76話 「誓い」
「ん、んーん」
朝の日差しの眩しさで目を覚ます。
「……おい、胡蝶起きろ朝だぞ」
寝ぼけながら胡蝶を起こそうとするが胡蝶はどこにも居なかった。
「あ、そうだあいつは昨日は家族と一緒に寝てたんだった」
胡蝶のやつ昨晩はちゃんと思い残す事なく家族とすごせたのかな……って何で最後の別れのみたいになってるんだ、たまに休みが取れたら古家さんに会いに行けばいいだけだろうが。
「よう、大我起きたか?」
「あぁ、おはよう胡蝶」
部屋の片付けと帰る準備をしていると胡蝶が俺の部屋にやって来た。
今日の胡蝶は昨日古家さんにもらった白の長袖のブラウスに黒色のスカートとニーハイソックスを履いていた。
「その服気に入ったのか?」
「あぁ、親父からもらった服だし、それに………」
お前がかわいいって言ってくれたからな
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもねーよ」
胡蝶が何か言ったが聞こえなかった、それにしてもなんだろう、胡蝶は何時もと雰囲気が違う気がする。
服装が変わったせいでもあるがそれ以外に原因として普段は不機嫌な美少女なのに今日はなぜかニコニコと微笑む美少女になっていた。てっきり家族と別れるので胡蝶は落ち込んでいるのかと思った。
「なぁ、お前今日はやけに機嫌がいいけど何かあった?」
「ふふふ、聞きたいか?」
胡蝶がニコニコ顔からニンマリとした顔に変化する。
あ、何か嫌な予感がするな。
「大我、私の服を見てどう思う?」
「どうって……かわ……」
「待てぇ! やっぱりそれ以上言うな! 恥ずかしくなってくる」
可愛いと言う前に口を手で抑えられた。
「……えーとだな、そうだ! まずはこのブラウスを見てくれ」
「うん、見た」
普通の極ありふれた白の長袖のブラウスだ、何か特別なデザインなのか?
「大我何かわからないか?」
「んーん……太陽の光に当たると透けて下着が見える? ぐふっ!」
「ちげーよバカ!」
丁度部屋に差し込む光で胡蝶の服をが透けて見えていたのでそれを正直に言うと殴られた。
「ったく、そうじゃなくて長袖だろ? たがら私が言いたいのは長袖で私の球体関節が隠れるってことだよ!」
あー、そういう事か、確かに胡蝶の腕の球体関節は隠れて見えない……ということはもしかして。
「次は足、見ろこの長い靴下を!」
「ぶっ!?」
胡蝶が少し片足をも上げて俺に見せつけるように足を見せる。その為少しスカートが上がり太ももがより見えるようになったので目のやり場に困る。
ぜっ、絶対領域だ……初めて見た。
「これで足の球体関節も隠れる……ふふふ、これで更に私が言いたいことが分かってきただろ?」
「あぁ、もしかしてお前これで外に気兼ねなく出歩けると言いたいのか?」
「その通りだ、ふふふこれで外の連中に私の美しさを知らしめることができるな、あぁ、きっと美少女な私に世の中の男は皆メロメロになって私はモテるんだろうな、他には女共の嫉妬と羨望の眼差しを浴びる……なんていい気分なんだ、これは誰でも機嫌がよくなるだろ、なぁ大我!」
胡蝶がニヤニヤしながら俺の肩を叩く。
出た、胡蝶の悪い癖だ、毎度の事ながらなんでこいつはこんなに自分に自信があるんだよ。
「お前が言いたい事は分かった、でも外に出れないよ、だって手の関節と首のつなぎ目が隠れてないだろ? だから直ぐに人形だってバレるよ」
「ふふふ、心配すんなそれなら大丈夫だ、ほら」
胡蝶はスカートのポケットから白のレースの手袋を取りだし手にはめた。
「これはボタンにもらったんだ、綺麗だろ? まぁ透けてるけどこれなら関節がそんなに目立たないだろ」
「お……お前にはそんなのまだ早いだろ!」
「はぁ? 何言ってんだ? 私は十六歳だぞ」
「見た目はだろ、まだ一歳なのにそんな上品な手袋を嵌めるな!」
「あぁ、もううるせぇな、それよりもなんでお前段々不機嫌になってんだよ」
「不機嫌になってねぇよ!」
嘘だ、俺は不機嫌になっている。
今回の胡蝶の外に出る為にした対策は効果があるだろう、何故なら人形の部分を隠せば普通の人間と変わらないくらい精巧に胡蝶はできている。その上こんなに可愛い服を着て外に出れば男なら誰であろうと振り向く筈だ。
その事を想像すると嫌な気持ちになった。なんとしてでも外に出るのを阻止したい。
このままずっと胡蝶を部屋に……とは言っても結局帰るときに一緒に外に出なくちゃいけないから阻止するのは無理か………ってか俺はヤバイやつか。
危うく嫉妬で危険な思考になり初めていたので一呼吸置いて落ち着く。
俺はバカか、何で胡蝶に独占欲を抱いているんだ、俺には繭さんがいるだろ。
繭さんの笑顔、泣き顔、恥ずかしがる顔、その他全ての事を思い出した。そして繭さんに愛しさを感じた。
「っ……おいまだ話は終わってねぇぞ」
気のせいか胡蝶が少し悲しそうな顔をしたように見えた。
「あ……ごめん他に何かあるのか?」
「あぁ、お前さっき私の首のつなぎ目の事を言ってただろう、それはこれで隠す」
