59話 「人形の後悔」


 ヒマワリ畑で俺は繭さんに気持ちを告白し付き合うことになった。

 

 「繭さん、帰りますか?」

 「ええ、大我さん」

 

 俺は繭さんの手を握り締め歩く。

 

 繭さんの手、こんなに小さくて柔らかいのか。

 

 初めての異性の手の感触にドキドキしてしまう。

 

 あぁ、こんなことなら手を綺麗にしときたかったな、汗で濡れてるよ……繭さん不快に思わないかな。

 

 「あの……さん……大我さん!」

 「えっ?」

 

 突然繭さんに呼ばれたので立ち止まる。

 

 「あのすみませ、もう少し遅く歩いてもらっていいですか? ……大我さん歩く速度が速くて私着いていくのがやっとで」

 

 ああああ! やっちまったぁ。

 

 昔の癖で歩く速度が俺は普段から速い。

 

 「すみません、次はもう少しゆっくり歩きますね」

 「いえ、大我さん私の方こそ歩くのが遅くてすみません」

 

 お互いに謝ると再び歩き始める、しかしどこか気まずくて手を握ることができない。

 

 どうしようこれ、また手を握り締めて歩きたいけど恥ずかしい……けどここは男からいかなくちゃいけないよな、でもがっつきすぎだと思われないか?

 

 俺は悩んだが結局何もできずに唯無言のまま繭さんに合わせて歩く。

 

 あああああ! ちょー気まずい、いったいどうしたらいいんだ!?

 

 ぎゅっ。

 

 「えっ?」

 

 突然繭さんの方から俺の手を握り締めてきた。

 

 思わず繭さんの方を向いたが顔を合わせてくれない。

 

 繭さんは耳まで紅くして空いている方の手は自分のスカートを握り締めている。

 

 繭さんきっとものすごく恥ずかしいんだ、なのに自分から俺の手を握り締めてくるなんて……ちょー嬉しい!

 

 俺はこの子を大事にしようと思った。

 

 …………胡蝶のことを全く思い浮かばなかった。

 

 ……。

 

 暫くゆっくりと歩いていると前から自転車に二人乗りした女の子達がやって来た。

 

 「おーい、兄ちゃーん!」

 「繭姉ちゃーん!」

 

 ヒマワリとツキミソウだ。二人は俺達の目の前で器用に自転車をドリフトさせて止まる。

 

 「おいどうしたんだよお前ら、言っとくけど今日は遊ばないぞ、俺は繭さんと過ごすって決めたんだ」

 「た、大我さん」

 

 繭さんが恥ずかしそうに顔を伏せる。

 

 「えっ、もしかして兄ちゃん達付き合うの? 胡蝶ちゃんは?」

 「ヒマワリ姉ちゃん、とりあえずあとにして、それどころじゃないでしょ?」

 「あっそうだね、ねぇ兄ちゃん妹のボタンを見なかった? 実は昨日の夜からいないみたいなんだ」

 

 ヒマワリに胡蝶について聞かれた時思わず心臓がドキッとしたがそれ以上にマズイことが聞こえた。

 

 「ボタンがいないのか? それは大変だ速く警察に言わないと」

 「でも胡蝶ちゃんが警察にはまだ言うなって」

 「何言ってんだ! 俺達は捜索のプロじゃないんだ早く通報しないと手遅れになるかもしれないんだぞ!?」

 「ひうっ」

 「大我さん落ち着いて、ヒマワリちゃんが怖がってるわ」

 

 繭さんに止められてハッとする、思わずヒマワリにキツく言ってしまった。こいつは悪くないのに。

 

 「ごめんヒマワリ……冷静じゃなかった」

 「ううん、いいよ兄ちゃん、それほどボタンを心配してくれてるってことだから」

 

 とりあえず古家さんにスマホで連絡を取る。

 

 「…………何だって!? 分かった久我君すぐに僕もそっちへ戻る」

 

 古家さんは戻ってくるようだが時間がかかるそうだ、警察への連絡については山木さんにするように頼まれた。

 

 何でもこの町で信用できる警察は山木さんぐらいらしい。その辺の事情については俺は詮索しないことにした。

 

