82話 「恋敵襲来」


 大我の彼女の繭と私の妹の夢見鳥が来た。


 何で来たんだ? ここは私と大我の居場所なのに、このまま黙って居ないふりをして帰ってもらうか?


 「あれ? 私部屋をまちがえたのかな、胡蝶ちゃんが出ないわ」

 「お姉ちゃん開けてー、妹の夢見鳥が来たよー!」

 「こ、こら夢見鳥、周りの迷惑になるから叫ばないで」


 夢見鳥が大声で私を呼ぶ。このままだと隣に住むおっさんの凌駕にまたうるさいと怒られてしまう。私は居留守をやめてドアを開けた。


 「あ、胡蝶ちゃんおはよう、昨日ぶりだね、それにしても良かったわ、ここは大我さんの住んでるお部屋で合ってたのね」

 「もう、何で夢見鳥が呼んでたのにすぐに出てこなかったの?」

 「悪い二人共、滅多に人が来ないから警戒してすぐに出なかったんだ」

 「お姉ちゃん何で警戒するの? 最初に繭と夢見鳥が来たって言ったでしょ?」

 「う、うるさい夢見鳥……って、何だその格好は!?」


 驚いた事に夢見鳥は昨日着ていた青色のワンピースではなく、黒と白を基調としたフリフリがついた長袖の服とスカート、そして長いソックスに黒のブーツを履いていた。


 夢見鳥の奴何だか可愛い、けど雰囲気が前と変わりすぎだろ!


 「えへへ、可愛いでしょ、これ繭の服なんだよ」

 「やめて夢見鳥! ち、違うのこれは若気の至りで黒歴史で……あぅ」

 「ええ? 何で繭の黒歴史なの? きっと繭にも似合うのに」

 「それはね夢見鳥、私が中学二年生の時……って、何でもない! はぁ、胡蝶ちゃん聞いて、昨日夢見鳥が急にファッションに目覚めたの、そして服を探すために部屋を探し出して捨てるに捨てれなくて取ってたこのゴスロリ服を見つけちゃったのよ」

 「へぇ、夢見鳥がファッションにねぇ」


 思い当たるフシがある。私は人形特有の関節が目立たないようにするために露出が少ない服を着た。だから夢見鳥はファッションに目覚めたというより私と目的が一緒のように思えた。


 そうだとしても夢見鳥、それは目立ちすぎだ、それと繭も前と格好が違う、一体何でだ?


 繭も昨日着ていたおとなし目のワンピースを着ていたのに今は真逆だ。


 髪をポニーテールにして服は黒のタンクトップに水色のホットパンツを履いている。とても活発そうな格好だ。

 

 私は自分の格好を見た。今は赤い浴衣を来ている二人と比べると色は負けず劣らずだが格好は地味だ。


 「ボソ(くそっ……何だよ二人してそんな良い洋服を着やがって大和撫子の心を忘れたのかよ)」


 昨日私も可愛い洋服を着ていたことを忘れてつい二人に聞こえない声で悪口を言ってしまった。


 「まぁ中に入れよ……大我から来ることは聞いている」


 ついさっき大我から二人が来ることを聞いた。


 「おじゃまするわね……わぁ、ここが大我さんの部屋なんだ」

「繭のお部屋とは全く雰囲気が違うね」

 

 二人は何の変哲もない大我の部屋をまじまじと見渡した。私はそんな二人を眺めた。

 

 夢見鳥はともかく、繭はどうしてイメチェンしたんだろう? 私が思うに繭はとても大人しい女だった筈だ、なのに何で逆の活発な格好をしたんだ?


 「ボソッ(はぁ、大我さんに私を見てほしかったな)」

 「なっ!?」


 繭の独り言が聞こえた。どうやら大我の好みに合わせたようだ。


 大我の奴、こういうのが好きなのか!? そういえばあいつ私と喧嘩してた時こんな格好をしたヒマワリとツキミソウと遊んでたよな……あームカつく!


 「と、ところで二人はどうして今回来ることになったんだ?」

 「えっ、胡蝶ちゃん聞いてないの?」

 「あぁ、私は唯二人が泊まりに来るとは聞いたが理由は知らない」

 「そうなんだ、えーとね、大我さんは五日間泊まり込みのお仕事に行くみたいなの、だから留守の間胡蝶ちゃんの面倒をみてくれないかって頼まれて私達は来たの」


 そうなのか、大我は私を置いてどこに働きに行ったんだろう?

