78話 「人形とデート」
旅行の帰り、駅で大我は繭からキスされた。私はそれを目の前で見て心の中で良くない感情が芽生えた。
嫉妬、憤怒、悲哀、そして憎悪。
「大我、さっさと帰るぞ!」
大我の手を引き駅を急いで出る。
「……タクシーで帰るか」
「待て」
駅の前にあるタクシー乗り場で私はタクシーを止めようとする大我を静止させた。
タクシーに乗ったらまた来たときみたいに動かない人形のフリをさせられる。せっかく人形だとバレない服を着ているのにそれはつまらない。
「大我、せっかくだから街を歩いてみたい」
「えっ?」
大我は暫く悩んだが最後は私と街を歩く事にした。
……。
わぁ、なんだここ、見たことのない建物ばかりだ。
私は生まれて初めて街を見た。旅行先で見た街とは違ういわゆる都会というやつだ。
街にいる大勢の人々を観察する。どの人も様々な表情をしながらどこかへバラバラに動き回っている。
ちょっとこの中に交じるのは怖い。
「……おい」
突然大我が私の手を握った。
「何ビビってんだよ胡蝶、大丈夫だから、けど迷子になるかもしれないから手を繋いで歩くぞ」
大我は照れくさそうにしながら言う。それだけで私は最初に感じた良くない感情が消えた。
「時間も夕方だからな、少し回ったら直ぐに帰るぞ」
「それで構わない」
僅かな時間だがこうして大我と一緒に隣を歩ける事が嬉しい。
私は調子に乗ってやってはいけない事をした。
それは大我からプレゼントざれた紅い蝶の髪飾りを頭につけることだ。
まるでそれは元カレの立場からすれば別れた元カノがかつて自分のあげたプレゼントを身に着け『私のことを忘れたの』と訴えかけているように見える。
やられた方はたまったものじゃない。私は今それをしている。
可愛そうな大我、だが許してくれ、私はお前を愛している、だからこの髪飾りをプレゼントしてくれた時の気持ちを思い出して再び私の元に帰って来てくれ。
あたふたする大我の手を強く握り、どこか適当な場所を探して歩く。まず目に入ったのは何やら楽しそうな音が聞こえて来る店だ。
「なぁ、あそこは何があるんだ?」
「えっ、あそこはゲームセンターっていってゲームをして遊ぶところだ」
「ゲーム? 遊ぶ? どうやってだ?」
「うーん、説明するのが難しいからとりあえず入ってみるか?」
「……分かった、入る」
私は大我とゲームセンターとやらに入った。そこで見たのは色んな色に光り音楽を流す四角い透明な箱型の機械に、何やら綺麗な映像を流すモニター達だ。
「胡蝶はゲーセンに来るの始めてだったな、今から遊び方を教えてやるよ」
そう言って大我は大量のぬいぐるみが入った透明の箱の機械にお金を入れた。
すると軽快な音楽を流しながら箱の中の上についている何かを掴む為の機械が動く。それは最後に下に伸びてぬいぐるみを挟むがちょっと持ち上げただけでぬいぐるみを落とした。
「ふーん…………で? これは何が面白いんだ?」
「ぐっ…………次だ次! よし、俺の得意なやつをやるぞ!」
大我はわざと私の質問を無視して得意なやつのところへ行った。
「次にやるのはコレだ! シューティングゲーム」
大我は線で機械に繋がれた黒い小銃を手に持って宣言する。
あっ、大我の家に大量にある銃に似ているな。
以前家にいた時に大我から本物じゃないけど危ない物だから触るなと説明されていた物だ。
「このゲームは銃を使って画面に映る異世界のモンスター達を倒すゲームだ、これなら二人プレイできるから俺と胡蝶で遊べるぞ、今から遊び方を教えるからまずはこの銃を持ってみろ」
そう言って私は大我から銃を手渡された。
「……じゃあまずは……ってええっ!! 何でお前構え方を知ってるんだよ!?」
「はっ? 別に普通に分かったんだけど、何か違うところがあるのか?」
「いや、別に……けど初めてなのに本職で銃を使う人達と同じ構えだから驚いたんだよ、すごいなお前」
大我に褒められた、もうそんな些細なことだけで私は心が満たされる。
その後シューティングゲームのルールやリロードの仕方やアイテムの使い方などを習うと早速ゲームを始めた。
グオオオオッ!
早速画面に敵である人型のモンスターが映る。
「胡蝶そいつは敵だ、撃て」
言われた通り狙いを定めて引き金を引きモンスターを撃つ。するとモンスターは頭を弾け飛ばして死んだ。
「おいおい、いきなり初心者でヘッドショットか……くくく、こいつは頼もしいぜ」
大我に変なスイッチが入った。
「よっしゃ、俺も負けてられねぇ、元自の実力見してやるぜ!」
次々にモンスターを倒していく大我だが夢中になりすぎて、画面の端から来る敵に気がついていない。
大我を殺らせるか!
私はまたヘッドショットをして一撃で敵を倒す。
「うわっ、危なかった、胡蝶ありがとな」
「くくく、気にするな、それにしても油断しすぎじゃないのか?」
私が不敵な笑みを挑発すると大我は無言で銃を構えて私の側の画面に向かって銃を撃った。
「なっ!?」
「おいおい、お前も油断してんじゃねえのか?」
大我も同様に私に不敵な笑みを浮かべる。
「「ぷっ……あははは!」」
可笑しくなって二人で笑った。
ウガアアッ! キャッ! アウチ!
「「あっ」」
二人して笑っている間にプレイヤーの分身であるキャラクターがモンスターに攻撃されてライフを一つ削らされた。
「……胡蝶、ここからはガチだ」
「……分かったよ大我、もう油断はしない」
その後私達は連携してあっという間にボスを倒してステージをクリアした。
…………
……。
「いよいよラストステージだ」
「任しとけ大我」
私達はあれ以来ノーダメージでここまで来た。
ラストステージのボスは巨大な蛇のモンスターだ。流石にこのボスに対してノーダメージで戦うのは無理だった。
「くっ、こいつ強え」
「大我、大丈夫か!?」
大我のライフはもう一つしかない、何故ならこのステージで出現した回復アイテムを大我はすべて私に譲ってくれたからだ。
「胡蝶、多分俺はもうすぐ死ぬ、けどボスもライフがもう少ない、きっとお前のライフの数なら押し切れる筈だ」
大我が弱音を吐く。
嫌だ、せっかく二人でここまで来たのだから最後まで二人でクリアしたい。
……諦めねぇ。
急に私は頭が冴えて今まで以上に操作がうまくなりボスの攻撃を防いでいく。
「えっ、何でお前急に覚醒して動きが早くなってんの!?」
「……大我、黙れ集中しろ」
「……ハイ」
大我も最後まで粘り強く頑張りそしてようやくラスボスを倒した。
ようやく終わった。
……パチパチ、パチパチ。
一息着いた時に突然後から大勢の拍手が聞こえて来た。振り向くと私達の周りに人だかりができていた。
あんたらスゲー! ……おいおい、ノーコンティニューで全クリしやがったよ……俺見てて燃えちゃったよ……あぁ、俺も見てて萌えた……。
周りから私達を称える声が聞こえる。私達はそれに照れた。
「あっ、ニューレコードみたいだ、名前を記録できるぞ」
誰かがそう言った。
TAIGA‐KOTYO
英語で名前を記録する。
嬉しい……嬉しい、嬉しい嬉しい! こんなに幸せな気分は始めてだ。
益々周りの人達も大きく拍手をして、それが私達を祝福しているように見えた。
……。
ゲームセンターを出るとまだ外は日があった。夏は日が長い。
「なぁ、大我、帰るときなんだが、家の近くの河川敷までタクシーで行ってそこから歩いて帰らないか?」
「えっ、別に良いけど何で?」
「もっと外を歩きたいからだ」
外をもっと大我と歩きたい。そんな私のわがままを大我は快く聞いてくれた。
……。
こうして私達は夕日を見ながら歩いた。その時、旅行での出来事を思い出した。
あの日海に行った帰り大我は夕日に照らされながら二人で楽しそうに会話をして歩いている黒田と繭を寂しそうに後から眺めていた。
私はその時思った。私だけはこいつの側にいてやろうと。そしてこいつを絶対に孤独にさせないと決めた。
『お前が私を捨てない限りずっと私が側にいてやる……いや、絶対捨てるな死ぬまで私を可愛いがれ』
私はあの時そう言った。すると大我は誓ってくれた。
『私を一生可愛がる』と。
もう一度あの言葉が本気かどうか聞いてみよう。
ならば今もう一度あの誓いをしてくれる筈だ。
直接隣でそれを聞くのは今更ながら恥ずかしくなった。だから大我から少し離れるために前に走り振り向き叫んだ。
「おーい大我! 私を一生可愛がれよー!」
叫んだ、叫んで気持ちを吐き出した。初めて人をこんなに好きになった。初めて人をこんなに愛した。どうかこの気持ちが伝わって欲しい。
…………
……。
どうしたんだろう? 大我は何も言わない、それどころか悲しそうな顔をしている。
まさか、そんな!? 嫌だ、嫌だ嫌だ……聞きたくない! やめろ、やめてくれその言葉を言わないでくれ!
「……胡蝶……」
大我は無慈悲に私が聞きたいない言葉を告げる。
「……俺はお前を一生可愛がれない」
ガクッ。
一気に身体から力が抜けていく。私は倒れながら思った。
何で私は大我を手放してしまったんだろう。何で大我は私だけを見てくれないんだろう……何で繭は大我の事を好きになってしまったんだろう。
何で何で何で何で?
様々な疑問が心の中で響いたが突然情景として巨大な鮮やかな緑色をした蛇が浮かんだ。そして蛇は私に不気味な女の声で言った。
『あの男が欲しいのか? ならば力ずくで奪えば良い』
その言葉を最後に私は気を失った。
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