そう言って胡蝶は俺に黒のレースのリボンを渡し、自分の首に結びつけるように言った。
「蝶々結びでいいのか?」
「それでいい………ん、どうだ似合うか?」
結び終わり胡蝶を見ると、胡蝶はとびきりの笑顔を俺に向ける。
可愛い……もうダメだ、これ以上はいけない、また胡蝶の事を好きになってしまう、俺には繭さんがいるのに。
俺は胡蝶から目を反らした。
「っ……そろそろ、皆の所に行くぞ」
「……あぁ」
そのまま部屋を出て行く。
……。
「おはようございます古家さん」
リビングに行くと古家さんがいた。他には心春さんをはじめ古家さんの娘達が全員いた。
「おはようございます大我さん」
「おはよう大我お兄ちゃん」
繭さんと夢見鳥ちゃんもいて二人はお揃いの青のワンピースをも着ていた。
「えへへ、見て大我お兄ちゃん、繭とお揃いのなの」
夢見鳥ちゃんが後ろから繭さんに抱きついて嬉しそうに俺に言う。
「夢見鳥がどうしても私の服を着たいって言ってとりあえず同じ服を二枚持っていたから着せてあげたら思った以上に喜んで朝から私にくっついてばかりなんですよ」
繭さんは少し困ったように言う。
「あはは、それは大変だ、それにしても二人とも可愛いですね、仲が良くて本当の姉妹みたいだ」
「えへへ、大我さんったら可愛いって、もぉ! 褒めても何も出ないですよ」
「おいっ!」
繭さんといちゃついていると後ろにいた胡蝶が突然怒鳴った。
「あっ………えーと、その……おい大我、本当の姉妹みたいって夢見鳥の姉は私だろ!」
「そんなの知ってるよ、ただの例えだからそんなに怒鳴るなよ」
「あ、あうう……その、そうじゃなくて、あーもう! 何でもねぇ!」
胡蝶はバツが悪そうにソッポを向いた。
「ぎゅっ」
「うわっ、なんだ!? ってガマズミ!」
「胡蝶ちゃん、私達の所へ来て」
「わわっ、ちょっと待てよ姉貴」
ガマズミちゃんがやって来て胡蝶抱きつくと姉妹が集まる場所へ連れて行く。
「夢見鳥、繭お姉ちゃんにばかりくっつかないで、向こうで私にくっついて」
「え、ええっ! ちょっと待ってよキンセンカお姉ちゃん」
夢見鳥ちゃんも胡蝶と同じ場所へ連れて行かれた。
「繭さん……二人とも行っちゃいましたね」
「そうですね、ふふふ……色々ありましたけど私ここに来れて良かったです、見てくださいあれ、私夢見鳥があんなに楽しそうにしているの初めて見ました」
夢見鳥ちゃん、そして胡蝶の二人は古家家の姉妹全員に囲まれている。今日は別れの日なので悲しい雰囲気になるかと思いきや以外に皆で楽しそうに会話を楽しんでいるようでとても別れの日だとは思えないほどだ。
「私、実は思ったんです、夢見鳥をここへ置いて行こうかと、その方が夢見鳥も幸せなんじゃないかと思って、だってこんなにあの子を思ってくれる子達が沢山いるんですよ?」
「繭さん、実は俺も似たような事を思いました」
「そうですか、今はどう思ってますか?」
「胡蝶を連れて帰りたいと思っていますよ」
「私も同じです、私といると夢見鳥は寂し思いをして絶対悲しい思いをすると想います、けど私夢見鳥が居ない事を想像すると悲しくて悲しくてたまらないです、だから一緒に居たいんです」
「それは俺も一緒です……繭さん、俺達の将来にあの二人がずっといる事を誓いましょう」
「え…………ええっ! えっとあのその……誓いましゅぅ」
繭さんはまるでボフっと音がなるんじゃないかというほど顔を紅くして言葉を噛んだ。
何で繭さんこんなに紅くなってるんだ? もしかして俺何か変な事言った? ……………ああああっ! 言ってた!
俺も恥ずかしさで顔が熱くなり紅くなってきているのを感じた。
俺のバカ野郎! 何が俺達の将来にあの二人がずっといる事を誓いましょうだ、気が早すぎるだろ! これじゃあプロポーズじゃねえか、しかも繭さん誓ってくれてるし、あーもう嬉しいけどもこれから俺どうしたら良いんだ? ってかこれは婚約になるのか?
「久我君、何をそんなに悩んでるんだね? それに繭さんもそんなに顔を紅くして何かあったのかい?」
「ふ、古家さん」
古家さんが俺達を訝しんでいる。
「な、何でもないですよ……ねぇ繭さん?」
「は、はいそうですよ、あはは」
「……君達は嘘が下手だね、まぁいい、それより……ごほんっ、久我君、繭さん、娘の胡蝶と夢見鳥を連れて来てくれてありがとう、そして……」
『娘を末永く可愛がってください』
古家さんが深々と頭を下げる。俺と繭さんはそれを見て慌てた。
「古家さん頭を上げて下さい」
「そうですよ! それにお礼を言うなら私達の方ですよ」
「俺達は胡蝶に出会って孤独から救われました」
「私もです大我さんと同じです! だから……」
『末永く二人を可愛がります』
二人で古家さんに誓った。
「……ありがとう」
古家さんは一言そう言うと胡蝶達の元へ向かった。
「それじゃあ、そろそろ俺達も帰る準備をしますか」
俺と繭さんは一旦この場を後にした。
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