詰まった! ~1945.9~
~詰まった!~
詰まった。まったく、ついてねえ。
まぁ、おれがどうなっちまったかと言うとだ……
「そっちから機銃弾をとってくれ!こっちは弾切れだ!」
「こっちも少ねえが、一箱だけ回してやる。山下、ちょっと行って来い。」
山下、と呼ばれたのが俺。双胴の変則八発攻撃機「連山」の機銃手だ。
「変則」というのは、二つある胴体に対して外側の翼に取り付けられた四つのプロペラで飛んでるのだが、発進や緊急のときは胴体に挟まれた翼にぶら下げられた四つのジェットも使えるからさ。いざとなりゃかなり速い。ペラの迎撃機なら、たいていは振り切れるんだ。でかい飛行機だって言うのに。
聞いた話だと、何年か前に英国で試作された「ツインハリファックス(なんと空中空母にするつもりだったそうだ)」とやらをヒントに作ったらしい、中島の三千馬力エンジンを搭載した東洋航空の機体だ。
で、俺が言いつけられた仕事は、機銃弾の箱を一つ抱えて、俺が居る左の胴体から、あっち、右の胴体に行って来いと言うことだ。ちょっとまえに迎撃機に取り付かれて、使い切っちまったそうだ。こっちもだいぶ減ってるのだけど、まぁ、仕方ない。
左右の胴体を移動するには、翼に開けられた細いトンネルを使う。いつもなら、荷物だけロープで引っ張ってもらうのだが、今は皆てんてこ舞いなので、俺が一人でほふく前進して行くしか無いのさ。
俺は弾の入った箱をトンネルに押し込むと、自分ももぞもぞと中に入ってほふくしながらそれを押し始めた。ま、小柄な俺がよく頼まれて、何度もやってる仕事さ。
半分まで進んだ所で、機内が騒がしくなって来た。
左の胴体から機銃を撃ちまくる音が聞こえ、同時になんどか機体が大揺れに揺れた。
「あわわ・・やめれ~~~」
俺はそう叫びながら、弾と自分がずり落ちないように必死で踏ん張った。
が、次の瞬間悲劇が、おこった。他人から見れば喜劇かもしれない。
『ガンガンガンっ!』という数度の金属音がしたかと思うと、トンネルがあちこちで歪んでしまっていた。
俺自身は何ともなかったので、気を取り直して前進しようとしたら、ただでさえ狭いトンネルが歪んで狭くなり、通れない。
どうしてくれよう。
というわけで、フンヅマリ。
なかなか戻らないので心配した仲間が見つけてくれ、どうにかしようとジタバタしてみたが、出られなかった。
それから一時間半ほど、俺は「伏せ」の状態で詰まったままだ。
基地につけばバラして出してもらえるのだが、そりゃまだ二時間も先の話だ。仲間が暖かい空気を送ってくれてるからどうにか凍えずに済んでるが、少々さむい。
腹が減ったし、水も飲みてえが、下手にものを口にしちまうと、便所に行きたくなるからここはガマンだ。
「おーい、山下。頑張れよ~。着地はそっと決めてやるからなー」
足の方から機長が声をかけて来た。振り返って答えたいが、それもかなわないので「おねがいしまーす」と叫びながら足をどたばたさせた。
一方、頭の方からは副長が現れて「危ないから、弾だけでも引き取るぞー」と、ロープを投げて来た。俺はロープを受け取ると、どうにか箱にくくり付けて「できましたー」と、箱を押し出した。
途中何度か引っかかりながらも、箱はどうにかあっちに渡った。
これで、どうにかあっちの連中の顔が見られる。
いろいろ気を使っているようで、交代で声をかけ、励ましてくれたのが嬉しい。
その中で聞いたのだが、このトンネルは骨格も兼ねており、かなり頑丈な部分なのだそうだ。そうじゃなけりゃ、今頃俺は飛び込んで来た機銃弾の破片でひき肉になってるそうだ。くわばらくわばら。
「まもなく着陸だぞ。気休めかもしれんが、これで体を守ってくれ。」
それから二時間あまり、つまらない時間を詰まったまま過ごした頃、仲間の一人が知らせて来た。ついでに、枕とヘルメットを押し込んで来た。
俺は手っ取り早くヘルメットをかぶり枕を抱えると、着陸の衝撃に備えた。
しばらくして、着地の軽い衝撃と、滑走する車輪からの轟音が響いて来たが、さして酷いものではなかった。さすが機長、見事な腕前だ。
……こまった。ほっとした途端に、新たな問題が発生して来た。
便所だ、便所に行きてぇ!
早く出してくれ~~~~
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