72話 「ずっと一緒に」


 「……繭お姉ちゃん早く」

 「わっ、わかったからもう少しだけゆっくり歩いてガマズミちゃん」

 

 私は今ガマズミちゃんとキンセンカちゃんに肩を担がれて移動している。

 

 大我さんを膝枕して足を痺れさせてしまったためこうしてもらわないととても歩けた状態じゃない。

 

 「……夢見鳥が可哀想だから急いで」

 

 キンセンカちゃんが焦った表情で私に言う。いつもマイペースな感じのこの子がこんな表情をするのは新鮮だ。

 

 夢見鳥、きっと起きたら私がいなかったから不安になって泣いてるのね、ふふふなんだか赤ちゃんみたい。

 

 「……繭お姉ちゃんなんで笑ってるの?」

 「え……な、なんでもないのよキンセンカちゃん」

 「……そう」

 

 ようやく足の痺れが取れて歩けるようになった時にちょうど私が泊まっている部屋に着いた。

 

 「夢見鳥、今帰ったわよ、黙って居なくなってごめんね……夢見鳥!?」

 

 私は部屋に入って驚いた。何故なら夢見鳥が布団からはみ出し障子の前でうつ伏せに倒れて動いていないからだ。

 

 「夢見鳥大丈夫なの!? 起きて!」

 

 何かおかしい……何だろう、夢見鳥は唯寝ているだけじゃない気がする。

 

 私は胸にざわつきを感じて直ぐに夢見鳥を抱き起こした。

 

 「…………ま、繭……繭ぅ!」

 

 夢見鳥は急に覚醒すると私に気づき首にしがみついて来た。その時私は勢いに負けて夢見鳥の上に倒れ込んでしまった。

 

 「良かった……繭が夢見鳥の所へ戻って来てくれた、うわぁぁん!」

 「……もう、夢見鳥ったら心配させないでよ、びっくりしたわ」

 

 私は夢見鳥がちゃんと動いている事を確認して安堵した。

 

 「夢見鳥、私は言ったでしょ? お風呂であなたを抱っこしながらずっと一緒にいるって」

 「……うん、言った」

 「私は夢見鳥とずっと一緒にいる、だから泣かないで」

 「うん……ぐすっ、繭は夢見鳥とずっと一緒にいる」

 

 私は夢見鳥が安心できるようにそのままの態勢で優しく夢見鳥の頭を撫でながら耳元で語りかけた。

 

 「……じーっ」

 「……羨ましい」

 

 あ、ガマズミちゃん達がいる事を忘れてた!

 

 私は慌てて夢見鳥の上からどけて服を直して床に正座した。

 

 あうぅ、ガマズミちゃん達の前で女の子同士で抱き合うなんて、私はなんて大胆な事をしてるんだろう……。

 

 私は顔が熱くなって来るのを感じた。

 

 ……あれ? ちょっと待って。

 

 急に冷静になり考えた。

 

 私大我さんが心春さんに抱きつかれた話を聞いて浮気されたと思って泣いた上に嫉妬したわよね、けど私も夢見鳥と同じような事をしてる……もしかしてこれって浮気した事になるの?

 

 今度は顔が冷たくなってくるのを感じた。

 

 ああああっ! 私ったらなんて悪い女の子なの……大我さんごめんなさい!

 

 「繭ぅ、夢見鳥から離れないでぇ、さっきみたいに抱っこしてぇ……ぐすっ」

 

 私が罪悪感で打ちひしがれている時、夢見鳥が起き上がり甘えるように私の背中にもたれ掛かる。

 

 なんだか今の夢見鳥は艶かしくなった気がする。

 

 「……夢見鳥、もうあなたはダメ」

 

 急にガマズミちゃんが夢見鳥を私の背中から引き剥がす。

 

 「……次は私達が繭お姉ちゃんに抱っこされる番、だからどいて」

 「えっ!?」

 

 キンセンカちゃんが私を前から抱きしめてくる。

 

 「…………繭お姉ちゃんどうしたの? 早く私を夢見鳥にしたみたいに押し倒して抱っこして」

 「そ、そんな事できないわキンセンカちゃん」

 「……なんで? 私は夢見鳥と姿は同じ、抵抗はないはず」

 「そ、そういうことじゃなくてね」

 

 私はやんわりとキンセンカちゃんを押しのけようとするが益々キンセンカちゃんは私に力強く抱きついてくる。

 

