第7話
旧ロス=リオス伯領はほかの領地に比べて移民の多い所だった。理由としては簡単でここの統治をおこなっていたロス=リオス家のルーツが移民であるからだ。移民の治める土地に移民が集まった。それだけだ。
しかし、今、ここは排外主義者のデッセル伯が支配するデッセル伯領となった。
デッセル伯領となったことで移民追放策が施行された。それに伴い移民追放策を推し進めるための組織、移民追放策推進委員会が発足した。
初めのうちは追放勧告である。移民たちに自主的に領外へ出ていくよう促していた。この勧告で出ていく移民たちはほかの領地に親戚がいる移民たちであった。
しかし、追放勧告を出しても一向に出ていかない移民たちがいる。そんな移民たちはほかに居場所がない人たちである。たとえば、俺みたいに。俺は別の世界からやって来た人間だ。しかも元いた世界では俺――高峰飛鴻という人間は死んだことになっている。こんな俺はほかに行く当てなんてなく、与えられたこの場所にしがみつくしかないのだ。
だけど、いくら願っても状況は好転しない。むしろ悪化するのみである。
勧告で出ていかない移民たちに襲い掛かるのは強制追放。つまり、武力を以てして移民たちを追い出そうということだ。移民たちは次々と捕えられて、強制的に領外へと追い出されていく。
俺もまた例外ではない。
最初は穏やかに事を遂行していた移民追放策推進委員会は次第に本性を現してくる。剣を片手に移民を追いかけて、やむを得なければ剣を振ってくる。怪我をするものもいれば、死人も出てくる。
エレナの家に迷惑はかけられないと思い、俺はここ最近、彼女の家には帰らずに委員会から逃げ惑う生活をしていた。路地裏に隠れて、委員会の眼をごまかし、もし見つかれば全力で逃げる。
日本では絶対に経験できない出来事。こんな事態に対応できている俺を誰か褒めてほしい。しかし、こんなはずではなかった。俺の異世界生活はもっと華やかでなければいけない。申し訳程度のチートを授かった俺である。定番の展開に則ればここからの逆転は充分あり得るから、今は耐え凌ぐしかないのだろう。
だから、俺は逃げる。
「移民だ! 捕えろ!」
移民追放策推進委員会の奴らが剣を携え、俺を追う。
俺はただ全力で走って、魔の手から逃れるのみ。
対抗する術はない。逃げながらでは魔法を放つのも難しい。いくら簡易魔法式があるからとはいえ、詠唱している間に捕まる可能性は否めない。ならば、もう、ひたすらに走って逃げるが得策だ。
あちこち角を曲がってなんとか奴らを巻こうとするけれど、委員会の奴らはしぶとく追ってくる。
そしてまた角を曲がったところで、ばったりと出会ってしまう。
正面には移民追放策推進委員会の奴らがいた。つまり、挟まれたのだ。立ち往生。
「そいつは移民だ! 捕まえろ!」
俺を追ってきた奴らがそう言えば、正面の奴らは剣を抜く。
こうなってしまえば、もう適当に魔法を放って奴らの気を逸らすしかないのだろうけど、この場面で適切な魔法は何だ? なんて考える暇はない! どうにでもなれ。
「――トルネード」
俺はそう唱えた。ウィンドの発展系であるトルネード。つまりは竜巻を発生させる魔法だ。
唱えればたちまち竜巻が発生する。俺の周りを囲う三つの小さな竜巻。委員会の奴らは怯んだ。竜巻の中へ突っ込もうという猛者はいない。
そして、俺はそれら竜巻を操り、委員会の奴らへと差し向ける。
「後退!」と誰かが指示をするけれど、幾人かは竜巻に巻き込まれ吹き飛ばされる。
三つのうち二つの竜巻で委員会の奴らを牽制し、残りの一つの竜巻で俺自身を飛ばす。
意図的なおこないとは言え、竜巻に巻き込まれる衝撃は凄まじく四肢がちぎれるかと思った。
「ぐぁはっ」と竜巻に巻き込まれ変な声を出し、俺は空中を浮遊する。ただ逃げることしか考えていなかったので、着地点まで計算していない。竜巻を解除すれば、後は落下していくのみ。目掛けるは建物の屋根だった。
着地の仕方なんて考えておらず、俺はこれから襲いくる衝撃に備えて手で頭をガードするしかなかった。
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