第18話

 エレナは俺を受け入れてくれるだろうか。厄介払いしないだろうか。


 迷惑はかけられないと思ってエレナの家を勝手に飛び出したくせに、都合が悪くなったからまた世話になるなんて許されるのだろうか。


 という感じで、うだうだ考えているうちにエレナの家の前までやって来てしまう。


 鍛冶屋であるエレナの家。しかし、その工房の扉は閉まっていた。


 移民追放策が施行され、委員会が辺りをうろちょろすることで街は活気を失って、あらゆる店が休業状態となっていた。


 エレナの家も御多分に洩れず休業状態というわけか。


 まあ、委員会と移民連合がいがみ合っている状況下で呑気に商売なんてできないわけである。


 緊張で少しばかり心臓が早鐘を打つ。しかし、いつまでもこんな所に立っているわけにもいかないので緊張しつつも扉を開ける。


 がらがら、と。扉を開ける音がけたたましく工房に響く。


 奥の方から足音が聞こえてきて、一人の少女が現れる。


 肩口くらいまで伸びた赤褐色の髪が靡く。俺は彼女を知っている。


 エレナ・スミス・ブレイズが現れた。


「……あの、エレナ。えーと、その……」


「戻ってくると思ってたよ、アスト」


「え?」


「移民連合は委員会に制圧されたって聞いたからね。ほかにアストが頼れる所って言ったらここしかないでしょ」


「俺が移民連合にいたって言える理由は?」


「移民が一人で長い間逃げ切れるわけがないでしょう。移民連合にお世話になっていたと考えるのが妥当だと思うけど」


「俺が捕まったとは考えなかったのか?」


「実は言うとさっき委員会の人がやって来たんだよ。そこでいろいろ聞いたわけ。移民連合を制圧したけど何人か逃してしまったって。とくに平たい顔の男のことを訊いてきたけど……なるほど、そういうわけなんだね」


 委員会の奴らがすでに訊き込みをして回っている。エレナはそこで平たい顔の男――つまり、俺が移民連合制圧時に逃げたことを知ったわけだ。


 そして、委員会は俺のことを執拗に訊いてきたという。きっと俺がロス=リオスと一緒に逃げたからだ。


「とりあえず、中に入ろうよ。私もいろいろと話したいことがあるんだよ」


 エレナに言われて、俺たちは家に上がる。


 俺にとっては帰宅になるのだろう。


「アスト」と優しい声音でエレナは言う。「おかえりなさい」


 そう言われて、俺の言うべき言葉はこれしかなかった。


「うん、ただいま」

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