いつもの秋祭り ~ 19xx年 秋 ~
今日は、飛行場の秋祭りの日。
毎年毎年、この時期に開かれてます。
いつものように、滑走路の周りに生えている麦やススキの帆が黄色く色づいて、とても奇麗です。
戦争が終わって何十回目の秋祭りか忘れちゃったけど、今年はいい天気に恵まれて沢山の人が遊びに来てくれました。
ほとんどの人は、あたしみたいな年寄りには目をくれずに通り過ぎます。
うふふ。いいんですよ。
こうしてのんびりとみんなを眺めていられるだけで、とっても幸せ。
「やあ、おばあちゃん!今年も来たよ!」
あら、こんにちは。元気そうね。
いつも秋祭りに来る若い男の人が、わたしに挨拶していきました。
一昨年から奥さんと子供さんを連れてくるようになり、毎年子供さんが大きくなるのが楽しみです。そうそう、最初は彼のお父さん……そこにいる子のおじいさんが、赤ちゃんだった彼を抱っこして、お祭りにきてたんですよ。
「ばあちゃん―― 今年、親父は来れないんだ。ごめんね。」
あらあら。どうしたのかしら。
「たぶん、その辺をふらふら飛んでるよ。今日は会えるかもね。バイバイ」
あら、もう行っちゃうの? バイバイ。
男の人はちょっと寂しそう空を見上げると、子供の手を引いて去っていきました。昔、彼のお父さんは、凄腕のパイロットでした。また空を飛べて喜んでるかな?
でも、彼のお父さんがパイロットだ頃は、世界も大変でねえ。
人々は繰り返し戦争をしてました。長い長いあいだでしたねえ。
あたしも、兵隊さんのご飯を運んだり、手紙を運んだり、毎日忙しく働いてたもんです。でも、若い兵隊さんたちが優しくしてくれたので、こんなトシまで長生きできました。
運もよかったけどねぇ。
いろんな思い出もあるけど……
あの戦争で、兵隊さんもわたしの兄弟たちも、たくさん減りました。
今はこんなにみんなが幸せで、毎日のんびり生きてるけど、あの頃はこんな日が来るなんて夢みたいでしたのよ。
「やあ、おばちゃん。ご無沙汰」
「シュミットさんじゃないですか。まぁまぁ、お元気そうですね」
わたしのふるーい、ふるーい友達のシュミットさんが、若い人に引かれて、わたしのお隣に来ました。
「おばちゃんも元気そうで、イヤハヤ嬉しいのぉ。」
シュミットさんは並んで飛行場を眺めながら言いました。
「うふふ。そうそう、今日はねぇ、びっくりする話があるんですよ。」
「ほぉ。奇遇じゃ。わしもなんじゃよ。もぅ、嬉しゅうて嬉しゅうて。」
「あなたもですか。昨日は、若い人たちが徹夜で準備してくれましたからねぇ。」
そこに、ベテランの、でも私よりずっと若いパイロットさんが二人、やってきました。とっても若い兵隊さんたちといっしょに。
あの頃を思い出すわねぇ。
「さぁ、おばちゃん。今日は久々にどーんと行ってみましょう!」
「こっちも、頼むぜ!」
うふふ。
お手柔らかに。
ファンファーレが鳴って、飛行場のスピーカーから景気のいいアナウンスが流れて来た。
――――さぁ、本日のお楽しみ、懐かしい飛行機たちの登場です!
『ユンカースおばさん』こと、珍しい三発機Ju52に先導されて
メッサーシュミットBf110が続きます。そして……――――
あぁ、何年ぶりかしら。
空はやっぱり気持ちがいいですねぇ。
手間ひまかけて整備してくれたおかげで、エンジンは三つとも快調です。
「お~い、おばちゃん。気持ちええぞ~~~」
うしろからシュミットさんの声がしてきました。あっちも快調のようですね。
今日は私たちが主役。
でも、時々にしてね。
毎日主役の日がまた来たら、人間さんたちも、きっと嫌でしょ?
さぁもうひとっ飛び、頑張るわよーーーブォォォォォン!
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