第3話
叙任式が終わり騎士として正式な位を得た俺だけど、俺の仕事は騎士団で戦いに明け暮れることではなく王女の家庭教師だった。
城で働く以上、それに見合った位が必要。だから、俺には騎士の位が授けられた。騎士に叙任したからと言って別に騎士団に入るわけではない。しかし、どうして家庭教師などという仕事を与えられたのだろうか。まさか、それほどまでに王女様はおバカなのだろうか。
「それにしてもお父様も考えたわね」と王女が言った。「移民の人間をいきなり宮中伯に登用するわけにもいかないから、私の家庭教師をさせるなんて」
「どういうことだ……ですか?」
「お父様はあなたに期待をしているのよ。どうやらかつての恩師にあなたが似ているらしくてね。まあでも、移民をいきなり宮中伯に登用すればほかの諸侯たちから不満が上がる。だけども近くに置いておきたい。だから、私の家庭教師に据えた。あと、無理して敬語を使わなくて結構よ」
「俺を近くに置いてどうなるんだ?」
「お父様の恩師は賢者だったそうよ。お父様はその恩師からいろいろなことを教わったらしいわ。今のお父様を形成したのは間違いなくその恩師の影響みたい。あなたはとにかくその恩師に似ているようなのよ。顔に、頭の良さが特にね」
エレナの父の友人に王室の家庭教師をしていた人がいるという話だった。しかも、話を訊くにどうやらそいつは日本人らしい。
国王の恩師。これはおそらくエレナの父の友人と同一人物だ。
顔が俺に似ているという話だが、やはりそいつは日本人なのだろう。異世界人から見れば日本人の顔なんてどれも同じに見えるだろうし。
俺よりも前にこの国に来た日本人。いったいどんな人なのかにわかに興味が出てきた。
「その恩師は今もいるのか?」とリーゼロッテ王女に訊いてみる。
「もう亡くなったらしいわ」
ということは、会えないわけか。会いたかったけど。死んだのならば仕方ない。別に会いたくて震えるわけでもないのだし。
「俺が家庭教師になったのはつまるところ国王のブレーンとして働けってことでいいんだよな?」
「あなたはあくまでも家庭教師よ。ただ、お父様があなたに意見を求めたときは自分の考えを述べればいい。あなたはただ命令に従っていればいいの」
まかり間違っても変な欲は出すな、ということだろう。
「心配しなくても言われたことを言われたようにするさ」
日本のサラリーマンを経験した俺には朝飯前のことである。上の指示通りに動くなんてことは。
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