第6話
国内、領内のニュースは街中にいくつか設置してある掲示板に張り出されるわけだけど、「号外でーす」という掛け声とともに張り出されたあるニュースに俺は少しばかり目を見張った。
日本語ではない文字で張り紙にはこう書かれている。
『マクシミリアン・イグナーツ・フォン・ロス=リオス伯に膨大な借金発覚 近々、領地を手放す予定』
つまり、ここがロス=リオス伯領ではなくなるということだ。紙面には続きが書かれている。
『ロス=リオス伯が手放す領地の支配権は今後ケビン・アードリアン・フォン・デッセル伯に移行するとみられる。デッセル伯はロス=リオス伯領に隣接するデッセル伯領の領主である』
要するに合併するってことでいいんだよね。俺の中では領というのは日本で言う県に相当するものだと思っていた。しかし、借金云々で合併するってことを考えると領というのはいわゆる市町村に相当することになる。認識を改めなければいけない。それにしても救済措置の一つくらいあってもいいのに。こういうのがないところを見るとやはりこの世界の文明は俺から言わせれば古い。
突然の領主のスキャンダルで掲示板の周りには人が集まりざわざわと騒がしい。
「デッセル伯って、あの?」「確か、排外主義者で有名な」「ちょっとこれはまずくない?」
ざわざわと不穏な言葉が聞こえてきたんだけども。掲示板の周囲にいる人たちの雰囲気はあまりよいものではなかった。
「大変なことになったよ、これは」
隣のエレナがそう言った。
「何が大変なんだ?」と俺は訊けば、エレナは答える。
「デッセル伯は排外主義者。外国嫌悪が激しい人で有名。ローデンバルト王国自体は移民に対して寛容な国柄。その最たる例としては移民をルーツに持ちながら領主にまでなったロス=リオス家がある。だけど、デッセル伯は移民を受け入れることによる純ローデンバルト人の減少や伝統的な文化が外来の文化と融合して変容することを危惧してか、移民に対しては厳しい見方をしている。実際、デッセル伯領は移民の受け入れを唯一拒否している領地なの。そして、今回、ロス=リオス伯領の支配権はデッセル伯に移行する。つまり、ここもデッセル伯領になるということ。言っている意味、わかるでしょ?」
ここが移民を拒否するデッセル伯の領地になる。ここがデッセル伯領になるということは移民がここにいられなくなるということだ。
「移民追放……」
「そう。ここに住む移民はここを追い出される。近いうちに」
異世界転移を果たした俺はやはり移民と同じなのだろう。ということは、俺もここを追い出される可能性がある。
「俺、やばくね?」
「まあ、うん。そうだね」とエレナはただただ中身のない言葉を口にするだけだった。
そして。
スキャンダルが発覚して三日後にロス=リオス伯領の支配権はデッセル伯へ完全移行。ロス=リオス伯領はデッセル伯領となり、直後に移民追放策が施行された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます