第8話
この世界の建物が木造建築であることが幸いした。俺が落下した先は屋根であったが、屋根は板を張ってあるだけだったので、俺はそれをぶち抜いて地面に落ちた。
俺の落下した建物は倉庫のようで誰かがいるということはなく、あるのはガラクタと思われる道具類である。しかし、我ながら幸運だと思った。ちゃんと五体満足である。
とはいえ、ダメージがないわけではない。身体中は痛く、起き上がるのにもひと苦労する有様だ。しかし、骨折はしていない。やはり運がいい。
とはいえ、屋根をぶち抜いたわけだ。騒音が起きた。ここを委員会の奴らが感知するのも時間の問題だ。早く、ここを離れないと。
「はあ……」
ゆっくりと立ち上がる。もう歩きたくないけど、歩くしかない。
倉庫を出る。
通りに人はいない。移民追放策が施行されてから、めっきり人通りはなくなった。人の数そのものが減った。旧ロス=リオス伯領の人口は移民がかなり占めていたんだなって思う。
ゆらりゆらりと歩く。走るのはもう無理だった。逃げたいけど走れない。歩くしか前へ進む術がない。これでは逃げるとはいえない。誰か俺を助けてくれ。足音が聞こえてくる。俺を追ってきたのか。
どこをどう歩いたのかわからない。今にも倒れそう。朦朧とする。
「おい」と不意に声を掛けられる。
振り向けば、建物の扉から顔を覗かせて男が手招きをしていた。この世界ではなんて言うのか知らないが、俺の知識から言わせればアジア系の顔だった。エレナの顔はコーカソイド。たぶんこの大陸の先住民族はエレナのような白人種なのだろう。
つまり、こちらに手招きをしている男は移民だ。
「早くこっちに来い。移民だろ、お前」
「誰だ?」
「そんなことは後でいいから。捕まるぞ」
語気を強めて男は言う。
ほかに逃げる場所もないので俺は男に従うことにした。
建物まで近づけば男に強引に手を掴まれて、建物の中へ連れて行かれる。そのまま祭壇下の床を開ければ地下へと続く階段があって、そのまま地下へと連れて行かれた。
どこだ、ここは?
「誰? その子?」と女性が言った。
「委員会に追われていたみたいでな。怪我もしているし、とりあえず保護した。見るに移民っぽいし」
「なんだ……」と朦朧とする意識の中で俺は訊く。
誰かが言う。
「ここは教会の地下よ」
また別の誰かが言う。
「そして、ここは我々の拠点」
そしてまた別の誰かが言った。
「我々は移民追放策を推し進める現行体制に反対する集団。さしずめ――移民連合とでも言おうかな」
俺は意識を失った。
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