74話 「明日帰ります」
明日は帰る。その前に古家さんに挨拶に行こう。
古家さんがいる部屋へ向かう為に廊下を歩いているとヒマワリとツキミソウがいた。
「あっ、兄ちゃんだ、何してんの?」
「よぉヒマワリ、実は明日帰るんだ、だから古家さんに挨拶に行くところだ」
「え、兄ちゃんもう帰っちゃうの?」
「もう少し居てよ、私達と遊ぼうよ」
ヒマワリとツキミソウが俺の手を引いて残念そうにする。
「ゴメンな、これ以上は迷惑になるし、俺も仕事があるから、けどまた来たとき遊んでやるからな」
二人は分かったと言って納得してくれた。
外は日が落ちて暗く虫達の鳴き声が聞えてきた。
「ツキミソウ先に行ってて、ちょっと兄ちゃんと話したい事があるんだ」
「え、……うん、分かった」
何だ? 俺と話したいことって。
ツキミソウがこの場を去り俺とヒマワリだけになった。
「話って?」
「うん、取り敢えず座ろうよ兄ちゃん」
廊下の縁側に腰掛ける。ちょうど風が吹いていて気持ちいい。
「ねぇ、兄ちゃんはさ……私達人形は嫌?」
ヒマワリは悲しそうに俺を見て訊ねる。
「え、どうしたんだよ突然そんな事を言い出して」
「……だって兄ちゃんはさ、最初は胡蝶ちゃんの恋人だったでしょ? けど今は繭姉ちゃんと恋人になったじゃない、だから人形の女の子は嫌なのかなって思って」
俺は胸を鷲掴みされた感覚がした。
「そうか……ヒマワリ、俺は別にお前ら人形が嫌じゃないんだむしろ他の女の子と対して変わらないと思ったくらいだ、けどな……俺が繭さん守りたいと思ったんだ、そしていつの間にか好きになった」
「胡蝶ちゃんよりも?」
「そうだ」
俺はきっぱりと言い切った。
「そうなんだ……なら仕方ないのかな?」
ヒマワリは膝を抱えると顔を伏せた。
「ねぇ兄ちゃん、私好きな人が居るんだ」
「えぇ、まじか!?」
「もぉ、なんでそんなに驚くの?」
「いや、ヒマワリは恋愛よりも遊ぶ事の方が大事な奴のように見えて、因みに相手は誰なんだ?」
「誰にも言わないでよ! …………龍太郎」
は? あのマセガキが好きなの?
ヒマワリは恥ずかしそうにしつつもどこか嬉しそうにして語る。
「あのね、龍太郎はね実は私の事が好きみたいなんだ!」
うん、知ってる、あのガキあからさまに俺とヒマワリとで違う態度を取るからな。
「最初はそれを知りながら龍太郎をからかうのが楽しかったんだけどね、毎日合う度に好意を寄せられてるって分かっちゃうと何か嬉しくって、それでいつの間にか私も龍太郎の事を好きになっちゃてた、えへへ」
「わぁーいいなー相思相愛じゃないかー、もう告っちゃえよー」
なんだろうこの気持ち、祝福してあげたいけど相手が生意気なガキの龍太郎だと分かるとどうにも癪に障る。
「えへへ、言われて見れば私って龍太郎と相思相愛だね…………けど龍太郎の事を好きな子がもう一人いるんだ」
あ、楓ちゃんの事だな。
「もし仮にね、私が思いを伝えちゃったらその子が悲しむと思うの、だから告白なんてできないよ、私その子の事も好きだから」
「……っ」
俺は言葉に詰まった。そして軽々しく告白しろと言った事を後悔した。
「あ、話が長くなっちゃた、えーと他にも聞きたい事があるんだけど……ねぇ兄ちゃん、私って人形じゃんか、だからその、兄ちゃん達人間とどうしても違うじゃん、それでね……将来的に龍太郎は私のことをやっぱり嫌になっちゃうものなのかなって思っちゃて」
そうか分かった、どうやらヒマワリの奴俺と胡蝶の関係が恋人じゃなくなってしまったのを目の当たりにして不安になったんだ。悪いことをしてしまった。
「なぁ、ヒマワリもう一度言うが俺はお前ら人形が嫌じゃない、それは龍太郎も同じだと思う」
「そうなの?」
「あぁ、だって龍太郎とそれに楓ちゃんだってお前ら姉妹と普通に一緒に遊んでるだろ? それが根拠にならないか?」
「うん、言われて見れば確かに」
「それにさ、お前らまだ若いだろ、てか若いというより子供だ、だからそんな事気にせず気楽に遊んどけよ、大人になったら遊べないんたぜ? ったく、お前らが羨ましいよ」
