71話 「偉そうなガキ」
俺は今古家さん家では無く、自分で契約しているアパートの部屋に居る。
「おーい大我ぁ、何なんだこの本は?」
胡蝶が俺に不敵な笑みを浮かべながらベットの下から次々と本を放り出してくる。
「あぁ!? それは俺が退職した時に先輩や同期から貰った秘蔵本!」
乱雑に放り出された本は所謂ものすごくエッチな本だ。俺は慌ててかき集めるが胡蝶に一冊取り上げられてしまった。
「へぇ、お前はこういうのが好みなのか?」
「いや、その……えーとこれは男としてしょうが無いというか、何というか」
胡蝶が持っている本はまさに俺の好みの本だが、あえてここでは語らない。
俺があたふたしていると胡蝶は、ため息を着いて本を放り投げた。
「こんなもん読んでてもしょうが無いだろ? それよりお前の目の前にこんな美少女が居るんだから活用しろよ」
「えっ!?」
胡蝶の発言に一瞬心臓が止まるかと思った。
ま、まさか……その、ベットでイチャイチャできるのか?
俺は期待した。
「これから美少女とデートしに行くぞ!」
「へ?」
胡蝶はイタズラをしたかのような笑みをしながら服を着替えに向かった。
「はぁ、何だよ期待させやがって、でもデートは楽しそうだな」
暫くすると白のワンピースと麦わら帽子を被った胡蝶が来た。
「大我、準備できたか? 行くぞ」
胡蝶に急かされるままに俺は外へ出かけた。
「おうクソガキ、女を連れて出かけるのか?」
部屋を出るといきなり隣に住んでいるいつもうるさくすると怒鳴って怖いおっさんが話しかけて来た。
俺は適当に愛想笑いをして頷いた。
「はっ……昼間っからいい身分だな、てめぇは女連れて歩く前にさっさと就職しろ!」
おっさんのピンポイントに痛い所を突く嫌味に耐えて俺はそそくさとその場を後にした。
あれ? そういえばおっさんは胡蝶が動いているのを見て驚かないな。
胡蝶は人形なので外の人は驚いたり騒いだりすると思った。しかし道行く人達が俺達の横を通るが誰一人として驚いたりしなかった。
中には立ち止まる者もいたがどうやら胡蝶があまりにも美少女だから見惚れていただけだった。
「くくく、見たか大我さっきの人は私に見惚れていたぞ」
「そうだな、俺は人生で女の子に見惚れて立ち止まる人を初めて見たよ」
「くくく、こんな美少女が彼女だなんてお前は幸せ者だな」
「う、うるせー! この自意識過剰女!」
他愛のないやり取りの後、胡蝶と公園を散歩したり、街へ買い物へ行ったりと楽しい時間を過ごした。
その後帰り道、俺達は紅い夕日が照らす河川敷の道を二人並んで歩いた。
「なぁ大我、楽しかったな」
「……そうだな」
「何だそのぶっきらぼうな返事は、家でエロ本を読んでるよりマシだっただろ?」
「ちょっ、それを言うな!」
「因みにあの本は帰ったら捨ててもらうからな」
「ええっ!?」
「なんか文句あるのか?」
「……ないです」
……。
俺達は会話が無くなり無言でいると突然胡蝶が俺の前へ駆け出して立ち止まり、振り返って叫んだ。
「おーい大我! 私を一生可愛がれよー!」
「……あったりめーだ! 胡蝶、一生可愛がってやるよー!」
俺も負けじと叫んで胡蝶の元へ駆けた。
…………
……。
「……ん?」
気がつけば俺は古家さん家の部屋にいた。
あれ? 確か夕日が照らす河川敷で胡蝶といたのに……でも古家さん家に俺はいるってことは…………ああっ!!