 「さて、ヒマワリとツキミソウお前ら二人は山木さんのところへ行って事情を話してくるんだ」

 「分かった、兄ちゃんはどうするの?」

 「俺は……」

 

 チラリと繭さんを見る。

 

 「大我さん行ってボタンちゃんを探してください……私も後で追い付きますから」

 「繭さんありがとう……俺は古家さんの家に戻ってボタンを探すよ」

 

 そう言って俺は駆け出した。

 

 きっとボタンはまだ屋敷のどこかだ。理由はもし仮にボタンを外の人が拐おうとしても目立ってすぐに見つかってしまう、さらにこの町は山木さん達が巡察しているので治安は良い。

 

 そのことから俺は屋敷に戻って捜索することにする。

 

 ⎯⎯⎯

 

 「ボタンは土蔵だ、急ぐぞ!」

 

 私は急いで部屋を出る。

 

 「……騒がしい」

 「……みんなどうしたの?」

 

 廊下で姉のガマズミとキンセンカに出会った。

 

 「姉貴達ちょうど良かった、土蔵はどこにあるんだ?」

 「……土蔵はこの先の庭にある」

 「……あんなところで何するの?」

 「人探しだ、姉貴私は急いでいるからもう行くよ」

 

 ……。

 

 ガマズミ達の言った通り庭に土蔵が有った。

 

 「胡蝶待ちなさい!」

 「胡蝶お姉ちゃん早いよ」

 

 バラと夢見鳥が私に追い付いた。

 

 「ここにボタンがいる」 

 「なんですって!? こんなところにいるなんてどうして?」

 「ヒガンバナの日記に書いて有った……行くぞ」

 

 重たい土蔵の扉を開けて中へ入る。

 

 「……ひっ、ボタンお姉様!?」

 「きゃあああ!!」

 「うっ、こいつは酷い」

 

 酷い有り様だった。

 

 ボタンは着物が引き裂かれ裸同然のように床に打ち捨てられていた。

 

 「ボタンお姉様っ!」

 「ボタン大丈夫か!?」

 

 慌ててボタンに駆け寄る。夢見鳥は入り口で震えていた。

 

 「もう大丈夫だ…………えっ?」

 

 ボタンを抱き上げる時余りにも体重が軽すぎて驚いた。

 

 それもそのはずボタンは両腕と両足を取られていた。

 

 ボタンはピクリとも反応を示さずに顔は髪の毛で隠れていた。

 

 「あ、あああ……ボタンお姉様ぁ」

 

 バラはショックを受けつつボタンの様子を確かめる為に髪の毛をどかせる。そして気絶してしまった。

 

 「おいバラどうした!? ってうわあああ!」 

 

 ボタンの右目は何かをぶつけらた跡と共に無くなっていた。

 

 「うぷっ……こんなの酷すぎる」

 

 吐き気を覚えると同時にここまでするヒガンバナとスイカズラの姉妹に戦慄する。

 

 「お姉ちゃん……きゃっ!」 

 

 突然入り口にいた夢見鳥が悲鳴をあげる。

 

 「ヒガンバナ! スイカズラ!」

 

 土蔵の側で隠れて私達が入るのを待っていたのかスイカズラが夢見鳥を土蔵の中へ突き飛ばしヒガンバナが扉に手をかけているのが見えた。

 

 「てめぇら、まさか私達をここへ閉じ込める気か? そんなことをしても無駄だぞ!」 

 

 私の叫び声を無視してヒガンバナ達は土蔵の扉を閉める。その後に鍵を閉める音が聞こえた。

 

 畜生閉じ込められた。

 

 「うわあああん、繭ぅ! 胡蝶お姉ちゃぁん!」

 

 夢見鳥が泣きわめく。

 

 「……大我ぁ」

 

 私も泣きたくなった。

 

 ⎯⎯⎯

 

 「はぁはぁ」

 

 全身に何かよく分からない感覚が広がる。

 

 「どうしよう、どうしよう! ヒガンバナお姉様私達どうしたら良いの?」

 

 妹のスイカズラが私に助けを求める。

 

 どうしたら良い? そんなの私が知りたいわ…………やり過ぎた。

 

 私達姉妹はどこで間違えたのだろう?

 

 私は昨夜の出来事を思い出して後悔した。

 

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