 「……どーん」 

 

 突然ガマズミちゃんが私に突進してきた。そして私はガマズミちゃんとキンセンカちゃんに押し倒されるかたちになった。

 

 「ちょっ、だめよ二人とも離れて」

 「……やだ、私も繭お姉ちゃんに抱っこされたい」

 「……くんくん、繭お姉ちゃんからとてもいい匂いがする」

 

 二人が私を抱きしめながら首筋や胸に顔を擦り着けて匂いを嗅ぎ出した。

 

 「あははは! やめて、くすぐったいから!」

 

 あぁ……大我さんごめんなさい、今私自分より幼い子達にいいように弄ばれています。

 

 「ううう、……バカ、繭とお姉ちゃん達のバカァ!」

 

 夢見鳥は私がガマズミちゃん達に抱きつかれて構って上げられなかったので嫉妬と悲しみで感情が高ぶってしまったようで部屋を飛び出してしまった。

 

 「夢見鳥待って!」

 

 私は慌てて呼び止めるが遅かった。

 

 「……ごめんなさい、やり過ぎた、キンセンカ、繭お姉ちゃんから離れて」 

 「……もう少しだけこのままでいたい」

 「……ダメ」 

 「……わかった、離れるよガマズミお姉ちゃん」

 

 ガマズミちゃんとキンセンカちゃんは名残惜しそうに私から身体を離す。

 

 私は起き上がると急いで乱れた服を直して夢見鳥を追いかけようとした。

 

 「……繭お姉ちゃん待って」

 「……少し話がしたい」

 「ごめんね二人とも、今は夢見鳥を追いかけないと」

 「……それなら大丈夫」

 「……夢見鳥はとても寂しがりや、だから絶対に遠くに行かない」

 「えっ、本当?」

 「……繭お姉ちゃん、静かにして耳を済ませてみて」

 

 私は言われた通り耳を済ませると部屋のすぐ近くから夢見鳥のかすかな泣き声が聞こえた。

 

 「……夢見鳥はとてもかわいいし、一番下の妹だから放っておけない」 

 「……本当はまた一緒に暮らしたい」

 

 二人は語り終えると急に私の前に来て土下座をして同時に言った。

 

 「「……どうか妹を末永く可愛がってください」」

 

 私は目の前の行動に胸を打たれた。

 

 「ガマズミちゃん、キンセンカちゃん顔をあげて」

 

 二人を起き上がらせる。

 

 「二人とも心配しないで、私は夢見鳥を可愛くないと思ったこともないし大好きよ」

 

 本心を伝えて二人を安心させてあげる。

 

 「……わかった」  

 「……私達はもう行くね」 

 

 二人が去って行くのを見送った後、私は部屋を出てすぐ近くで膝を抱えて泣いてる夢見鳥を確認すると頭を撫でてあげた。

 

 「夢見鳥、部屋へ戻りましょう」

 「……うん」 

 

 夢見鳥は素直に私の言うことを聞いてくれた。

 

 「ねぇ、繭……もし夢見鳥が生きてなくても……唯の人形でも一緒にいてくれる? 捨てたりしない?」 

 「え、突然どうしたの?」

 

 夢見鳥が真剣や表情で私に問いかける。しかも緊張しているのか私の服を掴む手が僅かに震えている。

 

 「そうね……例えそうなっても私はあなたとずっと一緒にいるわ、絶対に捨てたりしない、だってもう家族なんだもん」

 「……う、うううっ繭、ありがとう」

 「でも、もし今みたいに夢見鳥が生きていなかったら寂しいかな……ぐすっ、ごめんね私そのことを想像したら悲しくなってきたわ」

 

 なんだか夢見鳥と離れ離れになりそうな気がして嫌な気持ちになって来た。

 

 「さぁ、こんな暗い話はもうお終い、それより夢見鳥、家に帰ったら一緒に何処か外へ遊びに行こう!」

 「え、けど夢見鳥は人形だから外に出れないんじゃ……」

 「大丈夫、なるべく人が居ない時間帯を選ぶし服も貴方の関節部分ができるだけ隠れるものを選んで着せてあげるわ」

 「わかった! 楽しみにしてるね」

 

 私はできるだけ元気に振る舞った。そうして部屋で夢見鳥と何処へ遊びに行くかをして話して盛り上がった。 

 

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