俺は先程の胡蝶とのやり取りが夢である事を認識した。更に夢の中とはいえ胡蝶とバカップルみたいなやり取りをしたことで恥ずかしさのあまり顔が熱くなってきた。
「大我さん起きました?」
上から繭さんの声がした。
俺は徐々に意識が覚醒して、その際頭に暖かくて柔らかい感触を感じたので手を伸ばし何が俺の枕代わりになっているのか探った。
「ひゃう、もう大我さん私の膝を触らないでください、くすぐったいです」
「えっ!? あ……すみません」
俺はどうやら繭さんに膝枕されて眠っていたようだ。
俺は慌てて繭さんの膝の上をどけた。
「ふふふ、大我さん寝言でずっと胡蝶ちゃんの事を呼んでましたよ、きっと胡蝶ちゃんの夢を見てたんですね」
「え、マジですか? 恥ずかしいな」
「えぇ、私がヤキモチを焼いちゃうくらいに……でも私も大我さんを膝枕しながら少し寝ちゃって夢見鳥と仲良くお出かけする夢を見たんです」
繭さんも俺と同じで人形と出かける夢を見たんだ。
繭さんは少し寂しそうな顔をした。
「実は私、夢を見たあと思ったんです、夢見鳥はいつも私の部屋に一人でお留守して寂しい思いをさせてるんだって、だから家に帰った時に夢見鳥と一緒に外にほんの少しだけでも行って遊んであげようかなって」
「……それはいいかもしれないですね」
俺も家に帰ったら胡蝶と外に出かけて見ようと思った。
「だけど繭さん気をつけてください……俺は胡蝶を連れて歩いていて警察に通報されましたから」
「ええっ、どういうことですかそれ?」
「……実はですね……」
「……あはは、なんですかそれ、ふふふ」
繭さんに俺の体験談を話した。すると繭さんは俺の話がおもしろかったようで沢山笑った。
ドタ、ドタ、ドタ。
廊下で誰かが急いで走ってくる音が聞こえた。
「……繭お姉ちゃんいた」
「……早く夢見鳥の所へ戻って」
部屋の障子を勢い良く開けてガマズミちゃんとキンセンカちゃんが部屋に入って来て繭さんの両腕を二人で片方ずつ引っ張り連れて行こうとする。
「ちょっ、ちょっと待って二人とも今足が痺れてて……痛たた」
「……じゃあ私達が担いて連れて行く」
「……早くして、夢見鳥が泣いてる」
二人は繭さんを肩から担いて去って行った。
「……何だったんだ今の?」
嵐のように過ぎ去って行く繭さん達に俺は暫く呆気に取られた。
「ん? まだ誰かいるのか?」
障子に人影ができていたので呼びかけてみた。すると人影は部屋へ入って来た。
「……大我様今お時間よろしいですか?」
「……私達、大我様に謝罪しにきました」
「ヒガンバナちゃん、スイカズラちゃん……分かったよ、許す、別に俺は大丈夫だから、それより二人は身体は大丈夫? 俺も君達にエグい技をかけて痛めつけちゃったからおあいこだよ、済まない二人とも」
俺は二人を許し、二人も俺を許してくれた。
「ヒガンバナちゃん、顔の傷は大丈夫なのか?」
「……えぇなんとか、醜くなってしまったけど、これは私の罪だと思って一生残しとく事にします」
「ヒガンバナお姉様は醜くくありません! むしろかっこいいです! スカーフェイスです!」
「あらそう、ならスイカズラ、貴方の顔にも傷を創ってあげましょうか?」
「ひぃっ!?」
「ふふふ、冗談よスイカズラ」
ヒガンバナちゃんは強がって見せてるがやはり顔の傷を気にしてるようだ。
「なぁ二人とも聞いて良いか? なんで今回の事件を起こしたんだ? よかったら俺に詳しい事情を教えてくれないか?」
「……いいですよ」
「……事の始まりは……」
二人は事情を語ってくれた。
理由は簡単に言えば自分達の実力不足により古家さんに認めて貰えない事への不満と不安、そして跡継ぎである心春さんへの嫉妬が原因だ。
二人はそうした思いを持ち事件が起きるまでの期間の間に追い詰められて行った事を赤裸々に告白してくれた。
話を聞いて俺が思うに実際は古家さんはヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんを認めているし頼りにしている、しかしそれがうまく伝わらなかった事が原因でもあると考えた。
もっと家族間で会話をして理解を深めたらこんな事にならなかったのに。
俺はさらに今まで古家家に思っていた事を言うことにした。
「二人とも、もっと古家さんに甘えるべきだよ」
二人は驚いた表情をした。
「え、でもお父様は私達の創造主でそんな御方に甘えるなんて」
「そうですよ、そんなの失礼です!」
「何で? 二人とも古家さんの子供だろ? だったら子が親に甘えるのなんて普通のことだから失礼なんかじゃない!」
俺は強い口調でさらに語った。
「良いか、お前らは身体は十六歳に作られてるけど実際は創られてまだ一年ちょっとしか経ってないんだよ! 人間で言うと赤ちゃんだ、だから古家さんに甘えろ! しっかりと大人になるまで可愛がってもらえ」
俺は気持ちが高ぶって立ち上がって二人に叫んだ。
「赤ちゃんの癖に偉そうに将来の事を考えてんじゃねぇよクソガキ共!」
言った……俺は言いたい事を言った、もう満足だ。
俺が気持ちよく感傷に慕っているとヒガンバナちゃんとスイカズラちゃんに胸ぐらを掴まれた。
「何ですってぇ? 誰が赤ちゃんかしらぁ!」
「私達は淑女です、赤ちゃんじゃありません!」
あれ、おかしいな、予定だと俺の熱い思いを聞いて二人は涙する筈だったのに。
「あはは、ちょっと落ち着こうか、特にヒガンバナちゃんめちゃくちゃ怖いよ」
俺の情けない態度に二人は呆れたようで胸ぐらから手を離してくれた。
畜生、世の中うまく行かねぇな。
二人は俺の部屋から去る時にこちらを向いて頭を下げた。
「大我様、赤ちゃん発言はともかくアドバイスをありがとうございます」
「私達、これから少しお父様に甘えて見ようと思います」
「あぁ分かった、きっと古家さんも喜ぶよ」
俺は二人を見送り部屋に一人になった。
少し寂しさを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます