第10話

 まずやることはロス=リオス伯が抱えたという借金の全容を掴むことである。


 帳簿を調べるか、ロス=リオス伯と話ができればいいわけだ。


「ロス=リオス伯って今、どうしているんだ?」


「館やらいろいろ差し押さえられた結果、姿を眩まそうとしたらしいけど、俺たちが保護した」


「は? え? 今、いるの? ここに?」


 初耳なんだけど。というか、ここにロス=リオスがいるってことは、こいつらは知っているはずだ。どうして彼がこんなことになったのか。


「どこにいる?」と訊けば、声が返ってくる。


「ここだよ」


 こつん、と足音がして、暗がりから現れたのは一人の中年の男。豪奢な服であるそれは薄汚れていて、彼の転落を表しているようだった。


「私が、マクシミリアン・イグナーツ・フォン・ロス=リオスだ」


「あんたがここの領主」


「元領主だ」


「質問だ」


「早速かね?」


 俺は構わず問う。


「あんたはデッセル伯に嵌められたのか?」


「さよう」


「こいつらはもう知ってるんだよな。そのこと」


「当然。しかし、彼らはそれでもなお戦う道を選んだ。まあ、私でもデッセル伯の謀略の証拠を掴めていないのだし、戦をして自由を勝ち取るのが手っ取り早いのは確かである」


 領主が脳筋だから、民もまた脳筋か。


「帳簿くらいつけているだろ。それを見れば借金の中身くらいはっきりするんじゃないか?」


「帳簿をつけているのは私ではない。私は領主であったのだぞ。雑務は従者に任せていた」


 チェックくらいしろよ。従者にやらせるのはいいが、最終確認くらい領主がやれよ。部下の仕事を上司が確認するのは普通のことだ。


「あんたはその帳簿を確認したりはしなかったのか」


「その日の収入と支出はちゃんと毎日確認していた。しかし、私が見る限り怪しい所はなかったのだ。だから、困っている。証拠がない以上、私は没落貴族として生きていかないといけなくなる」


「帳簿はどこに保管していた?」


「私の部屋にある金庫の中だ。鍵は私と私の妻しか持っていなかった」


「……そういえば」と言いながら辺りを見回して「あんたの家族はここにはいないのか?」


「妻と娘はデッセル伯に借金のかたとして連れて行かれた」


「なんだよ。そのエロマンガみたいな展開は」


「えろ……なんだって? 何を言っている?」


「いや、こっちの話だ。すまん」


 帳簿に怪しい所はなかったとロス=リオスは言うけれど、しかし調べるのなら帳簿である。


「なんにしても、帳簿は調べる必要があると思うんだ」


「しかし、帳簿はすでに館にはない」


「え?」


 館に忍び込んで帳簿を盗み出そうと思っていたんだけど。


「私が借金を抱えていたという証拠の物品だ。今は裁判所に保管してある」


 裁判所。そうか。この世界にもあるのか。まあ、ここが国である以上、法律が存在し、法律が存在するってことは裁判所だってあるわけだ。


 とはいえ、帳簿がどこにあろうとやることは変わらない。


「じゃあ、裁判所に侵入して帳簿を盗むことから始めようか」

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