 

 「そうなんだ、けど私は大丈夫だ、だから二人は今日は暫くしたら帰って大丈夫だ」

 「何言ってるの胡蝶ちゃん! 女の子一人だけで過ごすなんて何かあったら危ないわ!」


 繭が本気で心配して大きな声で私に言った。


 「だ、大丈夫だ私は強いし……それに繭も大学とやらに行かなくちゃならないんだろ? ここから通うとなると大変なんじゃないか?」

 「それなら大丈夫よ、実は私の住んでる所と大学がここから近いの、最初に大我さんに聞いたときにびっくりしちゃった、それに今は夏休みだからその辺は心配いらないわ」


 くっ、強いな。


 繭は笑顔で私が言う事を全て否して行く。きっと他意は無い筈だ……多分。

 

 「胡蝶お姉ちゃん……もしかして夢見鳥達に来てほしく無かった? グスッ」

 「ち、違う、そうな事は思ってねぇから……ほら、撫でてやるからこっちに来い」

 

 泣きそうなる夢見鳥を抱き寄せて頭を撫でてやる。そうすることで夢見鳥は安心して泣きそうになるのをやめた。

 

 そういえば私は夢見鳥の本当の姉じゃ無かった、本当の姉は私の中にいるもう一つの魂だ……はぁ、私は偽物なのにこんな事をしていいのか?

 

 夢見鳥に対して遠慮する気持ちが生まれた。

 

 ……。


 「さて、胡蝶お姉ちゃん何かして遊ぼうよ」

 「うーん、何かって言ってもなー……こんなのしかないぞ」


 私は押し入れから大我のエアガンを取り出した。昨日の夜に大我から使い方を習った玩具だ。因みにこれは大我のお気に入りで89式小銃と言うらしい。

 

 「ちょ、胡蝶ちゃん銃なんて危ないものどこから出したの!? 危ないから収めて!」

 「わ、わかったよ繭」


 繭が尋常じゃないくらい慌てたので言う事を聞いた。


 「他に何かないかな……あ、胡蝶お姉ちゃんベットの下に絵本が合ったよ、夢見鳥に読んでよ」

 「えー面倒くせえな、私は多少文字が読めるくらいで全部はわからねえぞ」

 「だったら私が読んであげるわ、貸して夢見鳥」


 繭は夢見鳥から本を受け取った。


 「あはは、夢見鳥ったらこれは絵本じゃなくて漫画雑誌よ……へぇ、表紙が綺麗でかわいい女の子が描かれてる、少女漫画かしら」


 大我が少女漫画を読む? 無い無い。


 「じゃあ読んであげるわね……………えっ」

 「どうしたの繭? 早く夢見鳥にみせて」

 「私にも見してくれ」

 「ダメっ! これは胡蝶ちゃん達には早すぎるわ! もう、大我さんったら……これは没収!」


 繭は顔を紅くしながら本を持ってきたカバンにしまった。夢見は「つまらない」と言って不満そうにした。


 「そうだわ、映画のDVDを持って来たから皆で見ましょう」


 こうして私達は繭が持って来たDVDを鑑賞して時間を潰した。


 ___


 俺はバスの中で胡蝶の事について考えていた。

 

 「はぁ、朝の胡蝶は様子が変だったな、繭さんと仲良くやってくれれば良いけど」

 

 胡蝶は昨日から情緒不安定気味でさらに今朝も玄関前で一悶着を起こした。今更ながら禄なフォローもせずに俺の彼女の繭さんに胡蝶を任せて来たことを後悔した。


 「後で電話しよう……お、そろそろ着くな」


 バスを降りて暫く歩いた。すると有刺鉄線がついた塀に囲まれた施設が見えてきた。ここが俺の目的地だ。


 「……さて行くか」


 断って置くが俺は別に悪いことをした訳ではないのでここは刑務所等では無い。


 『〇〇駐屯地』


 施設の入り口にそう書かれた看板がある。ここは陸上自衛隊の施設なのだ。

 

 「……はい、どうぞ」

 

 衛門にいる自衛官に身分証明書を見せて中へ入る。ここを通る時は独特の緊張感がある。


 「ははっ、ちょっと緊張したな、それにしても本当に久しぶりだなこの空気」


 俺は元自衛官で以前この駐屯地にいた事がある。なので要領は分かっていたが、それでも辞めてからかなりの期間が合ったので緊張してしまった。


 ……。


 さて、何故自衛隊を辞めた俺が再びこの駐屯地に来たかのか。理由は俺が『予備自衛官』だからだ。今日は訓練に招集されたので来た。


 「予備自衛官の方、受付はこちらです」

 「お、あそこだな」


 こうして俺は受付を済ませて迷彩服に着替えたのだった。

 

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