第5話

 大陸統一の手伝いをする。


 それが俺に任されられた真の役目。


 しかし、大陸統一など一朝一夕にできるものではないし、俺はそれ以前にこの国のことを深くは知らない。この王都のどこに何があるのかもわからない。


 これからここで生活をするのだから、王都のことを知らなければならない。


 というわけで、俺は城下町に繰り出していた。


 隣に王女はいない。当然だ。公務でもないのに軽々しく城下町に出て来られるはずもない。


 なので、代わりに俺を案内しているのは王女の身の回りの世話をしている給仕の一人、ノーラ・ナウマンという女性だった。言ってしまえば、彼女はメイドだ。だって、メイド服着ているし。だけど、この時代のメイドは萌え萌えキュンとか言ってくれない。


「ここが大通りです。だいたいの買い物はこの大通りで事欠かないと思います。ほかの通りも栄えていますが、一番賑やかなのは大通りになりますね」


「裏通りに行けば隠れ家的な店があるってこと?」


「そうですね」


「それで、城とは反対側、この大通りをずっと歩いて行くと闘技場があります」


 闘技場は大通りからも見える。それくらいに大きく、某国の有名なコロッセオを彷彿とさせるものだった。


「闘技場では剣闘士とモンスターが闘いをしています。観客はどちらが勝つかお金を賭けるわけです。国王公認の唯一の賭博になります」


 さしずめ公営ギャンブルというところか。


「あなたも城に身を置く身ですので、闘技場以外での賭博行為はしないように」


「心配せずとも俺はそこまで賭け狂いじゃない」


 国の中枢である王都。つまりは経済の中心地。日本でいう東京に当たるわけであるが、なるほど確かに賑々しい場所である。


「ここは中央広場です」


 言われて、案内されたところはだだっ広い場所だった。真ん中には噴水が立っている。噴水を作る技術はあるらしい。


「まあ、言ってしまえば人々の憩いの場がここになります」


 ヨーロッパとかで見られる広場はたぶんこんな感じだ。価値がありげな彫刻が施された噴水。石畳が敷かれた地面。異国情緒あふれる空間。


 ヨーロッパへ旅行に行ったことはないけれど、今ここでその感覚が味わえた。異世界だけどね、ここ。


「王都の主要な場所はだいたい案内したと思いますけど、何か質問はありますか?」


 ノーラが言った。


 王都の主要な場所は一通り案内されたらしい。そもそも王都へ来たのは初めてだから、案内された場所以外に何があるのかわからない、


 だから、


「いや、今のところはとくにないけど」


 と、答えるしかない。


「まあ、気になったことがあれば遠慮なく訊いてください。とはいえ、私はあくまでもリーゼロッテ様のメイドですので、場合によってはあなたの相手をすることはできませんのであしからず」


「つまり、俺からの頼みは基本的に利かないってことか?」


「まあ、そうなりますね。あなたは身分的に私より偉いのかもしれませんが、騎士もまた王に仕える人間ですから、その点で言えばあなたと私は同じです。なので、あなたの言うことを訊く義理は私にはありません」


「そんなに冷たく言わなくても、そもそも命令なんてするつもりないよ」


「そうですか。それはよかった。城の中において給仕はもっとも身分が低いので、騎士の方からすらバカにされることが多いんですよ。自分も使われる側の人間なのに、まったく呆れたものです」


 騎士もまた使われる側の人間。確かにそうである。だが、騎士もまた位である。位を得れば自分が偉くなったように思えるものだ。


 実際に偉くても、自分は偉いと威張るのはぶっちゃけムカつく部類の人間だ。


 ワンマン社長はいくらやり手でも、それについて行く人は少ない。マジでムカつく。日本にいた頃を思い出す。


 俺は騎士の位を得た。これはそこそこの身分である。


 しかし、それなりの身分を得ても、俺は身をわきまえないといけない。


 人々から信頼され、好かれるにはそうするほかないだろう。


 そう思う俺である。

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