58話 「反省する人形」
ヒガンバナとスイカズラの部屋の前へ来た。
「おい、姉貴達いるか?」
声をかけるが返事がない。二人はこの部屋にいないのだろうか。部屋の障子に手をかける。
「ちょっと待ちなさい胡蝶、あなた勝手にお姉様方の部屋へ入るつもり?」
バラが慌てて私の手を掴む。
「そのつもりだ、いいから邪魔するな」
私はそう言って勢いよく障子を開けた。
「うわぁすごい、お姉ちゃん達のお部屋きちんと綺麗にせいとんされてる」
一緒に来た夢見鳥が中を見て感嘆の声を出す。部屋の中央の壁にタンスがあり他には左右に本棚と机が置かれているだけだった。
確かにすごいな……いやそれどころか何か不気味だな。
部屋にある物のほとんどが水平直角に綺麗に整頓されて置かれていて生活感を感じさせない。
「姉貴達はいないみたいだな、今の内にボタンの手がかりがないか探すぞ」
「ダメよ勝手に触ったら!」
騒ぐバラを無視して先ずは本棚を探す。
「えーと何々……」
本棚には図鑑や料理本と医学、語学格闘技その他様々な資料が並んでいる。
「お、これは……」
資料の中に著者『古家亮太郎』と書かれた本があったので手に取ってみる。
「幻想之少女、人形作家古家亮太郎作品集……親父の本だ、しかも結構古いな」
早速ページを開いて見ると儚い雰囲気を漂わせた美しい球体関節人形の少女の写真が載っていた。ページを進めて行くと悔しいが私より美しいんじゃないかと言うような人形も載っていた。
最後に親父の顔写真と共に本を購入してくれたことへの感謝のメッセージが書かれていた。
「うわ、この写真の親父若いな」
「え、お父さんの写真? 夢見鳥にもみせて」
「さっさと見せなさい胡蝶!」
夢見鳥とバラが手懸かりを探すのをやめて写真を見に来る。
「うわぁ、今と全然違うねお父さん」
「ええそうね、若い頃のお父様はハンサムだわ……惚れちゃいそう」
少しマズイ発言が聞こえたがバラの言うとおり親父はハンサムだった。
写真の親父は髪は黒くオールバックにして顔はキリッとしている、しかし残念なことにどこか人をを寄せ付けない雰囲気をだしていた。
「あぁ……親父はモテなかったんじゃなくて本当はハンサム過ぎて女が寄って来なかったんだ」
「お父様、なんて不幸なの……でもお父様に恋人ができなかったから私達が造られたと思うと何だか複雑ね」
本を元の場所に戻して再び捜索を開始する。
……。
「あっ、胡蝶お姉ちゃん見て!」
夢見鳥が突然声を挙げた。
「どうした、何か有ったのか?」
夢見鳥は私に牡丹の花の髪飾りを渡してきた。
「それはボタンお姉様の髪飾り! 一体どこで?」
「えっと、タンスの中で見つけたよバラお姉ちゃん」
私はバラに髪飾りを渡すと夢見鳥が言ったタンスを探った。
他に手懸かりはないかな……ん、なんだこれ……鞭?
出てきたのは黒いひも状の鞭だ。
「胡蝶お姉ちゃん、それ何だか怖いよ」
「ヒガンバナお姉様達の部屋に何でこんなものが?」
「それは分からないがボタンをさらった犯人はきっとヒガンバナとスイカズラの二人だ」
犯人の目星は付いたが二人がボタンをどこへやったのかまだ分からない。
……何か他に手懸かりはねえのか、後もうちょっとなのに。
改めてタンスを探るが他に何も出てこなかった。次に机の引き出しを探ると本が出てきた。本に目を通して見るとそれはヒガンバナの日記だと分かったので読んでみる。
⎯⎯⎯
今日も妹達は言うことを聞かない。いったいどうしてかしら。私達はお父様に完璧な少女として造られたから淑女にならないといけないのに。このままじゃお父様に嫌われてしまう。反省しないと。
今日はスイカズラと一緒にお父様に料理を振る舞った。けど私達は味覚がないからマズイ料理ができたみたい。それをお父様は無理して食べられた。
マズイ料理を振る舞うなんて私達はなんて悪い人形なんだろう。
ここ最近何もうまくいかない。その事に妹のスイカズラも落ち込んでいる。私達は頑張っているのに。さらに今日さりげない会話でお父様の後を心春お姉様が継ぐことを知ってしまった。私達はお父様に期待されていなかった。
もうダメ、耐えられない。何もできない罪悪感でおかしくなりそう。
今日はいいことが有った。お父様に料理を誉められた。きっとあの行いのおかげ。かなり前にお父様のお願いで土蔵を掃除していた時にたまたま出てきた鞭を処分に困って今までもっていた。それを昨日今までの悪い行いを反省するために自分に使った。痛かったけどとても反省できたわ、スイカズラにも反省させたから今日はうまくいって誉められた。今後もこれを続けよう。
…………
……。
最近おかしい。スイカズラとお互いに鞭を体に打ち合って反省していると痛いのに変な気分になる。これじゃあ変態だわ、きっと反省が足りないもっともっと反省しないと。
今日もスイカズラと部屋で鞭を打ち合っているとボタンちゃんが訪れた。何でも私達の部屋を通りかかったら中から私達の苦しそうな声が聴こえたから来たらしい。私達が反省していたことを伝えるとボタンちゃんは驚いて出ていってしまった。次に反省するときは他の妹達も驚かせないように土蔵でしないと。
…………
……。
今日は妹達がお客様に粗相をした。原因はボタンちゃんと胡蝶ちゃんだわ。胡蝶ちゃんは久我様が反省させてくれるけどボタンちゃんは姉である私達が反省させないと。早速ボタンちゃんを土蔵へ連れていくわ。
⎯⎯⎯
私はヒガンバナの日記を読むのをやめる。
「ボタンは土蔵だ、急ぐぞ!」
バラと夢見鳥を連れて土蔵へ向けて走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます