愛憎編
77話 「人形の愛憎」
「胡蝶、夢見鳥……」
「あっ、親父」
姉貴達と会話を楽しんでいると親父がやって来て私と夢見鳥を抱きしめた。
「……二人とも元気でな」
「親父ありがとう、それと親孝行できなくてごめんな」
「そんなこと無い、お前達が帰って来てくれて僕と過ごしてくれた事が親孝行になった」
「親父ぃ……うぅっ」
親父と別れるのが寂しくて悲しかった。暫くして抱きしめるのを辞めると親父は私と夢見鳥に語り始めた。
「胡蝶、夢見鳥よく聞きなさい……君達は身体は人形だけど命を持って動く、はっきり言って物なのか生物なのか曖昧で区別がつかない存在だ」
「「ええっ、そうなの!?」」
私達は人形だと思ってたけど違うんだ。
「そんな君達がこれから先ずっと久我君と繭さんと本気でずっと一緒に生きたいのなら人間の女性になりきれ、決して人形だとは思わせるな! 分かったかい? そうじゃないと君達は死ぬ」
くっ……親父の言うとおりだ、これからはできるだけ露出を少なくして身体を隠して大我に人形だと思わせないようにしよう。
親父のアドバイスに従うなら今日の私が着ている長袖のブラウスやニーハイソックスはかなり効果があるだろう。しかし夢見鳥はまずい。
夢見鳥は繭とお揃いのワンピースを着ているが人形特有の関節が丸見えできっと繭に人形と意識される。
「あうぅ……」
夢見鳥もその事に気がついたようで落ち込んでしまった。
「夢見鳥、そんな落ち込むな、これから気をつけて行けばいい」
「胡蝶お姉ちゃん……うん」
夢見鳥はこれから先ずっと繭の心を繋ぎ止めて置く事ができるだろうか心配に思った。
「お父様、そろそろ大我様達を送る時間になりますぅ」
「分かったよ心春、君は門の前に車を準備しに行ってくれ……さてそれじゃあ皆で見送りに行こうか」
親父達と一緒に外に出ると大我と繭が屋敷の門の前に荷物を持って待っていた。
「胡蝶、もう挨拶はいいのか?」
「あぁ、もう十分だよ大我」
「そうか、じゃあ帰るか」
あぁ、帰ったらまた大我と二人切りで生活できるんだ!
私は嬉しくなって大我に抱きついてしまった。
「……ごほんっ」
「……っ!」
繭がわざとらしく咳をする。
我慢しろ私、家へ帰れば邪魔者は居ないんだ……はぁ、それにしても不味いな、気持ちが抑え切れない、それもこれもボタンのせいだ、せっかく自分の気持ちを抑えていたのに私の背中を押すから……でもありがとう、私は絶対に大我と一緒になる。
「……胡蝶ちゃん?」
「……ふっ」
「えっ?」
大我から離れると私は繭を見つめて言葉に出さないが不敵な笑みを浮かべて宣戦布告する。
悪いな繭、やっぱり私は大我を諦め切れない……大我を奪い返すから覚悟しろ。
「どうしたんだ胡蝶?」
「何でもねえよ」
大我が私を訝しむが適当にあしらう。
「お待たせしましたぁ、皆様忘れ物はないですかぁ? 無ければこれから私が安全運転で皆様をおくりますわぁ」
心春が車を準備して来たので乗り込む、配置は私と繭と夢見鳥が後で助手席に大我が座った。
畜生、大我の奴何で前に座るんだよ、心春が良いのか? 私の近くに居たくないのか!? ……はっ! 私は何でこんな些細な事に嫉妬して怒っているんだ?
自分が以前より嫉妬深くなったと思うと同時に胸に感じた事のない違和感を感じた。
……少し冷静になろう。
頭を冷やし冷静になったところで車が動き出す。
親父や姉貴達が手を振り見送る。私は車の窓から顔を出して皆が見えなくなるまで見続けた。
……。
「到着しました……大我様、繭様ここでお別れですぅ」
心春が駅まで私達を送ってくれた。
「心春さん、お世話になりました……それと、ごめんなさい」
「大我様気にしないで下さい……ぐすっ、繭様と幸せになってください」
大我と心春の会話を聞いて分かった。大我は心春に告白されたが振ったようだ。
心春、お前は本当にそれで良いのか?
ライバルは増えない方が良いが、そう思わずにはいられなかった。
また胸に違和感を感じた。
心春と別れて駅のホームまで歩いた。
私は親父にもらった服と関節が隠れるように手袋と長いニーハイソックスを履いたおかげで驚く事に私が人形だとバレる事は無かった。
夢見鳥の方はここに来る疲れて途中で眠ってしまったので今は大我が繭の代わりにおんぶして運んでいる。
「……畜生、夢見鳥の奴気持ち良さそうに大我の背中で寝やがって……ん? 何か周りがざわめいているな」
ざわざわ……おい見たかあの子、可愛くね? モデルか? ……萌ぇ。……ちょっとあんた何で私じゃなくてあの子を見てるのよ!
駅の中の人々が皆私に注目している。
これこれ、これだよ私が望んでいたのは、くくくっ、注目されるって何て気持ち良いんだ、こんな彼女を持てるなんて大我もきっと鼻が高いだろうな。
「おい大我…………あっ」
大我は繭と一緒に楽しそうに会話して歩いていて私の呼びかけに気がついていなかった。
そうだった、大我の彼女は私じゃなくて繭だった。
私は二人の様子を後から眺めた。手を強く握りすぎたせいで痛かった。
電車の中では向かい合う席に四人で座る。夢見鳥はまだすやすやと眠っていて時々寝言で繭の名前を呼んでいた。それを見て大我と繭は笑い合っている。
……まるで二人は夫婦みたいだな、畜生。
帰りの電車は楽しく無かった。
暫くすると私と大我が降りる駅に到着した。駅には殆ど人は居らず静かだった。
「大我さん、私達はもう少し先の駅で降りるんでここでお別れです」
「わかりました、繭さんまた今度」
大我と私が電車から降りると繭が電車の入り口まで見送りに来てくれた。
「……大我さん」
「……繭さん」
二人が何故か名前を呼び合って見つめ合って居る。
あーもう! 人がいねーんだから早く電車が出発しねぇかな。
二人の行動を見ると私は自分が嫉妬で段々嫌な女になって行くのを感じた。
『只今電車は信号の点検の為運転を見合わせています、今しばらく電車の発車をお待ちください』
駅に放送が流れる。
あーもう! 何でなんだよ!
「えへへ、もう少し居られますね」
「そ、そうですね、あはは」
二人とも顔を紅くして初々しい。
畜生、畜生、畜生ぉー! なんだよ二人ともいい雰囲気になりやがって、私が側に居るんだぞ! ふざけるなっ!
完璧に二人だけの世界に入って私の存在を忘れられた。それに苛ついて更に悲しかった。さすがに耐えられなくなって声をかけようとした時繭と目が合った。
「……おい、繭、目の前で大我と……「た、大我さんっ!!」」
信じられなかった。繭が私の言葉を遮って電車から飛び出して大我の口にキスをした。
んっ、チュ。
大我は初めは驚いていたが直ぐに繭を抱きしめて受け入れた。
あ、ああああっ、ああああ……。
『間もなく電車が発車します』
放送の直後繭は逃げるように電車に飛び乗った。大我は唖然としながら発車する電車を見えなくなるまで見送っていた。
「繭さん、行っちゃった……えっ、ちょっと待って、これ俺のファーストキスなんですけど!? いいの? ヤバイ、ちょー嬉しい!」
……大我。
その後大我は嬉しさの余り駅で大声で叫んでしまい駅員さんに怒られていた。
私は心の中で嫉妬と怒り、そして憎しみでどす黒い炎をたぎらせた。
あぁ、また胸に違和感を感じる。
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