はぁ、古家さんが作った人形達はどうしてもこうも作られて一年ぐらいしか経ってないのに考えが大人に近いんだろう、外見はともかく年齢相応の考えをすればいいのに。
「ありがとう兄ちゃん、そうだね、遊んだ方が良いよね!」
ヒマワリは納得したようでいつもの元気な姿に戻った。
「あ、兄ちゃん確かお父さんに挨拶に行くんだったよね、部屋まで案内してあげるよ」
そう言ってヒマワリが俺の手を引く。
一応古家さんの部屋の位置はしってるんだけどな、まぁいいか。
……。
「お父さん、兄ちゃんが挨拶に来たよ、扉を開けるね」
部屋の前に来るとヒマワリはノックもせずにいきなり扉を開けた。
「ばぶぅ! お父ちゃまヒガンバナを抱っこしてくだしゃい、ばぶばぶぅ!」
「おぎぁあ、おぎぁあ! スイカズラも抱っこして! おぎぁあ!」
「あわわわ、どうしものかな、急に赤ちゃんみたいになって、困ったな」
部屋の中はものすごい微妙な光景が広がっていた。
ヒガンバナが赤ちゃん言葉をを言いながら古家さんに抱きつき、スイカズラは床に転がってパンツが見えてる事も気にせずにジタバタ暴れている。古家さんはそれらをどう対処していいのかわからずにあたふたしている。
俺とヒマワリはそれを生暖かい視線で見ていることしかできなかった。
「おや久我君どうしたんだい? 済まないが今は取り込み中でね、娘達が突然僕の所へきて赤ちゃんみたいな振る舞いを仕出したんだ……一体どうしたと言うんだ、そうだ久我君何か原因を知らないかい?」
俺は心当たりが合った。ヒガンバナとスイカズラに俺は説教をして、その時二人に赤ちゃんだと言った、その後アドバイスとして古家さんに甘えろと言ったがまさかこんな形で甘えるとは思わなかった。
「いや知らないですね、またしばらくして来るんでごゆっくり」
扉をピシャリと締めてその場を後にしようとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「あなた達どこへいく気よ!」
ヒガンバナとスイカズラが慌てて部屋から出てくる。
「自分の部屋へ帰るだけだよ、それよりまぁ……うん、古家さんに甘えるのはいい事だと思うよ、うん」
「……姉ちゃん達ごめんね、私達妹が言うことを聞かないからストレスが溜まってたんだね、次からちゃんと素直に言うことを聞くよ、他の妹達にも言っておくから安心して」
ヒマワリ言葉を聞いてスイカズラがヒマワリに掴みかかった。
「あなたバカじゃないの! 言わなくていいわよ、それよりこの事は黙っておくのよ、言ったら承知しないからね!」
そう言ってヒマワリをガクガク揺らす。
「大我様? 分かってるでしょうね」
「ひぃ!?」
ヒガンバナちゃんの顔と相まってものすごい迫力が有る脅しに屈して俺は直ぐに頷いた。
絶対に秘密にしよう、じゃないと殺される。
その後二人は恥ずかしくなったのか古家さんの部屋を後にした。ヒマワリも一緒に着いて行った。きっとヒマワリはこの事を面白がって言いふらすだろう。
「さてと、古家さん入りますよ?」
「久我君、入り給え」
古家さんの部屋へ初めて入る。見事な洋風の部屋で入った瞬間自分が場違いな存在なんじゃないかと思った。
「久我君、何か僕に話があるみたいだね、今お茶を持って越させるから座って待ちなさい」
「いえ、古家さんお気遣いなく直ぐに終わるんで……実は俺の仕事の都合で明日帰ろうと思うんです」
古家さんはじっと俺を見つめる。
「そうなのかい? それは残念だ……」
「………古家さん、俺は胡蝶を連れて帰ります」
……。
部屋全体が沈黙する。
古家さんは涙を堪えているのか、目頭を抑える。
「済まない、みっともない所を見せてしまったね……久我君今日は存分にゆっくりしていきなさい」
「……はい、ありがとうございます」
俺は古家さんを見ること無く静かに部屋を出た。
後から古家さんのすすり泣く声が聞こえた。
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