗字なんですね!…でも、トロイも確かボルトンだよね?」


僕がトロイを見れば、トロイはバレたか…と言わんばかりの顔をした。


「…ボルトンコーチは僕の父さんなんだ」


その一言に、僕とジークは顔を見合わせて、ケルシーとも顔を見合わせる。


ケルシーはそれはそれは驚いた表情だった。


「あ、父さん…この車椅子の女の子はケルシーって言って、ジェイソンの幼馴染なんだ」


トロイがケルシーを紹介し始め、ケルシーは凄く恥ずかしそうに帽子を目深に被る。


「病気で車椅子ってジェイソンが言ってた」


ボルトンコーチは一定の理解はしてくれたようで、大きく頷いていた。


すると、チャドが尋ねて来た。


「そういやさ、ケルシーの病気ってなんだ?」


説明するかどうか悩みつつケルシーを見れば、仕方なさそうな表情で僕を見ていた。


「…ケルシーの病気は『エーラスダンロス症候群』って言うんだ」


病名を口にすれば、コーチもトロイ達も、先輩方も首を傾げたり肩を竦めたりしていた。


「その病気はコラーゲンに異常が発生する(正確には分子や成熟過程などにおける酵素の遺伝子変異)病気で…皮膚や関節、または血管に脆弱性…つまり、弱くなる難病なんだ」


なんとか言葉をわかりやすくするけど、僕アホだから大丈夫か心配になりつつ話す。


「『古典型』『皮膚脆弱型』『血管型』『関節可動性亢進型』『後側彎型』『多関節弛緩型』『新型』の7つのタイプがあって…まぁ、今も他のタイプが発見されてるけど…ケルシーの場合は『古典型』なんだ」


「古典型は皮膚の脆弱性と関節の過可動及び外れやすさが主な症状で…皮膚は柔らかくて繊細で…引っ張っただけでも破けるし、転べばもちろん裂けるしぶつかれば内出血するし…関節に関してはサポーターをつければ何とか日常生活が出来るタイプなんだ」


僕の説明は何とかコーチや先輩、トロイ達に伝わったらしく、安堵する僕。


「治療とかするのか?」


気になったらしいジークが僕に尋ねる。


「いや、治療はしないよ?っていうか、むしろ出来ない」


「何故かと言うと、エーラスダンロス症候群は…今も尚、治療法が1つも無い難病だから、なんだよ」


僕がそう返せば、ジークは申し訳なさそうな表情で、トロイとチャドは顔見合わせ、コーチは驚き、先輩方はびっくりしてざわざわしていた。


ケルシーはと言えば、僕の手を握って泣きそうな表情をしていた。


僕は、ケルシーに握られた手を優しく握り返して両手で包んだ。


そうすると、ケルシーは少しだけ笑ってくれた。

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